インタビュー

肝内胆管がん治療の進歩を目指す兵庫県立粒子線医療センターの取り組み

肝内胆管がん治療の進歩を目指す兵庫県立粒子線医療センターの取り組み
寺嶋 千貴 先生

兵庫県立粒子線医療センター 医療部放射線科長兼放射線科部長

寺嶋 千貴 先生

目次
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粒子線治療には重粒子線治療と陽子線治療があり、兵庫県立粒子線医療センターではその両方の治療を受けられます。同センターは、なるべく安全に効果の高い粒子線治療を提供すべく、さまざまな取り組みを行っています。今回は、兵庫県立粒子線医療センター 放射線科長の寺嶋 千貴(てらしま かずき)先生に、同センターの肝内胆管がんに対する粒子線治療の特徴や今後の展望などについてお話を伺いました。

当センターでは、粒子線治療の副作用に注意しながら、患者さんの病状に合わせた治療を提供できるよう、念入りな準備を行っています。ここでは、初診から治療までの流れに沿って、当センターの粒子線治療の特徴について解説します。

初診――オンライン診療も可能

当センターの受診にあたっては、主治医の先生からあらかじめ紹介状や診察資料を送っていただく必要があります。事前に申し込んでいただければ、初診をオンライン診療で行うことも可能です。またセカンドオピニオンもオンライン診療で受けていただくことが可能です*。初診時には紹介元の主治医の先生の下で受けられた検査結果などをもとに治療の適格性を判断し、適応となる場合には開始時期を検討します。

*セカンドオピニオンは自費診療(保険適用外)・完全予約制となります。受診中の医療機関の診療情報をもとにご面談のうえ、現在の治療方法についての意見をご提示します。治療や検査は行いません。当センターでのオンライン診療の場合、30分以内は16,500円(税込)、それ以降は15分毎に3,950円(税込)が加算されます。診療時間には、資料や画像を確認する診察準備時間や、主治医への手紙の作成時間も含まれます。

治療準備(1)――カテーテルによる金属マーカーの留置で合併症リスクを低減

肝臓は、呼吸や消化管の蠕動(ぜんどう)などの影響を受け、絶えず動いています。そのため肝内胆管がんの粒子線治療では、粒子線をより正確な位置に照射できるよう、事前に目印となる金属マーカーをがん組織の近くに埋め込んでおく必要があります。

金属マーカーの留置方法には、皮膚から針を刺して留置する“経皮マーカー留置術”と太ももの付け根の動脈からカテーテルを挿入して留置する“経動脈マーカー留置術”があり、当センターでは安全性を考慮し、多くの場合、経動脈マーカー留置術を行います。

治療準備(2)――がんと消化管の間に吸収性組織スペーサーを留置する場合も

がんと消化管が近接していて安全な粒子線治療が困難と考えられる場合には、粒子線治療の前にスペーサー留置手術を検討する場合があります。がんと消化管の間にスペーサーという人工物を置くことで、消化管への副作用を抑えながら、より強力な粒子線の照射が可能になります。このときに使用するスペーサーはすでに臨床で使われ、保険適用にもなっている“吸収性スペーサー”です。これは体内に留置すると約2か月で吸収され消失するため、従来使用されていた体内に永久に残り続けるスペーサーよりも粒子線治療後の痛みや不快感が少なくて済みますし、取り出すための再手術も必要ありません。

先方提供
スペーサー留置

治療準備(3)――そのほかの準備

そのほかの治療前準備としては以下のようなことを行います。

  • 患者さんの体に合わせた固定具の作製
  • 造影CT・造影MRIの検査画像に基づく治療計画
  • 患者さんへの治療計画の説明と治療リハーサルの実施

粒子線照射開始――陽子線・重粒子線の治療の流れは同じ

粒子線治療は決められた総線量を複数日に分割して照射します。肝内胆管がんの場合、分割回数は10回もしくは20回となります。毎日の照射開始前には、正確に照射できるよう、位置合わせが必要です。当センターにおける毎日の照射に必要な所要時間は、位置合わせを含め30~40分ほどです。

