
肝がん(肝臓がん)は、肝臓からできるもの(原発性)と他の臓器のがんが移ってきてできるもの(転移性)の2つに分けられます。
原発性肝がんは肝細胞がんと肝内胆管がんなどの種類に分けられますが、大部分は肝細胞がんです。肝細胞がんはC型肝炎やB型肝炎の患者さんなどに起きやすいがんで、他には大量の飲酒によって、また飲酒と関係なく脂肪肝などによってもできることがあります。
一方で、肝臓は血液の流れが豊富なため、他の臓器のがんが血液の流れに乗って移ってくる、いわゆる“転移によるがん”(転移性肝がん)が起きやすい臓器の一つです。
このように肝臓がんは、原発性肝がん(肝細胞がん、肝内胆管がん、など)と転移性肝がんの大きく2つに分けられます。ここでは、原発性肝がんのほとんどを占める肝細胞がんについて説明します。
肝臓の細胞に由来する悪性腫瘍で、原発性肝がんの約95%を占めます。ほとんどの肝細胞がんはウイルス性(B、C型肝炎)の慢性肝炎や肝硬変などの慢性疾患を背景にして発生しています。B型、C型肝炎ウイルスを持つ方は特に注意が必要で、定期的に検査を行うことが重要です。
日本における肝細胞がんの最大の原因はC型肝炎ウイルスであり、70%弱を占めています。B型肝炎ウイルスを含めると、肝炎ウイルスによって発生する肝細胞がんの割合は90%にものぼります。
また原因を問わず、肝細胞がんが発生する元にはほとんどの場合、慢性の肝障害が存在します。この慢性の肝障害をきたす原因として、(肝炎ウイルス以外では)アルコール多飲、脂肪肝などがあります。
肝細胞がん自体が初期の場合は特別な症状を引き起こすことはありません。
ただし、がんが進行してくると、症状があらわれます。がんの進行に伴い、肝臓の正常部分が減ってくると肝機能の低下を引き起こし、それに伴う症状がでてきます。また、肝細胞がんの元である肝硬変が進行して肝機能の障害が進み、症状がでてくることもあります。
肝細胞がん自体の症状はなくても、肝硬変が進行したことによる症状には以下のようなものがあります。
肝細胞がんは他のがんに比べ、症状が出にくく、診断がとても難しい病気です。
したがって、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、肝硬変、その他肝疾患を持つ患者さんにとって、定期的な検診は欠かせません。たとえずっと何も見つからなかったとしても、検診に通い続けることが重要です。5年、10年大丈夫だったからもう大丈夫、というわけではありません。検診は一生続けましょう。
実際、C型またはB型肝炎ウイルスを持つ患者さんを定期的に診察する中で肝細胞がんを早期に見つけることができています。検診を受ける頻度の目安は次の通りです。
肝細胞がんになるリスクが非常に高いので、3ヶ月に1回の超音波検査、1年に1回のCTまたはMRIによる検査が推奨されています。
半年に1度程度の超音波検査、2年に1回程度のCTまたはMRIによる検査が推奨されています。
肝細胞がんを発見するために行う検査には次のようなものがあります。
腹部超音波検査(ふくぶちょうおんぱけんさ)は、簡単に受けることができて、身体への負担が少ない検査です。検診や肝硬変や慢性肝炎の患者さんを定期的に検査するのに有用です。超音波で肝臓内に異常な影(病変)を検出した場合、さまざまな腫瘍との区別が必要です。一般的に2cmより大きい病変は、肝細胞がんでしか見られないような超音波画像が見られますが、小さい場合は超音波検査だけで診断することは困難です。
腹部造影(ふくぶぞうえい)CTは、造影剤を静脈注射しながらCTを撮影する検査です。造影剤は血流に乗って肝臓内に入っていき、血流の多さに応じて腫瘍と正常の肝臓の映り方が違ってきます。肝細胞がんの多くは血流が多い腫瘍であり、周囲の肝臓に比べて濃く染まって映ってきます。超音波検査に比べると煩雑であり、造影剤の副作用や被爆の問題もあるため、診断を確定するためなど、詳しく調べる時にのみ用いられます。MRI検査も造影剤を使って、詳しい診断のために用いられます。
肝細胞がんが発生すると、血液検査でAFP(アルファフェトプロテイン),PIVKA-Ⅱ(ピブカツー)という項目の検査値が上昇します。ただし、早期の段階では検査値が上昇していないことが多いため、肝細胞がんの発見のためではなく、肝細胞がんの治療経過を追跡するために用いられます。
