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一側性反回神経麻痺の治療選択肢――内科的治療や手術について

一側性反回神経麻痺の治療選択肢――内科的治療や手術について
二藤 隆春 先生

国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 診療科長、耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医長、...

二藤 隆春 先生

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声のかすれや嚥下障害(えんげしょうがい)などの症状が現れる反回神経麻痺(はんかいしんけいまひ)は自然回復せず、症状が続く場合には手術などの治療が必要になります。今回は反回神経麻痺の中でも特に多いとされる一側性反回神経麻痺の治療方法について、国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科(じびいんこうか)頭頸部外科(とうけいぶげか) 診療科長 兼 音声・嚥下(えんげ)センター長である二藤 隆春(にとう たかはる)先生にお話を伺いました。

反回神経麻痺と診断されたからといって必ずしも早急な治療が必要なわけではなく、治療が必要かどうかは原因や症状の程度・経過によって判断をします。悪性腫瘍(あくせいしゅよう)など命に関わり得る病気が原因の場合は、まずそちらの治療が優先されます。また、挿管性麻痺や特発性麻痺の場合は自然回復する可能性もあり、半年ほど経過観察をするのが一般的です。

半年を過ぎても改善がない場合や手術の影響で反回神経が明らかに損傷している場合は、自然回復は難しいと判断し、手術などの治療を検討することになります。なお、基本的に声のかすれ自体は命に関わる症状ではありませんが、呼吸困難が生じている場合や誤嚥(ごえん)のリスクが高いと判断される場合には速やかな治療が必要です。

一側性反回神経麻痺の治療方法には、大きく分けて保存的治療と外科的治療(手術)の2つがあります。保存的治療とは手術以外の治療法のことで、反回神経麻痺の場合は薬物治療と音声治療が挙げられます。手術には声帯内注入術や喉頭(こうとう)枠組み手術があり、患者さんの声帯の状態や全身状態、ご希望に応じて選択します。ここからは、それぞれの治療法について詳しく解説します。

反回神経麻痺を発症して早い段階では、炎症を抑えるステロイド薬や末梢神経(まっしょうしんけい)の修復を促すビタミン薬などによる薬物治療を行うことがあります。

音声治療とは声のリハビリテーションのことであり、声帯に残された機能を用いてよりよい発声状態を目指す治療です。音声治療にはさまざまな方法がありますが、近年では発声に関わる筋肉の強化や調整をすることで、よりよい声を目指すボーカルファンクションエクササイズという方法が主流となっています。

音声治療は、後述する音声外科手術後のリハビリテーションとして実施することもあります。反回神経麻痺の患者さんの中には頑張って声を出していた期間が長かったために、無意識に喉頭に力を入れる癖が付いてしまっている方がいらっしゃいます。そのような癖が残っていると術後の発声に影響することがあるため、力を抜いて発声できるようリハビリテーションを行うことがあります。

声帯内注入術は、声帯に自身の体から採取した脂肪(自家脂肪)や、アテロコラーゲン、ヒアルロン酸などの物質を注射で注入する治療法です。反回神経麻痺によって位置がずれたり筋肉がやせてしまったりした声帯のボリュームを増やし、位置を動かしたり、左右のバランスを整えたりすることで症状の改善を図ります。ただし、声帯の閉鎖が著しく不良で、ひどく息もれしている場合は効果が得られにくいです。

経口的あるいは首から経皮的に行う治療であり、注入物質を問わず切開の必要がない低侵襲(ていしんしゅう)な治療法であることがメリットといえます。デメリットとしては、注入した物質が体内に吸収され効果が減弱する可能性があります。どの程度吸収されるかは、使用する注入材や体質によって異なります。

自家脂肪

自分の組織を使用することで異物反応が起こりにくく、安全性が高い点、後述するコラーゲンやヒアルロン酸よりも吸収される量が少ない点がメリットですが、腹部などに一定の脂肪量があることが実施条件となります。脂肪の採取時の負担や安全な声帯内への注入のため、原則的に全身麻酔が必要になります。

アテロコラーゲン

アテロコラーゲンは、皮膚の凹凸などの補正・修復用に開発された医療材料です。注入後に吸収されやすい材料ではありますが、局所麻酔下に注入できるため、全身麻酔が適さないと判断された方や脂肪が少ない方、日帰り治療を希望される方に適した治療法といえます。

当院で使用している注入物質は自家脂肪とアテロコラーゲンの2つですが、そのほかにもヒアルロン酸(保険適用外)やリン酸カルシウムペースト(保険適用外)などの注入を行っている医療機関もあります。

喉頭枠組み手術とは、喉を構成する軟骨を手術することで、声帯の機能回復を図る治療です。複数の術式がありますが、反回神経麻痺の治療では披裂軟骨内転術(ひれつなんこつないてんじゅつ)甲状軟骨形成術(こうじょうなんこつけいせいじゅつ)I型という術式が用いられます。

披裂軟骨内転術は、声帯を動かしている披裂軟骨という軟骨に糸をかけ前方に牽引(けんいん)することで声帯を中央まで動かす手術です。一方、甲状軟骨形成術I型は甲状軟骨に穴を開け、体内埋め込み可能な医療材料を入れることで声帯を内側に押し、声帯の隙間を小さくする手術です。これらの術式は同時に組み合わせて行うことが多いです。

喉頭枠組み手術は声がよりよい状態になるように声帯の形や位置を調整するため、原則的に局所麻酔下で声を出せる状態で手術を行います。

喉頭枠組み手術は手術中に声の改善を患者さん自身が確認でき、よりよい声を目指せる点が大きなメリットです。声帯内注入術のように注入材料が吸収される心配がなく、永続的な効果が期待できるのもメリットといえるでしょう。

ただし、喉頭枠組み手術は首を切開する必要があるため、声帯内注入術と比べて侵襲性(しんしゅうせい)が高いというデメリットがあります。局所麻酔下(意識がある状態)で1~2時間程度の手術を受けることも負担になるかもしれません。また、術後の声帯のむくみや内出血などによる呼吸困難など、手術に伴って起こり得る合併症には一定期間の注意が必要です。

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  • 国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 診療科長、耳鼻咽喉科・頭頸部外科 医長、音声・嚥下センター長

    二藤 隆春 先生

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