概要
脊索腫とは、胎生期に見られる“脊索”という構造の組織から発生する腫瘍のことです。
脊索腫は非常にまれな病気で、年間の発症者は100万人に1人との報告もあります。頭蓋底(頭蓋骨の底の部分)と仙骨(腰椎に接して下方)に発生することが多く、成人男性が発症しやすいとされていますが、頭蓋底など頭部にできるものは小児や若い成人にも多いとされています。
根本的な治療は手術による腫瘍の摘出ですが、発生した部位によっては手術が難しかったり、手術によって脳や脊髄にダメージを与えたりすることも少なくありません。脊索腫は急激に進行して大きくなることはほとんどありませんが、他部位への転移を起こす確率が高いため、手術以外の治療法の開発も進められています。
原因
“脊索”は、胎生期に脳の下部からお尻付近まで一筋に走行する構造物で、脊椎(背骨)が形成されていない胎児の体を支えるはたらきを持ちます。胎児が成長していく段階で、脊索の周りには脊椎が形成されていき、脊索自体は退化していくのが正常です。しかし、何らかの原因で脊索の組織の一部が成長後も体内に残ることがあります。この脊索の組織の一部から腫瘍が発生することがあり、これを脊索腫といいます。
脊索腫の発症メカニズムは、明確には解明されていません(2020年5月時点)。
症状
脊索腫の症状は発生する部位によって大きく異なります。脊索腫の半数は仙骨部に発生するとされていますが、発症すると仙骨部にしこりを触れるようになります。通常は腫瘍自体に痛みなどはありませんが、仙骨周囲の神経を巻き込んで進行すると、下肢のしびれや痛み、麻痺、排尿・排便の異常を引き起こすことがあります。
一方、仙骨部に次いで多いとされる頭蓋底の脊索腫は、脳から分布している視神経をはじめとした脳神経などを巻き込みながら大きくなっていくため、視力や視野の障害、嚥下障害、声のかすれなどを引き起こします。また、腫瘍は頭蓋骨を破壊しながら大きくなっていくため、頭蓋底に近い鼻や喉にまで腫瘍が広がると嗅覚障害、鼻閉などの症状が現れることも少なくありません。さらに、頭蓋内圧が上昇することで頭痛、吐き気・嘔吐などの症状を伴うこともあります。
しかし、脊索腫は比較的ゆっくり進行していく病気です。このため、自覚症状がないことも多く、脳ドックなどで偶然発見されるケースも多々あります。
検査・診断
脊索腫が疑われるときは次のような検査が行われます。
CT、MRI検査
腫瘍の存在を確認するだけでなく、位置・大きさ・周辺組織への広がりなどを評価するうえでも必須の検査です。特に、造影剤を用いて行う“造影MRI検査”は腫瘍組織のタイプをある程度鑑別することができ、脊髄や脳へのダメージを評価することが可能なため、積極的に行われます。
X線検査
脊索腫は、周囲の骨を破壊しながら大きくなる性質があるため、骨の状態を評価することを目的としてX線検査を行うことがあります。
生検・病理検査
脊索腫の確定診断には、腫瘍組織の一部を採取(生検)し、顕微鏡で詳しく調べる病理検査が必要となります。近年では、脊索腫の病理診断に“brachyury”の有無を調べる検査が有効であるとの報告もあります。Brachyuryとは、第6染色体上に存在し、脊索の発達を調整する因子といわれています。このたんぱく質が過剰に存在すると、成長後も体内に脊索の組織が残り、腫瘍を発生させると考えられています。
仙骨部など脊椎周囲に発生したものは、皮膚から針を刺して腫瘍の組織を採取することができます。しかし、頭蓋底に生じた脊索腫は生検が難しいことも多く、診断のために病理検査が必須と考えられるときは神経内視鏡を用いた生検が行われます。
治療
脊索腫は基本的に腫瘍を摘出する手術によって治療が行われます。しかし、手術をしても再発してしまった場合、頭蓋底に発生した場合などは、手術をすることで周囲の正常な脳にダメージを与えてしまったりすることもあります。このため、全ての症例で手術ができるわけではなく、手術を行う場合には事前に再発リスクや脳へのダメージを最小限に抑えた治療戦略をたてて行うことが大切です。手術方法は開頭術・経鼻手術・経口手術などさまざまですが、最近では、神経内視鏡を用いた鼻腔手術によって腫瘍を摘出することも可能になっております。
また、放射線治療の一種である重粒子線治療、がんを引き起こす原因になるチロシンキナーゼという酵素のはたらきを阻害する薬が脊索腫に一定の効果があることが示唆されており、手術にとって代わる治療法として研究が進められています。
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