概要
消化管は、口から始まり、咽頭、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門といった複数の部位から成り立っています。その壁の構造は内側から、粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜で成り立っています。
消化管間質腫瘍(GIST:Gastrointestinal Stromal Tumor)は、粘膜より下の深い場所の消化管の壁にできる粘膜下腫瘍の一つです。一般的には「GIST:ジスト」と呼ばれれることが多く、粘膜下腫瘍の中では最も多くみられます。転移や再発を起こす悪性腫瘍の1つではありますが、胃がんや大腸がんなどの一般的ながんが消化管の粘膜上皮から発生するのに対して、GISTは粘膜の下から発生するという点が大きく異なります。
GISTは、「カハール介在細胞」と呼ばれる筋肉層に存在する特殊な細胞が異常に増殖して、腫瘍となることで発生します。日本では、発生部位として胃が最も多く(60~70%)、次に小腸(20~30%)、大腸(5%)で発生するとされ、食道での発生はごくわずかです。発生頻度は年間10万人に1~2人程度であり、稀ながんの1つとされます。
原因
GISTの原因は、腫瘍細胞の細胞膜にあるKIT、またはPDGFRaという蛋白の異常であることが明らかになっています。これら蛋白は、本来は特定の物質の刺激にのみ反応して増殖しますが、異常が起こると常に増殖を繰り返してしまい、GISTが発生します。これら蛋白の異常を起こす原因は、遺伝子変異であることがわかっています。
症状
GISTは病変が大きくなっても自覚症状が現れることが少ない病気ですが、病変が大きくなることで、消化管の粘膜に潰瘍をつくり、出血を起こすことがあります。出血により急性の下血や吐血、あるいは慢性の消化管出血や貧血をきたすことがあります。ときに腹痛や疲労感、満腹感などの症状がでることもあります。
検査・診断
GISTは自覚症状の少ない病気であるため、吐血や下血、貧血などの症状がでて発見されることもありますが、内視鏡検査(胃カメラや大腸カメラ)や胃X線検査(バリウム検査)などで消化管粘膜下腫瘍を指摘されて発見されることも多くあります。
胃X線検査(バリウム検査)
バリウムと発泡剤を飲んで、胃の形や壁の様子をX線を用いて観察します。GISTは胃粘膜下腫瘍として指摘されますが、診断には至りません。
内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ)
内視鏡を用いて、胃や大腸を内側から直接観察するもので、GISTは胃粘膜下の腫瘍として指摘されます。胃がんや大腸がん(消化管の粘膜から発生したがん)などと異なり、GISTは深部の筋肉の層から発生しているため、表面の組織を採取して病理検査を行っても、正しい診断ができないこともあります。この場合は「超音波内視鏡(EUS)」という先端から超音波を発する特殊な内視鏡を使うことで、腫瘍が消化管の壁のうちのどこから発生しているかを判断し、また腫瘍内部の様子を観察することができます。さらに超音波内視鏡を用いて腫瘍を針で刺して組織を採取する(EUS-FNAといいます)こともあります。これら超音波内視鏡を用いた検査は主に専門施設で行われています。
病理検査
内視鏡検査や超音波内視鏡検査、あるいは手術で腫瘍を切除して組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べGISTであるかどうかを判断します。GISTの腫瘍細胞は多くの場合、特徴的な蛋白(KITあるいはPDGFRa)を発現しているため、これを「免疫染色」という方法で確認します。また遺伝子変異を確認してGISTの診断を行う場合もあります。
CT検査・MRI検査
腫瘍の位置や周囲への広がりを評価することができます。また通常の内視鏡検査ではわからない腫瘍内部の様子についても情報を得ることができます。肝臓など他の組織への転移の有無を評価する上でも重要な検査です。
PET検査(positron emission tomography:陽電子放出断層撮影)
放射性薬剤を体内に投与して、その分析を特殊なカメラでとらえて画像化します。GISTの診断において有効とされます。
これらの検査の結果でGISTの診断がつかない場合も、継続的な確認が重要になります。期間を置いたのちに再検査を行うことは重要とされます。
GISTの分類について
GISTでは、再発の危険性によってリスクごと分類がなされます。以下は、GISTの標準的な診断や治療を定めるガイドラインにおいて採用されているリスク分類ですが、腫瘍の大きさと、腫瘍の細胞分裂がどれくらい活発に行なわれているか、という点を基準にして再発率の高いGISTを高リスク群、比較的低いGISTを低リスク群と位置づけています。
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