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インタビュー

肝臓がん(肝がん)とはどんな病気?わかりやすく説明します

肝臓がん(肝がん)とはどんな病気?わかりやすく説明します
古瀬 純司 先生

杏林大学医学部腫瘍内科学教室 教授

古瀬 純司 先生

この記事の最終更新は2015年05月09日です。

肝がん(肝臓がん)は、肝臓からできるもの(原発性)と他の臓器のがんが移ってきてできるもの(転移性)の2つに分けられます。

原発性肝がんは肝細胞がん肝内胆管がんなどの種類に分けられますが、大部分は肝細胞がんです。肝細胞がんはC型肝炎B型肝炎の患者さんなどに起きやすいがんで、他には大量の飲酒によって、また飲酒と関係なく脂肪肝などによってもできることがあります。
一方で、肝臓は血液の流れが豊富なため、他の臓器のがんが血液の流れに乗って移ってくる、いわゆる“転移によるがん”(転移性肝がん)が起きやすい臓器の一つです。

このように肝臓がんは、原発性肝がん(肝細胞がん、肝内胆管がん、など)と転移性肝がんの大きく2つに分けられます。ここでは、原発性肝がんのほとんどを占める肝細胞がんについて説明します。

肝臓の構造

肝臓の細胞に由来する悪性腫瘍で、原発性肝がんの約95%を占めます。ほとんどの肝細胞がんウイルス性(B、C型肝炎)の慢性肝炎肝硬変などの慢性疾患を背景にして発生しています。B型、C型肝炎ウイルスを持つ方は特に注意が必要で、定期的に検査を行うことが重要です。

日本における肝細胞がんの最大の原因はC型肝炎ウイルスであり、70%弱を占めています。B型肝炎ウイルスを含めると、肝炎ウイルスによって発生する肝細胞がんの割合は90%にものぼります。

また原因を問わず、肝細胞がんが発生する元にはほとんどの場合、慢性の肝障害が存在します。この慢性の肝障害をきたす原因として、(肝炎ウイルス以外では)アルコール多飲、脂肪肝などがあります。

肝細胞がん自体が初期の場合は特別な症状を引き起こすことはありません。

ただし、がんが進行してくると、症状があらわれます。がんの進行に伴い、肝臓の正常部分が減ってくると肝機能の低下を引き起こし、それに伴う症状がでてきます。また、肝細胞がんの元である肝硬変が進行して肝機能の障害が進み、症状がでてくることもあります。

  • 肝内病変の進行による圧迫感、腹部膨慢感、疼痛
  • 肝表面の病変では肝破裂による突然の腹痛や腹腔内出血を認める場合がある。大量出血ではショック状態となることがある
  • 肝外転移による症状として、骨転移など転移部位の疼痛、脊椎転移による神経症状、肺転移による咳や呼吸困難などの症状、など

肝細胞がん自体の症状はなくても、肝硬変が進行したことによる症状には以下のようなものがあります。

  • 倦怠感
  • 黄疸
  • 腹水
  • 食道胃静脈瘤(食道や胃の血管が膨らんでこぶ状になった状態)の破裂による出血

肝細胞がんは他のがんに比べ、症状が出にくく、診断がとても難しい病気です。

したがって、C型肝炎ウイルスB型肝炎ウイルス、肝硬変、その他肝疾患を持つ患者さんにとって、定期的な検診は欠かせません。たとえずっと何も見つからなかったとしても、検診に通い続けることが重要です。5年、10年大丈夫だったからもう大丈夫、というわけではありません。検診は一生続けましょう。

実際、C型またはB型肝炎ウイルスを持つ患者さんを定期的に診察する中で肝細胞がんを早期に見つけることができています。検診を受ける頻度の目安は次の通りです。

  • C型またはB型肝炎ウイルスを持つ肝硬変の方

肝細胞がんになるリスクが非常に高いので、3ヶ月に1回の超音波検査、1年に1回のCTまたはMRIによる検査が推奨されています。

  • C型またはB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、またはウイルス性でない肝硬変の方

半年に1度程度の超音波検査、2年に1回程度のCTまたはMRIによる検査が推奨されています。

肝細胞がんを発見するために行う検査には次のようなものがあります。

腹部超音波検査(ふくぶちょうおんぱけんさ)は、簡単に受けることができて、身体への負担が少ない検査です。検診や肝硬変や慢性肝炎の患者さんを定期的に検査するのに有用です。超音波で肝臓内に異常な影(病変)を検出した場合、さまざまな腫瘍との区別が必要です。一般的に2cmより大きい病変は、肝細胞がんでしか見られないような超音波画像が見られますが、小さい場合は超音波検査だけで診断することは困難です。

