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国立国際医療研究センター病院における一側性反回神経麻痺治療の特徴

国立国際医療研究センター病院における一側性反回神経麻痺治療の特徴
二藤 隆春 先生

国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 診療科長、耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医長、...

二藤 隆春 先生

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音声障害や嚥下障害(えんげしょうがい)が現れる一側性反回神経麻痺(いっそくせいはんかいしんけいまひ)には複数の治療法があります。国立国際医療研究センター病院では保存的治療と外科的治療のどちらも行っており、患者さんの希望や状態に沿った治療法を提案できる環境の整備に尽力しています。国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科(じびいんこうか)頭頸部外科(とうけいぶげか)の特徴や実際の治療の流れなどについて、同院診療科長 兼 音声・嚥下(えんげ)センター長である二藤 隆春(にとう たかはる)先生にお話を伺いました。

当院では一側性反回神経麻痺に対して、声帯内注入術や喉頭(こうとう)枠組み手術などのさまざまな治療を提供しています。これらの手術は全身麻酔や複雑な手技が求められることもあるため、医療機関によっては提供する治療を限定していることもありますが、当院では一人ひとりの患者さんのニーズに合わせて必要な治療や適した術式をご提案しています。

最低限でも会話や電話で困らないような声にすることを目標にしており、ほとんどの方で達成されています。よく「歌を歌えますか?」と質問を受けますが、片方の声帯が動いていないので残念ながら、音程を合わせたり、広い音域の声を出したりするのは難しいかもしれません。しかし、中には歌を歌える方もいますし、発声法の練習になるので、歌うことを諦めず積極的に挑戦してみてください。

また、手術後の患者さんの状態に応じて音声治療を追加し、よりよい状態を目指せるようにしています。前のページで述べたとおり、反回神経麻痺の患者さんは、喉に力を入れる癖が付いてしまっていることもあるため、改善のためには音声治療が効果的です。全ての方に必ずしも必要なわけではありませんが、よりよい発声を目指したいという患者さんには術後の腫れが引いたタイミングで言語聴覚士*が介入し、音声治療を行っています。

*言語聴覚士:言語や発声などコミュニケーション機能のリハビリテーションを行う専門職。

すでに一側性反回神経麻痺の診断がついており、かつ発症してから半年以内の患者さんの場合、自然回復の可能性も踏まえてまずは経過を観察することが多いです(呼吸困難が現れている場合など急を要する症例を除く)。半年以上症状が続いている場合には、患者さんの困り具合を伺ったうえで治療を検討します。なお、侵襲性が低い声帯内注入術は早期に実施することもあるものの、喉頭枠組み手術は麻痺が回復しないと判断された時点で実施を検討します。

具体的な治療方法については、病状に応じてご提案しますが、最終的な決定は患者さんに委ねています。複数の治療法があり悩まれることも多いと思いますので、不安なことや気になるリスクなどがあればお気軽にお尋ねください。

声帯内自家脂肪注入術の様子

声帯内自家脂肪注入術の場合、当科では2泊3日で行っています。手術時間は全身麻酔下*で30分~1時間ほどです。声帯内アテロコラーゲン注入術**の場合は、局所麻酔下で行っているため、日帰り治療が可能です。いずれの場合も、術後はまず1か月後に受診していただき、その後徐々に間隔を空け1〜2年ほどは経過を観察します。ただし、声帯内注入術は効果の持続性に個人差があるため、通院の要否や具体的な期間・回数については声帯の状態を見ながら判断します。

喉頭枠組み手術は原則的に局所麻酔下で行い、甲状軟骨形成術I型のみの手術時間は、おおよそ1時間で入院期間は3~4日です。披裂軟骨内転術も行う場合は手術時間が2時間ほどで、喉の腫れなどに注意しながら経過観察を行う必要があるため入院期間は1週間ほどとなります。退院後は半年〜1年ほど経過を観察します。

*麻酔科標榜医:山瀬 裕美先生    

**皮膚の凹凸などの補正・修復用に開発された医療材料であり、適用外使用(声帯内注入)の副作用として腫脹・発赤・掻痒感・硬結が生じる可能性があります。

外来での日帰り手術を行う声帯内アテロコラーゲン注入術は、コラーゲンが体内で固まるまでは漏出や吸収が進む可能性が高くなるので、当日就寝するまで声を使わないようにしていただいています。入院して行う手術では、喉が浮腫(むく)む可能性があるため、1週間ほど発声は控えていただくようお伝えしています。必ずしも必要なわけではないものの、入院中の会話が心配であれば筆談用のメモとペンをご用意いただくとよいでしょう。1週間経過後は声を出してかまいませんが、最初は控えめにして少しずつ発声量を増やすようにしましょう。

術後1か月ほどは過度に大きな声を出したり長時間会話したりするなど喉に負担がかかることは避けていただくことをおすすめします。なお、術後1か月ほどは声の調子がよくなったと感じたり、逆に悪くなったと感じたりするかもしれませんが、まだ声帯の状態が不安定な時期ですので過度に心配する必要はありません。退院後の生活については、喉への負担のみ気を付けていただければ、制限は特にありません。

一側性反回神経麻痺の治療法にはさまざまなものがありますが、現在一般的に行われている治療法では声の質などの面で限界があり、完全に元どおりとはいかないのが現状です。ただ、再生医療を用いたアプローチ方法や神経の再建など新たな治療法の研究が進んでおり、将来的にはより自然に近い発声をかなえられるようになるかもしれません。これらはまだ研究段階であるものの、データが蓄積されて安全性が高いと判断できる治療、かつ患者さんの要望をかなえられると感じた治療については当院でも積極的に取り入れていきたいと考えています。

声の不調は喉頭がんなど全身に関わる病気のサインの場合もありますので、放置せず一度お近くの耳鼻咽喉科で診てもらうことをおすすめします。中には内視鏡検査では診断が難しい音声障害もあり、実際「他院で精神的なものと言われた」とおっしゃる患者さんもいらっしゃいます。

受診をしても症状がなかなか改善しない場合には、喉の診療を専門とする病院への受診を改めて検討するとよいでしょう。仮に治療を急ぐような病気はなかったとしても、“声”はコミュニケーションのうえで非常に大切な要素ですし、なるべくよい声の状態で生活したいと願うのは当然のことだと思います。さまざまな治療方法がありますので、声や喉の調子でお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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  • 国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 診療科長、耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医長、音声・嚥下センター長

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