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インタビュー

カテーテル治療とは-肝細胞がんの局所治療(2)

カテーテル治療とは-肝細胞がんの局所治療(2)
板野 理 先生

国際医療福祉大学 教授

板野 理 先生

この記事の最終更新は2015年12月10日です。

肝臓がんの治療にはさまざまな局所治療の方法があります。今回はカテーテル治療を中心に、多様な選択肢を組み合わせる肝臓がん治療の難しさについて、慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器) 専任講師の板野理先生にお話をうかがいました。

肝臓の出入口である肝門(かんもん)からは門脈(もんみゃく)と肝動脈(かんどうみゃく)という2つの大きな血管が肝臓内へ入っています。門脈は太い静脈で、腸や脾臓(ひぞう)から栄養分を取り込んだ静脈血を肝臓へ運んでいます。肝動脈は酸素をたくさん含んだ動脈血を大動脈から直接肝臓へ送り込んでいます。肝臓へ流入する全血液量の70%は門脈血、30%が動脈血です。これら2種類の血液は肝臓内で合流したあとに、類洞(るいどう)と呼ばれる毛細血管を通って細胞へ栄養素を送り届け、さまざまな物質代謝をした後で下大静脈を経て心臓へ戻ります。

肝臓はこのように門脈と動脈の二重支配になっており、血流が豊富であるため、肝細胞がんにはカテーテル治療が非常によく効きます。腫瘍に栄養を供給している肝動脈にカテーテルを挿入し、塞栓物質や抗がん剤を流す方法で、これを肝動脈塞栓療法(TAE)といいます。がん細胞は主に動脈から栄養分をとっていますが、正常な細胞は動脈と門脈の両方から栄養をとれるため、TAEによってがん細胞のみを攻撃することができます。

実際、カテーテル治療だけで肝細胞がんが治ってしまうことも珍しくありません。トータルでは治る率が3〜4割で、6割程度が再発しますが、ひとつひとつの腫瘍できちんと治療ができたと確認ができているケースであれば、8〜9割はカテーテル治療で治せる場合があります。ただし、成功するかどうかはやってみないと分からないという部分があります。ラジオ波焼灼の場合に、焼灼イコール腫瘍細胞の死滅とは限らないのと同じように、カテーテル治療で薬剤が腫瘍に目一杯入ったからといって、すべての腫瘍細胞を殺したということではないので、ある一定のパーセンテージ(確率)で再発してきます。

このように、肝臓という臓器には非常に特殊性があり、治療法も数種類あります。どういった場合にどの治療法を使うかを考えるためには、すべての治療法に精通していなければなりません。どの治療法においてもある程度経験が必要で、それが難しい点でもあります。私たち肝胆膵外科グループのスタッフでも、たとえば切除はできてもラジオ波焼灼は自分で行ったことがないという者はいますし、カテーテル治療もあまり経験はできません。

欧米ではマイナーな方法ですが、日本では肝動注(肝動脈内注入療法)という方法があります。動脈を塞いでしまうわけではないのですが、持続的に抗がん剤を流し込むという化学療法です。これもそれなりに効果がある治療法なのですが、聞いたことがあっても自分で経験したことがなければ治療の組み合わせ思いつくことができません。内科の医師も同様に、肝切除の経験がないわけですから、切除はどこまで可能で、術後のダメージはどれくらいであるかなど、具体的にイメージすることができません。そのため、手術を実際以上に大ごとのようにとらえてしまい、外科に回すのをためらうということもあり得るのです。

最近ではそれに加えて腹腔鏡手術という選択肢があるので、それが開腹手術に比べてどのようなメリット・デメリットがあるのかということになると、外科の中でさえ経験のない医師には分からない部分があります。ましてや内科の医師ともなればなおのことです。このように治療が細分化・複雑化しているので、トータルケアとしてひとりの患者さんをいろいろな方法で診られる医師というのは、全国でも少ないのではないかと思います。各領域の専門家同士で情報交換をしているような施設でないと、なかなか難しいのではないでしょうか。

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