概要
肉腫(サルコーマ)とは、全身の骨や軟部組織(筋肉や脂肪、神経など)に悪性の腫瘍ができる病気の総称です。人口10万人あたり6人未満の頻度で発生する希少がんの1つで、全てのがんの中で占める割合は約1%とされています。
肉腫は発生する部位や種類によって特徴が大きく異なります。骨にできる肉腫では、発生部位に腫れや痛みが現れ、進行すると骨折を起こすこともあります。一方、軟部組織にできる肉腫(軟部肉腫)では、痛みのないしこりや腫れがみられます。皮膚表面よりも深い部分に発生した場合は、自覚症状に乏しいため大きくなるまで気付かないことも少なくありません。
肉腫を根本的に治すには、腫瘍を取り除く手術が必要です。手術が難しい場合や転移がある場合は、抗がん薬などを用いた薬物療法や腫瘍に放射線を当てる放射線治療を組み合わせて治療が行われます。
肉腫は希少がんであり、さらに種類が多く複雑なことから、診断や治療のできる施設が限られていました。しかし、近年では軟部肉腫の治療薬として新たにパゾパニブやトラベクテジン、エリブリンなどの薬剤が使用可能となったり、重粒子線治療*が保険適用されたりと治療の選択肢が広がっています。そのほか脱分化型脂肪肉腫、血管肉腫、類上皮肉腫などさまざまな肉腫に対する研究が進んでおり、治療の発展が期待されています。
*重粒子線治療:放射線治療の1つで、加速させた重粒子線(炭素粒子)をがん細胞に照射する治療法。従来の放射線治療や薬物療法での治療が難しかったがんにも治療が行えるようになった。
種類
肉腫には以下のような種類があります。
骨の代表的な肉腫
- 骨肉腫……通常型骨肉腫、血管拡張型骨肉腫、小細胞型骨肉腫、低悪性度中心性骨肉腫、二次性骨肉腫
- 軟骨肉腫……通常型軟骨肉腫、脱分化型軟骨肉腫,間葉型軟骨肉腫,淡明細胞型軟骨肉腫
- ユーイング肉腫
- 脊索腫
代表的な軟部肉腫
原因
肉腫が発生する原因については今のところ分かっていません。
肉腫の細胞には融合遺伝子*など多くの遺伝子の異常が確認されており、これらの異常が発生に関与している可能性が考えられています。しかし、なぜこのような遺伝子の異常が起こるのかは解明されていません。
*融合遺伝子:本来別々の異なる遺伝子が異常に結合して形成される新しい遺伝子のこと。このような遺伝子の変化を融合という。がんの発生に関与することがあり、特定のがんの診断や治療に重要な役割を果たす。
症状
肉腫を発症すると以下のような症状がみられます。
骨の肉腫
肉腫が発生した部位に痛みと腫れが生じます。骨に肉腫が発生すると骨の内部で腫瘍が増大して症状を引き起こします。進行すると骨の強度が弱くなり、骨折することもあります。代表的な病気は以下のとおりです。
骨肉腫
主に膝や肩の周囲に発生します。10代~20代での発症が多いのが特徴ですが、約3割は40歳以上での発症が報告されています。
軟骨肉腫
主に太ももの骨(大腿骨)や腕の骨(上腕骨)、体幹の骨(骨盤)に発生します。40代以上での発症が多いといわれています。
ユーイング肉腫
太ももの骨(大腿骨)や体幹の骨(骨盤、脊椎)のほか、軟部組織にも発生する肉腫です。主に20歳以下で発症します。
軟部肉腫
軟部肉腫では腫瘍が発生した部位にしこりや腫れが生じます。多くの場合で痛みを伴いませんが、しこりが周囲の神経を圧迫して神経症状を生じることがあるほか、病状が進行するとがん細胞がしこりの表面の皮膚まで及び、潰瘍ができることもあります。
軟部肉腫には種類によって発症年齢と発症部位に特徴があります。横紋筋肉腫や滑膜肉腫は小児~青年期の若年者に多く、脂肪肉腫などの軟部肉腫は中高年以降に多く発症します。また、脂肪肉腫や粘液線維肉腫は太ももや後腹膜*の発生が多く、類上皮肉腫は手と前腕(ひじから手首まで)に好発します。
*胃や腸などの臓器が入った部分を腹膜といい、腹膜と背骨の間に位置する領域を後腹膜という。
検査・診断
肉腫が疑われる場合、主に画像検査と組織検査を行います。血液検査では、一部の肉腫で炎症反応を調べる項目に異常値がみられることがありますが、多くの場合は異常が認められません。そのため、詳細な診断には画像検査や組織検査が中心となります。
画像検査としては、肉腫が存在する部位に応じてX線検査やCT、MRI検査などが行われます。さらに、転移の有無を調べるため、がん細胞に集まる性質を持つ放射性物質を注射して画像上で確認するPET検査や全身CT検査、全身MRI検査などを行うこともあります。
確定診断のためには、組織検査として肉腫を一部採取し、顕微鏡で詳しく調べる“生検”を行います。そのほか、遺伝子の異常を調べる遺伝子検査が行われることもあります。
治療
肉腫の治療法には、手術や薬物療法、放射線治療があり、肉腫の種類や部位、患者の年齢、全身の状態などに応じて決定します。
骨の肉腫に対する治療
骨の肉腫の治療では、腫瘍を完全に除去できる場合、広範切除術*を行います。骨肉腫やユーイング肉腫では通常、手術の前後に抗がん薬治療を併用します。広範切除術で生じた欠損部位に対しては、さまざまな方法で再建術が行われます。骨の再建術では、欠損部位に人工関節を入れたり、切除してがんを処理した自分の骨を再利用したりします。
ほかの部位に転移がある場合には、症状の緩和などを目的とした抗がん薬による薬物療法や放射線治療を行うことがあります。
一般的に骨の肉腫に対して放射線治療はあまり行いませんが、ユーイング肉腫に対しては放射線治療を行うことがあります。
*広範切除術:腫瘍を取り残さないために、周囲の組織も含めて腫瘍を切除する手術
軟部肉腫に対する治療
軟部肉腫の治療の基本は広範切除術ですが、肉腫の種類や悪性度によっては薬物療法や放射線治療が選択されます。
薬物療法では、抗がん薬による副作用のリスクがあるため、患者の年齢や全身状態を考慮して適切な薬剤を選択します。現在、標準的な治療に用いられる抗がん薬はドキソルビシンです。これは単剤またはイホスファミドとの併用で使用されます。これらの治療で効果が期待できない場合や再発した場合には、パゾパニブやトラベクテジン、エリブリンなどほかの薬剤を用いた二次治療が考慮されます。
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