肝臓がんの治療にはさまざまな局所治療の方法があります。今回はカテーテル治療を中心に、多様な選択肢を組み合わせる肝臓がん治療の難しさについて、慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器) 専任講師の板野理先生にお話をうかがいました。
肝臓の出入口である肝門(かんもん)からは門脈(もんみゃく)と肝動脈(かんどうみゃく)という2つの大きな血管が肝臓内へ入っています。門脈は太い静脈で、腸や脾臓(ひぞう)から栄養分を取り込んだ静脈血を肝臓へ運んでいます。肝動脈は酸素をたくさん含んだ動脈血を大動脈から直接肝臓へ送り込んでいます。肝臓へ流入する全血液量の70%は門脈血、30%が動脈血です。これら2種類の血液は肝臓内で合流したあとに、類洞(るいどう)と呼ばれる毛細血管を通って細胞へ栄養素を送り届け、さまざまな物質代謝をした後で下大静脈を経て心臓へ戻ります。
肝臓はこのように門脈と動脈の二重支配になっており、血流が豊富であるため、肝細胞がんにはカテーテル治療が非常によく効きます。腫瘍に栄養を供給している肝動脈にカテーテルを挿入し、塞栓物質や抗がん剤を流す方法で、これを肝動脈塞栓療法(TAE)といいます。がん細胞は主に動脈から栄養分をとっていますが、正常な細胞は動脈と門脈の両方から栄養をとれるため、TAEによってがん細胞のみを攻撃することができます。
実際、カテーテル治療だけで肝細胞がんが治ってしまうことも珍しくありません。トータルでは治る率が3〜4割で、6割程度が再発しますが、ひとつひとつの腫瘍できちんと治療ができたと確認ができているケースであれば、8〜9割はカテーテル治療で治せる場合があります。ただし、成功するかどうかはやってみないと分からないという部分があります。ラジオ波焼灼の場合に、焼灼イコール腫瘍細胞の死滅とは限らないのと同じように、カテーテル治療で薬剤が腫瘍に目一杯入ったからといって、すべての腫瘍細胞を殺したということではないので、ある一定のパーセンテージ(確率)で再発してきます。
このように、肝臓という臓器には非常に特殊性があり、治療法も数種類あります。どういった場合にどの治療法を使うかを考えるためには、すべての治療法に精通していなければなりません。どの治療法においてもある程度経験が必要で、それが難しい点でもあります。私たち肝胆膵外科グループのスタッフでも、たとえば切除はできてもラジオ波焼灼は自分で行ったことがないという者はいますし、カテーテル治療もあまり経験はできません。
欧米ではマイナーな方法ですが、日本では肝動注(肝動脈内注入療法)という方法があります。動脈を塞いでしまうわけではないのですが、持続的に抗がん剤を流し込むという化学療法です。これもそれなりに効果がある治療法なのですが、聞いたことがあっても自分で経験したことがなければ治療の組み合わせ思いつくことができません。内科の医師も同様に、肝切除の経験がないわけですから、切除はどこまで可能で、術後のダメージはどれくらいであるかなど、具体的にイメージすることができません。そのため、手術を実際以上に大ごとのようにとらえてしまい、外科に回すのをためらうということもあり得るのです。
最近ではそれに加えて腹腔鏡手術という選択肢があるので、それが開腹手術に比べてどのようなメリット・デメリットがあるのかということになると、外科の中でさえ経験のない医師には分からない部分があります。ましてや内科の医師ともなればなおのことです。このように治療が細分化・複雑化しているので、トータルケアとしてひとりの患者さんをいろいろな方法で診られる医師というのは、全国でも少ないのではないかと思います。各領域の専門家同士で情報交換をしているような施設でないと、なかなか難しいのではないでしょうか。
国際医療福祉大学 教授
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医・学会幹事日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)日本肝臓学会 肝臓専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本移植学会 移植認定医日本消化器内視鏡学会 会員日本癌学会 会員日本癌治療学会 会員日本大腸肛門病学会 会員日本消化器病学会 会員日本胆道学会 評議員・認定指導医日本腹部救急医学会 会員
慶應義塾大学医学部卒業後、永寿総合病院外科 部長 内視鏡手術センター長、慶應義塾大学病院一般・消化器外科 専任講師を経て、2017年4月からは成田に開学する国際医療福祉大学医学部 消化器外科の主任教授を務める。應義塾大学病院では肝胆膵・移植グループのチーフとして診療に携わるとともに、同大学医学部内視鏡手術トレーニングセンターのディレクターとして、内視鏡手術のエキスパート育成に尽力してきた。今後は同病院の特任准教授として内視鏡手術トレーニングのプログラムに関わりつつ、国際医療福祉大学の特色を生かし同トレーニングプログラムの海外展開も視野にいれている。
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