※腫瘍マーカー:がん細胞から多く産生され、血液内に出てくる物質です。血液中の値を測定して変化をみることにより、治療の効果や腫瘍の進行を推測します
肝細胞がんの治療については、“肝臓の機能”と“がんの進行度”の両方を評価した上で治療法が決められます。
具体的には
などを参考に治療方針が決められます。
治療法の決定の仕方は下図のような順序で行われます。
肝機能の障害が軽く、肝臓内の腫瘍が1つ、あるいは3つ以内の場合に選択されます。肝臓の腫瘍を含めて肝臓の一部を切除する手術です。
ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)という方法が主に用いられます。これは、皮膚の上から肝臓内の腫瘍(がん)に電極針を刺して、ラジオ波という高周波を流すことで針の周囲に熱を発生させて“がんを焼いてしまう(焼灼)”治療法です。腫瘍の大きさが3㎝以内かつ3個以下が基本的な適応になります。焼かれたがん細胞は、細胞の機能が失われるために、間もなく死滅します。外科的手術と同じ程度の効果が期待できる治療法です。
肝動脈化学塞栓(かんどうみゃくかがくそくせんりょうほう)療法(TACE)は、主に肝臓内の腫瘍が4個以上の場合に用いられる治療法です。
他の臓器とは異なり、門脈と肝動脈という異なる2種類の血液から栄養を受けているのが肝臓です。肝臓は、このうち主に門脈からの血液で栄養を受けていて、肝動脈からの血流の割合は20%程度しかありません。肝細胞がんはその反対で、門脈の血液で栄養を受けることはなく、肝動脈からの血液から栄養を得ています。
この特性を利用し、肝細胞がんの主な栄養源である肝動脈の血液を、特殊な技術で一部止めてしまうのが塞栓(そくせん)療法です。
肝動脈の血流を止めた場合、肝臓自体も少しダメージを受けますが、門脈があれば大丈夫です。しかし肝臓がんは、肝動脈が止まると栄養源を絶たれて、やがて死滅します。この塞栓療法の際に肝細胞がんに効く抗がん剤を併用する場合を肝動脈化学塞栓療法といいます。
塞栓術は、足の付け根からカテーテルという細いチューブを入れて行います。
肝臓がんの大きさや個数、肝機能の障害が原因で手術やラジオ波焼灼療法が難しい場合でも、肝動脈塞栓術を行えることがあります。手術やラジオ波焼灼治療に比べると治療効果はやや劣りますが、肝動脈塞栓術は進行した患者さんにも行える治療法です。
高度の肝障害があり、他の治療が困難な場合、腫瘍が1個で腫瘍の大きさが5cm以下、あるいは腫瘍が2-3個で3cm以下ならば肝移植を検討します。
ソラフェニブは、肝機能が良好な肝細胞がんの患者さんに対して、唯一の延命効果が確認された薬剤です。手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓療法が無効であるか、できない場合に選択します。肝機能が不良な場合は副作用も強く発現し、効果も期待できないため、使用しません。
肝動注化学療法(かんどうちゅうかがくりょうほう)は、肝動脈にカテーテルを挿入して、抗がん剤を注入する方法です。肝臓内に高い濃度の抗がん剤を注入することで腫瘍への強い効果を期待する治療です。日本で広く行われ、ガイドラインにも記載されていますが、これまで延命効果は証明されていません。
杏林大学医学部腫瘍内科学教室 教授
杏林大学医学部腫瘍内科学教室 教授
日本内科学会 認定医・内科指導医日本膵臓学会 評議員・認定指導医日本臨床腫瘍学会 協議員・暫定指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本癌治療学会 会員日本癌学会 会員日本胆道学会 会員JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ) 肝胆膵グループ代表