腹部造影(ふくぶぞうえい)CTは、造影剤を静脈注射しながらCTを撮影する検査です。造影剤は血流に乗って肝臓内に入っていき、血流の多さに応じて腫瘍と正常の肝臓の映り方が違ってきます。肝細胞がんの多くは血流が多い腫瘍であり、周囲の肝臓に比べて濃く染まって映ってきます。超音波検査に比べると煩雑であり、造影剤の副作用や被爆の問題もあるため、診断を確定するためなど、詳しく調べる時にのみ用いられます。MRI検査も造影剤を使って、詳しい診断のために用いられます。

肝細胞がんが発生すると、血液検査でAFP(アルファフェトプロテイン),PIVKA-Ⅱ(ピブカツー)という項目の検査値が上昇します。ただし、早期の段階では検査値が上昇していないことが多いため、肝細胞がんの発見のためではなく、肝細胞がんの治療経過を追跡するために用いられます。

※腫瘍マーカー:がん細胞から多く産生され、血液内に出てくる物質です。血液中の値を測定して変化をみることにより、治療の効果や腫瘍の進行を推測します

肝細胞がんの治療については、“肝臓の機能”と“がんの進行度”の両方を評価した上で治療法が決められます。

具体的には

  • 肝臓の障害度(A:良好、B:中等度良好、C:不良)
  • 腫瘍の数
  • 腫瘍の大きさ

などを参考に治療方針が決められます。

治療法の決定の仕方は下図のような順序で行われます。

肝機能の障害が軽く、肝臓内の腫瘍が1つ、あるいは3つ以内の場合に選択されます。肝臓の腫瘍を含めて肝臓の一部を切除する手術です。

ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)という方法が主に用いられます。これは、皮膚の上から肝臓内の腫瘍(がん)に電極針を刺して、ラジオ波という高周波を流すことで針の周囲に熱を発生させて“がんを焼いてしまう(焼灼)”治療法です。腫瘍の大きさが3㎝以内かつ3個以下が基本的な適応になります。焼かれたがん細胞は、細胞の機能が失われるために、間もなく死滅します。外科的手術と同じ程度の効果が期待できる治療法です。

肝動脈化学塞栓(かんどうみゃくかがくそくせんりょうほう)療法(TACE)は、主に肝臓内の腫瘍が4個以上の場合に用いられる治療法です。

他の臓器とは異なり、門脈と肝動脈という異なる2種類の血液から栄養を受けているのが肝臓です。肝臓は、このうち主に門脈からの血液で栄養を受けていて、肝動脈からの血流の割合は20%程度しかありません。肝細胞がんはその反対で、門脈の血液で栄養を受けることはなく、肝動脈からの血液から栄養を得ています。

この特性を利用し、肝細胞がんの主な栄養源である肝動脈の血液を、特殊な技術で一部止めてしまうのが塞栓(そくせん)療法です。

肝動脈の血流を止めた場合、肝臓自体も少しダメージを受けますが、門脈があれば大丈夫です。しかし肝臓がんは、肝動脈が止まると栄養源を絶たれて、やがて死滅します。この塞栓療法の際に肝細胞がんに効く抗がん剤を併用する場合を肝動脈化学塞栓療法といいます。

塞栓術は、足の付け根からカテーテルという細いチューブを入れて行います。

肝臓がんの大きさや個数、肝機能の障害が原因で手術やラジオ波焼灼療法が難しい場合でも、肝動脈塞栓術を行えることがあります。手術やラジオ波焼灼治療に比べると治療効果はやや劣りますが、肝動脈塞栓術は進行した患者さんにも行える治療法です。

高度の肝障害があり、他の治療が困難な場合、腫瘍が1個で腫瘍の大きさが5cm以下、あるいは腫瘍が2-3個で3cm以下ならば肝移植を検討します。

ソラフェニブは、肝機能が良好な肝細胞がんの患者さんに対して、唯一の延命効果が確認された薬剤です。手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓療法が無効であるか、できない場合に選択します。肝機能が不良な場合は副作用も強く発現し、効果も期待できないため、使用しません。

肝動注化学療法(かんどうちゅうかがくりょうほう)は、肝動脈にカテーテルを挿入して、抗がん剤を注入する方法です。肝臓内に高い濃度の抗がん剤を注入することで腫瘍への強い効果を期待する治療です。日本で広く行われ、ガイドラインにも記載されていますが、これまで延命効果は証明されていません。

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