当センターでは陽子線治療と重粒子線治療のいずれも実施しており、治療前準備や治療の流れ、照射時間などはほぼ同じです。治療は病状に応じて入院・通院のどちらも可能です。治療中は副作用の有無の確認や治療効果の判定のため、定期的に検査、診察を行い、必要に応じて治療計画を見直します。

当センターでは、粒子線治療と全身化学療法(抗がん薬による全身療法)を同時併用し、粒子線治療の治療効果の増強と遠隔転移(別の臓器や器官への転移)の予防を目指しています。また、肝動注化学療法*を同時に行う場合もあります。肝内胆管がんは転移が多く、局所的な治療だけでは治りきらないことがあるため、複数の治療法を組み合わせた集学的治療が重要だと考えています。手術、粒子線治療、薬物療法などを組み合わせた集学的治療のさらなる進展に期待しています。

さらに、当センターでは、2022年12月に保険適用となった免疫チェックポイント阻害薬**であるデュルバルマブを粒子線治療の後に投与することで、アブスコパル効果***による粒子線治療の局所治療効果の増強と遠隔転移の予防を狙う臨床試験を計画しています。

*肝動注化学療法:カテーテルを用いて抗がん薬を肝臓もしくはがん組織だけに注入する治療法

**免疫チェックポイント阻害薬:免疫(体外から侵入した異物を攻撃して体を守るしくみ)のがん細胞への攻撃力を維持させる薬。

***アブスコパル効果:放射線治療によってがん組織に対する全身の免疫反応を活性化し、放射線治療によるDNA損傷とは異なる機序である細胞性免疫効果によってがんを攻撃する効果。

これまでの肝内胆管がんの治療では、手術ができなければ残された選択肢は根治療法とはいえない薬物療法のみで、治療効果は不十分と言わざるを得ませんでした。しかし近年、粒子線治療が保険適用になったことで、手術と薬物療法の間を埋めるような治療を選択できるようになったのです。今後は、手術ができなくても粒子線治療で根治を目指せる患者さんが増えるのではないかと期待しています。

PIXTA
写真:PIXTA

当センターは2023年7月現在、国内で唯一、肝内胆管がんに対する重粒子線治療と陽子線治療の両方を実施している医療施設です。だからこそ、研究と臨床の両面から肝内胆管がんの治療の進歩に寄与することを目指しており、重粒子線と陽子線の使い分けを含め、臨床的な成果を積極的に発信する役割を担うべきだと考えています。臨床研究を継続的に行い、治療成績や副作用など、統計的な報告を論文という形で世界に発信する。そして、臨床を軸としたとして患者さん一人ひとりに丁寧な治療を行う。この両方を日々積み重ねていきます。

臨床においては、患者さん一人ひとりの命を大切に、 “今日できることを明日に先延ばししてはならない”と肝に銘じながら、患者さんに向き合っています。そのような診療の積み重ねを研究にも生かし、より多くの命を救えるような治療の進展につなげていければと思っています。

長年、先進医療だった粒子線治療がようやく保険適用になり、粒子線治療施設も増えつつあり、より多くの患者さんに根治療法としての粒子線治療を提供できる環境が整ってきました。がん治療は手術、薬物療法、放射線療法が3本柱とされていますが、放射線療法、中でも粒子線治療は専門性が高い分野であり、情報発信が遅れている分野でもあります。保険適用により集学的治療にも取り組みやすくなっておりますので、どのような症例でも、お困りの際には気軽にご相談いただければと思います。

当センターは、粒子線治療を専門とする病院であると同時に、約50床の入院病棟を持ち、がん緩和医療にも取り組む臨床病院でもあります。患者さん一人ひとりの考え方や生き方を尊重し、それぞれに合った粒子線治療を含めた治療環境を提供しようと努力しており、粒子線治療に限らず、がん治療全般について広く患者さんやご家族の相談に応えていきたいと考えています。スタッフ一同、お一人お一人の顔を思い浮かべながら治療計画やカンファレンスを行い、丁寧な治療に努めていますので安心して受診いただければと思います。

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  • 兵庫県立粒子線医療センター 医療部放射線科長兼放射線科部長

    寺嶋 千貴 先生

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