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嚥下機能を熟知した医師が一丸となって回復を目指す――国立国際医療研究センター病院における嚥下障害治療の特徴

嚥下機能を熟知した医師が一丸となって回復を目指す――国立国際医療研究センター病院における嚥下障害治療の特徴
二藤 隆春 先生

国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 診療科長、耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医長、...

二藤 隆春 先生

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昨今ますます高齢化が進むなか、嚥下障害の患者さんが増加傾向にあります。嚥下障害(えんげしょうがい)の診断や治療には高い専門性が求められるため、耳鼻咽喉科・頭頸部外科(じびいんこうか・とうけいぶげか)の医師に診てもらうことが重要です。今回は、嚥下障害の診療を専門とされている同院 耳鼻咽喉科(じびいんこうか)頭頸部外科(とうけいぶげか) 診療科長 兼 音声・嚥下センター長の二藤 隆春(にとう たかはる)先生に、国立国際医療研究センター病院における嚥下障害治療の診療体制や診療で大切にされていること、今後の展望についてお話を伺いました。

嚥下障害の回復を図るには、手術のみならず適切なリハビリも欠かせません。特に、嚥下機能改善手術(えんげきのうかいぜんしゅじゅつ)後は食べるときの姿勢や食べ物の選び方を工夫する必要があるため、当院では手術後の丁寧なリハビリ、退院後のケアに努めています。

前のページで述べたとおり嚥下障害の治療には多種多様なアプローチ法があり、その中から患者さんにとって適切なものを見極めるには治療に関与する多くの科や職種の協働が重要です。当院には嚥下障害診療の知識と技能を身につけたリハビリテーション科の医師や言語聴覚士、日本看護協会認定の摂食・嚥下障害看護認定看護師、管理栄養士、薬剤師がおり回復をサポートしています*。耳鼻咽喉科・頭頸部外科の専門的な手術とリハビリテーション科の質の高いリハビリや看護などを組み合わせることで、患者さんによりふさわしい治療が提供できる環境は当院の自慢の1つです。

また、嚥下障害の患者さんの中には全身状態があまりよくない方もいらっしゃいます。当院にはさまざまな診療科がそろっているため、胃ろうやCVポート(薬を投与するために皮膚の下に埋め込む医療機器)の造設など、患者さんの全身状態をみながら栄養管理全般を包括的にバックアップできる点も大きな強みです。

*在籍スタッフは2024年8月時点。

嚥下障害は「回復するかどうか」「回復するとしたらいつになるのか」の予測が難しいため、治療方針を決定する際はご本人やご家族の思い・価値観に寄り添うことを大切にしています。一定期間のリハビリを行っても回復が見込めない場合は手術を検討しますが、先に述べたとおり誤嚥防止手術(ごえんぼうししゅじゅつ)を実施した場合は声が失われます。声を温存できる嚥下機能改善手術であっても喉頭挙上術(こうとうきょじょうじゅつ)を行う場合は、気道確保のため一時的に気管切開を行わなければなりません。いずれにしても、「手術をしなくて済むならしたくない」という方がほとんどだと思いますし、手術をするとしてもできる限り体への負担を抑えた手術を望まれるはずです。

また、私たち医療者が適切だと判断した治療法が、ご本人・ご家族が望む選択であるとも限りません。病気の影響で発声が限られる患者さんも多くいらっしゃいますが、たとえ少ない発声であってもご家族にとってはご本人との尊いコミュニケーションであるはずです。誤嚥のリスクも踏まえたうえで声を残したいという方、声を失っても食事を楽しみたいと考える方など、価値観はそれぞれですので診療を通して“目の前の患者さんに適した治療”が見いだせるよう努めています。

重度の嚥下障害に対する手術法はいくつもありますが、軽度~中等度の方に対する確実な治療方法や予防法に関してはまだ研究成果に乏しい状況です。また、私自身、診療に携わる中で、“感覚障害”への対処の難しさを感じています。食物がのどを通りやすくしたり、誤嚥しにくくしたりするなど、運動面の問題は手術である程度治療可能ですが、「嚥下運動がうまく起こらない」「誤嚥したことを感知できない」などといった感覚面の問題は手術では治すことができないのが現状です。近年、喉頭の感覚神経に作用して嚥下反射を起こりやすくする新たな機器も開発されており、この分野の研究がどんどん発展すると思います。

今後、さまざまな研究のデータが蓄積され嚥下障害の予防法が確立されれば、誤嚥性肺炎で亡くなる方も減らせると考えます。

むせることが多くなった、飲み込みにくさを感じるなど、気になる症状がある方は、まずはお近くの耳鼻咽喉科へ相談されるとよいでしょう。耳鼻咽喉科医は内視鏡を用いて咽頭や喉頭を観察することに長けておりますし、近年は嚥下障害診療への関心が高まっており専門的に診られる医師も増えています。気になる症状は放置せず、まずはしっかり診てもらっていただきたいと思います。

どこで相談したらよいか分からないときは、日本嚥下医学会認定の「嚥下相談医」がいますので、学会ホームページでお近くの嚥下相談医を探してみてください。

「嚥下リハビリを長期間頑張ってきたけれど、なかなか改善しない……」「このまま口から食べられなかったらどうしよう……」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。原因となる病気によっては、よい先生のもとでリハビリを頑張っても改善しないときがあります。そんなときに、手術による治療という選択肢があることを知っておくだけでも、安心感をもって前向きにリハビリに取り組めるようになるのではないでしょうか。当院を受診したからといって、必ず手術を受けなければならないわけではありませんが、体への負担が小さい手術を行うことで、リハビリが少し前進することもあります。嚥下治療に関してお困りのことがある方は当院にご相談ください。治療選択肢はもちろん、各治療のメリット・デメリットも含めて詳しくご説明しますので、一度お話ができればと思います。

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  • 国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 診療科長、耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医長、音声・嚥下センター長

    二藤 隆春 先生

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