記事1『膵臓がん治療における放射線治療の位置付け−種類・効果・費用は?』では、放射線治療の仕組みや、どのような機器が使われているのか、また、膵臓がん治療における放射線治療の効果について、大阪府立成人病センター放射線治療科主任部長の手島昭樹先生にお話いただきました。
手島先生は、仕事などで日中の通院ができないがん患者さんのため、夜遅くまで診療時間を設けるなど、1人1人の生活スタイル、病状にあった治療の提供にご尽力されています。今回は、治療を進める上で心配される方も多い治療による副作用の問題や、最新の放射線治療「重粒子線治療」について、引き続き手島先生にお話を伺いました。
膵臓がんは手術でがんをしっかり除去しても、その周りの血管や神経叢(しんけいそう・神経組織の集まり)に再発してしまうため、手術だけでは根治が難しいです。
そのため、大阪府立成人病センターの場合、治療方針で手術が決定した患者さんのうち、8〜9割の方が術前・術後の放射線治療と化学治療を行なっています。
記事1『膵臓がん治療における放射線治療の位置付け−種類・効果・費用は?』でも述べましたが、大阪府立成人病センターでは手術・放射線治療・化学治療を組み合わせた治療を行った場合、膵臓がん患者さんの5年後生存率が50%という成績が出ています。手術では切除できないがんに対しては放射線治療と化学治療できっちり治療しているからこその結果であり、この成績は手術単独では実現できませんでした。
手術を伴う膵臓がんの治療における放射線治療の最大の役割は、がんが再発してしまうことの多い血管や神経叢のがん細胞を、化学療法と協働して攻撃することです。手術で除去することができない神経叢や血管には、CTでも発見できないがん細胞が転移している可能性があります。特に放射線治療は最も再発率の高い神経叢や血管周囲に効果があるといわれています。
膵臓がん患者さんに対して術前・術後治療を行なっている病院は増えてきましたが、大阪府立成人病センターの放射線治療科では、その中でも膵臓がんの術前治療にはかなり力を入れていると自負しています。再発を抑えるため、患者さんひとりひとりの状況に応じて照射の仕方を改め、丁寧に治療計画を立てています。
現段階では、手術を行わず膵臓がんを根治するのは難しいです。そのため、手術に耐えられない患者さんでない限りは、手術を勧めています。膵臓がん治療で手術ができないケースは主に下記の通りです。
非手術の放射線治療の場合、化学療法を併せたとしても予後(治療後の生存率など)は手術例に比較するとあまりよいものではありません。
以前は、手術中に患部へ放射線を照射する術中照射という手法が採られることもありました。しかし、最近はリニアック室の滅菌が難しいことや、手術中に一回放射線を照射したくらいではがんが消滅しないなど、期待するほど効果が得られない割に手間がかかるため、現在はあまり行われていません。
放射線治療は膵臓がんへの効果が高く、繰り返し放射線を照射することによってがん細胞はどんどんダメージを負い、死滅していきます。一方、X線は光の性質を持っており、放射線の照射を繰り返せば正常組織にも少しずつダメージが加わります。しかし、正常組織はダメージが加わっても日々少しずつ回復していきます。この差を利用して膵臓がんの放射線治療は行われています。
副作用は放射線ががん細胞に及ぼす影響と同じように、正常な組織の細胞にも影響を与えてしまうために起こります。そのため、放射線治療を行う場合には、必ず正常な組織の回復可能な範囲内にとどめます。
放射線は細胞活動が活発な場所に作用する特徴があり、がん細胞は細胞活動が活発であるため、放射線の影響が加わりやすいのです。正常組織では髪の毛・毛根や、腸などがやはり細胞活動が活発なために副作用を起こしやすいといわれています。そのため、副作用として脱毛や食欲の減衰、下痢などが起こることもあります。
副作用に対して私達ができることは、極力他の臓器や体の部位に放射線を照射しないよう、きちんと計画を立てることです。
また、放射線はまず肌から入っていくため、肌にかゆみや赤みが生じることもあります。大阪府成人病センターでは近年、放射線治療による皮膚の障害に早めに対処するため、早いうちから看護師によるケアを行うようにしています。軟膏の使用や、保護シートの活用によって、かなり皮膚への障害が抑えられるようになってきました。
放射線治療に副作用があるのと同様に、抗がん剤を用いた化学療法にも副作用があります。しかし、放射線治療と化学療法では、影響を受けて現れる症状が少し異なるため、それをうまく活用し極力副作用を分散させるように努めています。