千葉大学で門脈亢進症など肝疾患の臨床と研究に従事する。その後、国立がんセンター東病院にて15年半、肝胆膵がんの診療と研究に携わる。1990年代は超音波診断、IVR等の仕事を主体としていたが、1990年代後半から化学療法や化学放射線療法を積極的に取り組む。2008年3月より杏林大学医学部に移動し、腫瘍内科学教室を立ち上げ、現在に至る。新規治療開発や臨床試験の研究グループなどネットワークの組織作りなど、がん治療の進歩に貢献すべく取り組んでいる。
古瀬 純司 先生の所属医療機関
周辺で肝がんの実績がある医師
医療法人社団 藤﨑病院 理事長 院長
内科、血液内科、外科、脳神経外科、消化器外科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、リハビリテーション科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、肝胆膵外科、肛門外科、放射線診断科
東京都江東区南砂1丁目25-11
都営新宿線「西大島」都営バス 門前仲町行き(都07)、葛西橋または葛西車庫行き(草28) 境川下車 徒歩3分 バス、JR中央・総武線「亀戸」都営バス 葛西駅行き(亀29)、門前仲町行き(都07)など 境川下車 徒歩3分 バス
武蔵野赤十字病院 名誉院長
内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器科、呼吸器外科、消化器科、腎臓内科、循環器科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、内分泌科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、緩和ケア内科、腫瘍内科、感染症内科、代謝内科、膠原病内科、頭頸部外科、総合診療科、病理診断科
東京都武蔵野市境南町1丁目26-1
JR中央線(快速)「武蔵境」南口 小田急バス、ムーバス(境南東循環):武蔵野赤十字病院下車 徒歩10分
東京医科大学八王子医療センター 消化器外科・移植外科
内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、腫瘍内科、感染症内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、代謝内科、脳神経内科、老年内科、頭頸部外科、総合診療科、病理診断科
東京都八王子市館町1163
JR中央本線(東京~塩尻)「高尾」南口 京王バス 医療センター経由館ケ丘団地行き 医療センター下車 京王電鉄高尾線も利用可能 バス7分、JR横浜線「八王子みなみ野」無料シャトルバス運行 バス
JR東京総合病院 院長
内科、血液内科、リウマチ科、外科、精神科、脳神経外科、呼吸器外科、消化器外科、腎臓内科、小児科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、呼吸器内科、循環器内科、緩和ケア内科、腫瘍内科、消化器内科、糖尿病内科、内分泌内科、膠原病内科、脳神経内科、血管外科、総合診療科
東京都渋谷区代々木2丁目1-3
都営大江戸線「新宿」A1出口 京王新線・都営新宿線も利用可 徒歩1分、JR山手線「新宿」南改札・甲州街道改札・新南改札 徒歩5分、JR山手線「代々木」北口 徒歩5分、小田急線「新宿」南口改札 徒歩5分
江東病院 元院長、日本赤十字社医療センター 名誉院長、東京大学 名誉教授
内科、膠原病リウマチ内科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、腎臓内科、小児科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、脳神経内科、美容皮膚科、総合診療科
東京都江東区大島6丁目8-5
都営新宿線「大島」A2出口 徒歩1分、JR総武本線「亀戸」 車5分
関連の医療相談が10件あります
脇腹の違和感及び左下腹部の鈍痛
