えんげしょうがい

嚥下障害

最終更新日:
2024年12月06日
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2024/12/06
更新しました
2017/04/25
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概要

嚥下障害とは、口の中に取り込んだ食べ物や水分がのど(咽頭(いんとう))や食道を通過して胃まで移動する過程に異常が生じた状態です。

口の中に入った食べ物は、歯で噛み砕かれることで飲み込みやすい形になり(咀嚼(そしゃく))、舌の動きで咽頭に送り込まれます。咽頭の入り口にはセンサーがあり、食べ物が入ってきたことが脳の延髄(えんずい)にある“嚥下中枢”に伝えられます。すると喉頭(こうとう)が上がるとともに声帯が閉じて気管へと続く入り口が塞がり、食べ物が咽頭や食道を通って胃へと運ばれていきます。飲み込んでからの一連の動きは脳でプログラムされており、毎回同じように自動的に行われます(嚥下反射)。

この一連の動きが障害されると、食べ物を飲み込む際にむせる、飲み込みにくいなどの症状がみられるようになり、食べ物がのどや気管に詰まると窒息します。さらに、口から摂取する水や食べ物が減ることで脱水や低栄養となったり、食べ物や唾液とともに細菌が気管に入ると肺の中で炎症が起き、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を発症したりすることもあります。

嚥下障害の原因は脳神経疾患や筋疾患、頭頸部(とうけいぶ)ん、加齢などさまざまであり、新生児から高齢者までどの年齢層でも生じる可能性があります。

嚥下障害を生じた場合には、状態に応じて食べ物の形態や食べ方の工夫、リハビリテーションなどを行い、改善しにくい重症例では外科的手術が検討されます。

原因

嚥下障害は以下のような原因で生じることがあります。

脳神経疾患

嚥下障害の原因となる病気としては、脳出血脳梗塞(のうこうそく)などの脳卒中(脳血管障害)が最も多くみられます。パーキンソン病筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患は、進行に伴い嚥下にかかわる神経にも異常が生じ、しばしば嚥下障害が生じます。ウイルスや手術による脳神経麻痺でも嚥下が困難となることがあります。

筋疾患

多発性筋炎封入体筋炎筋ジストロフィー重症筋無力症などの筋疾患では、のどの筋力低下や炎症により嚥下障害が生じることがあります。

頭頸部がん

口腔(こうくう)・咽頭の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)は腫瘍そのものによって嚥下機能に影響を及ぼしたり、化学放射線治療による副作用によって皮膚や粘膜に炎症を起こしたりすることで嚥下障害が生じることがあります。

加齢

高齢者は嚥下に必要な筋力が低下し、嚥下反射が遅くなる傾向があります。また、加齢に伴い唾液が少なくなったり、歯の本数が少なくなったりすることも咀嚼しにくくなる要因となります。

先天的な異常

脳性麻痺口唇口蓋裂のように、生まれつき嚥下にかかわる機能が弱かったり口腔の形態に異常があったりする場合、嚥下障害を伴うことがあります。

その他

頚椎(けいつい)の変形、一部の薬剤なども嚥下障害の原因となります。

症状

嚥下障害を生じると、飲食の際に以下のような症状がみられることがあります。

  • むせる
  • 食べ物がのどにつかえる
  • のどで痰がからんだような音がする
  • 食べ物を噛んで飲み込めない
  • 食べ物が口からこぼれる
  • 食べ物が口の中に残る
  • 食事に時間がかかる

さらに、嚥下障害で十分な食事をとることが難しくなると、食事に対する意欲の低下や食べる量の減少につながり、脱水や低栄養となる可能性があります。

また、飲み込んだものが食道ではなく気管に入る(誤嚥)と、食べ物や唾液とともに入りこんだ細菌によって誤嚥性肺炎を生じる原因になることもあります。通常、誤嚥するとむせる、咳き込むなどの症状がみられます。しかし、のどの感覚が鈍くなっていると食事中に誤嚥していてもむせなかったり(不顕性誤嚥)、睡眠中に唾液が気管や肺に流れ込んだりする(微少誤嚥)ことで、嚥下障害を自覚しないまま誤嚥性肺炎を起こすことがあります。

検査・診断

嚥下障害が疑われる場合には、問診や身体所見の診察のほか、嚥下機能を評価するための嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)などを行います。

嚥下内視鏡検査は、先端にカメラのついた細く柔らかい内視鏡を鼻から咽頭まで挿入し、実際に食べ物を飲み込む様子を観察する方法です。簡便な機器で実施できるので検査する場所を選ばず、おおよその状態を確認することが可能です。また、適切な食事の内容を選択するうえで役立ちます。

一方で嚥下造影検査は、レントゲン(X線)で口やのどを透かし絵のように見ながら、飲み込んだ造影剤の動きやのどの動きを観察する検査です。嚥下運動の全体像を確認できる重要な検査法です。X線による放射線被曝があるため短時間で行われます。

治療

嚥下障害の治療は、嚥下機能を維持・向上させることを目的としたものと、肺炎低栄養を防ぎ全身状態を維持することを目的としたものに分けることができます。どちらも大切であり、並行して進めていきます。

嚥下機能の維持・向上のための治療

嚥下機能を維持・向上させるためにまず行う治療は、リハビリテーション(嚥下訓練)です。嚥下障害に対するリハビリテーションは、食べ物を用いずに行う“間接訓練”と、食べ物を用いて行う“直接訓練”があります。

訓練を続けても改善が乏しい場合は、食べ物が咽頭を通過しやすくする“嚥下機能改善手術”が検討されます。

間接訓練

間接訓練は基礎訓練とも呼ばれ、嚥下にかかわる器官の動きを改善させることを目的に行います。舌や首(頸部)をリラックスさせる“嚥下体操”、嚥下に関連する器官の筋力を鍛える“頭部挙上訓練”、寒冷刺激により嚥下反射が起こりやすくする”氷なめ訓練“、誤嚥したものや痰を吐き出す力を強める“呼吸負荷トレーニング”など、多くの訓練法があります。嚥下障害の部位や状態に応じて選択して行います。

直接訓練

直接訓練は摂食訓練とも呼ばれ、実際に食べ物を用いることにより嚥下運動全体の適切なバランスを習得することを目的に行います。嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査で誤嚥しにくい姿勢や食べ物の形態・量を確認し、医療スタッフとともに反復して実施し自立を目指します。

誤嚥・栄養障害の予防のための治療

嚥下障害の程度が軽度の場合は、食べ物の形や硬さ(粘度)を工夫することで誤嚥の予防効果が期待できます。どのような食べ物が飲み込みやすいかは嚥下の状態によって異なるものの、一般的に水分にはとろみを付けることが有効な場合が多いです。

栄養が十分にとれなくなると免疫機能が低下して、誤嚥性肺炎などの感染症になりやすくなります。口から食べるだけでは十分な栄養がとれない場合は、チューブを鼻から胃まで入れたり(経鼻胃管)、腹部に小さい穴を開けて胃に直接栄養を入れる胃ろうを造ったりして栄養剤を注入します。胃腸が十分に働かない場合は、高カロリー輸液を点滴するなどの栄養療法が行われることもあります。粘膜の感覚を改善させたり、唾液や食べ物に含まれる細菌を減らしたりするために、口の中をきれいにすることも重要です。

重度の嚥下障害で唾液が常に気管に入ってしまう状態では、気道と食道を分離させる“嚥下防止手術”が検討されます。誤嚥防止手術を行うと発声ができなくなりますが、痰の吸引が減り、口から食べられる可能性があります。

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