その一方、放射線治療と化学療法の併用であえて強い副作用を引き起こし、がんを治療することが有効な場合もあります。このような治療を行う場合には、患者さんにもきちんと説明をするようにしています。
近年、がんの放射線治療分野で脚光を浴びている治療法が「重粒子線治療」です。重粒子線治療は、手術ができない患者さんにも良好な成績をもたらしています。また、従来の放射線治療では効果がなかった悪性黒色腫や骨・軟部肉腫にも効果があることがわかっています。また、膵臓がんをはじめとする難治がんにも大きな効果があるといわれています。
重粒子線とは炭素の粒子を加速させて作られた放射線です。従来の放射線治療で用いられていたX線の放射線に比べ質量が重く、がん細胞を壊す力が2〜3倍という特徴があります。重粒子線治療も従来の放射線治療と同様、膵癌に対しては単独では効果が劣りが、化学療法と併用することによって抜群の効果が得られます。
これまで使われてきたX線の放射線は体の表面に当たるときの線量が最も高く、放射線が体内に入った分だけ線量が落ちていきます。そのため、膵臓がんのように腫瘍が身体の中心部にあると、放射線が腫瘍にとどくまでの皮膚や臓器に強く影響を及ぼしてしまいます。こうした理由により、先に述べた3次元放射線照射のように分散して照射を行う必要がありました。
しかし、重粒子線は身体の深いところまでは低い線量で進み、中心部にきて初めて強いエネルギーを発し、そのままそこで消滅してしまいます。そのため皮膚や手前の臓器にはほとんど影響を与えずにがんの病巣を狙うことができます。このような理由から理想的な放射線治療といわれ、現在とても注目されています。
重粒子線治療はコストがかかることが大きな問題です。この機械を設置するには100〜200億円の費用がかかります。また、現状では保険が適用されない先進医療扱いとなるため治療には300万円ほどかかり、患者さんの負担も大きくないります。
また、重粒子線治療は安全面においてまだ実験中の部分があります。がん細胞に対する効果が従来の放射線治療の2〜3倍と非常に高い反面、重粒子線のビームが、がんではない正常組織をかすめてしまった場合の発がんリスクが2〜3倍である可能性もまだないとは断定できません。この辺りはまだ実証中です。
とはいえ、がん患者さんにとって重粒子線治療の発展はひとつの希望です。すでに日本国内でも数台稼働しています。
大阪府立成人病センターは「大阪国際がんセンター」と名を新たにして2017年3月に移転を控えています。そして翌年2018年の4月にはこの新病院の隣に重粒子線治療の施設が完成します。その重粒子線治療施設は今最も性能がよく、最小の機器を導入される予定です。
また、がん専門の病院に隣接して重粒子線治療施設が作られることは日本全国でみても非常に珍しく、いつでもがんの専門家が近くにいる状態で治療を受けることができます。これは患者さんにとっても心強いのではないでしょうか。患者さんに何かあった際や、治療方針を再考するときに、治療計画を判断し経過をみてきた医師たちがそばにいるので、安心してお任せいただけます。
大阪府成人病センターの放射線治療科は手術や化学療法と協力して、確かな成果を残してきました。今までは高精度なリニアックである「IMRT」が1台しかない中でたくさんの患者さんの治療を行ってきましたが、大阪国際がんセンターに移転した暁には最終的にはIMRTを合計5台完備する予定です。移転に伴いさらなる治療成績向上を目指します。
一方で現在、従来の放射線治療と重粒子線治療を比較するような動きが出ています。私も放射線医学総合研究所の重粒子線治療の臨床評価委員としてデータをみていますが、現在の術前治療を比較すると、同研究所の重粒子線治療の成果は、大阪府立成人病センターの術前化学放射線治療の成果と同じくらいです。X線を用いた放射線治療では当センターの成績はかなり成果が高いほうであることを考えると、今後重粒子線治療の成果はさらに上がっていくことが予想されています。もし重粒子線に当センターの細かい技術が加われば、重粒子線治療に当センターの放射線治療が追い越されることもあるかもしれません。しかし、われわれも膵臓癌に対して3次元放射線治療からIMRT/VMATへの展開を進めており、さらなる成績向上を目指しています。
重粒子線治療施設が隣接することは我々放射線治療科にとっても刺激的です。新しい技術や情報は共有し合い、よい意味でのライバル関係であり、また相互の弱点は補い合う関係が築けて患者さんに優れた医療を提供できることを願っています。
大阪重粒子線センター 副センター長、大阪大学 名誉教授
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