一週間ほど前から左右の脇腹(肋骨のあたり)や右の腰の骨辺りで突っ張るような違和感が続いていましたが、昨晩、左下腹部に鈍痛が発生して暫く続きました。痛みの強さはそれほど大きくはなかったですが、鈍痛が発生しているときに痛む箇所を抑えたところ右下腹部と比べて張りがありました。抑えても痛みが強くなることはありませんでした。 今は鈍痛は収まり違和感も少なくなりましたが、どのような病気が考えられますでしょうか? 尿検査キットを持っていますので調べましたがタンパクは±でした。糖尿と血尿は-でした。 便は普通の色で血便や下痢はありませんが、最近ガスが良く出るのが気になっていました。 発熱や吐き気などその他の症状はありません。 数年前に憩室炎と右側の尿管結石を発症したことがあります。 どうぞよろしくお願いいたします。
今朝起床時より突然強いめまいが起き思うよりに動けません
今朝、起きようとして左頭上に置いた携帯電話を取ろうと寝たまま頭を左上に向けたところ突然、めまいが起きて頭は動いていないのに景色がグルグル回り出しました。このような強いめまいが起きたことはいままでになかったので、どうしたらいいか分からず頭を押さえたり、目をつぶってみたり、頭を動かさないようにめまいがおさまるのを待っていましたが、なかなか目眩がおさまりませんでした。寝ているわけにもいかないため起きましたが、少し動いただけでもめまいが始まることが多く、目が回らないように体の動きに気をつけていたのですが、いつめまいが起きてもおかしくない感じが続いており外に出ることができませんでした。 夜になり入浴しようとして服を脱ぐ際にかがんだところ、めまいがしてドドドドッと壁にぶつかりました。気をつけながら入浴できましたが、その後もよくならず、いつめまいが起きてもおかしくない状況が続きました。布団を敷くときにもめまいがして布団が敷けない状況だったので、どこかに相談しようと思い相談しました。 昨日ちょうど健康診断で婦人科検診があったのですが、左の卵巣が腫れているかもしれないと言われました。卵巣の腫れか便が残っている影かはっきりわからないので、1ヶ月後に見せに来てくださいと言われ4月半ばに予約をしています。これが今回のめまいに関係しているのでしょうか。 明日出社できるか自信がありません。 診察してもらいたいですが婦人科へ行くべきでしょうか。
前立腺がんの治療方法の選択
前立腺がんステージⅡと診断され治療方法を検討中です。 担当医師からは後補として全摘手術か放射線外照射+ホルモン療法を提示されています。 重粒子線や放射線小線源治療も選択肢にはあり紹介状を書いては頂けるそうですが 私としては当該病院で治療可能な前二者から選ぼうと考えています。 そこで質問ですが、手術の場合過去の前立腺肥大手術の影響はあるのでしょうか。 私は2023年4月にTUR-P手術をしました。 今回前立腺除去した場合に尿道と膀胱をつなぐ際に間隔が広いので つなぎにくいのではないかというです。 ちなみに肥大時には体積が90cc以上になったと言われております。 臓器内切除なので周囲の癒着等はないとは思いますが。 また放射線治療の場合、完治後の生活として 自転車に乗ることは問題ないでしょうか。 義弟が重粒子線治療をした際に「一生自転車に乗らないように」と言われたそうです。 同じようなことが放射線治療でも起こり得るのでしょうか。 以上ご回答頂きたくよろしくお願い申し上げます。
胸痛や胸部不快感の原因
以前にもこちらで質問をさせていただきました。その節はお世話になりました。 3ヶ月前から軽度の胸痛、息苦しさ 2ヶ月前から胸痛の頻度が上昇 現在の症状は胸骨周囲の軽度胸痛、吸気時の胸痛、時々胸部の違和感、息苦しさ、肩甲骨周辺の痛みなど 冠攣縮性狭心症疑い、心因性胸痛の疑いでホルター心電図と冠動脈造影CTを実施しました。 ホルター心電図…不整脈ほぼなし 冠動脈CT…狭窄所見なし ホルター心電図中にも息が吸いにくい、吸気時の胸痛、瞬間的な胸痛はありましたが、その上で異常はないと言われました。 現在コニールと鉄剤、半夏厚朴湯を内服しています。以下の点質問があります。 1.心臓由来の胸痛である可能性は低いですか? 2.他にどのような疾患と鑑別が必要だと考えられますか? 3.Ca拮抗薬を内服していると「胸痛の強さが軽減される」効果がありますか?それとも「胸痛の頻度が減少する」効果がありますか?
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「肝がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。