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待っているだけでは発見が難しい膵臓がん――リスク因子を知り、積極的な健診の受診を

待っているだけでは発見が難しい膵臓がん――リスク因子を知り、積極的な健診の受診を
藤田 祐司 先生

NTT東日本関東病院 肝胆膵内科 医長

藤田 祐司 先生

目次
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膵臓がんは初期には症状が現れにくいため見つけるのが難しく、進行した状態で発見されるケースが多いがんです。早期に見つかれば手術によって切除できる可能性が高まるため、健康診断人間ドックを積極的に受け、早期発見・早期治療を行うことが重要です。今回は、NTT東日本関東病院 肝胆膵内科 医長の藤田 祐司(ふじた ゆうじ)先生に、膵臓がんの特徴やリスク因子、早期発見に向けた同院の取り組みについてお話を伺いました。

膵臓は胃の後ろ側にある細長い臓器で、膵液という消化液を分泌する外分泌機能と、インスリンなどのホルモンを分泌する内分泌機能があります。膵臓がんの多くは、膵液が通る膵管に発生します。

膵臓がんは一般的に“予後が悪い病気”として知られていますが、その理由の1つとして早期発見の難しさがあります。一般的な健康診断人間ドックに含まれている検査で膵臓全体をみるのは難しく、単純CT検査(造影剤を使用しないCT検査)でも見つけにくいため、症状が出ていない初期の段階では見つけにくいのが実情です。さらに、膵臓がんは進行速度が早いものが多いことも特徴です。

国立がん研究センターのがん情報サービスに掲載されているがん統計によると、部位別のがん罹患数予測(2023年)では、膵臓がんは45,900人で6番目に多いことが分かります。なお、男女差はほとんどありません。また、生涯で膵臓がんに罹患するリスクがあるのは38人に1人とされています。1学級に1人ぐらいの頻度と考えるとイメージしやすいかもしれません。一方、部位別のがん死亡数予測(2023年)では40,400人で4番目に多く、5年相対生存率*(1993~2011年診断例)は8.5%ともっとも低い数値です。こうしたデータからも、早く見つけて早く治療を開始することがいかに重要であるかが分かるでしょう。

*5年相対生存率:がんと診断された場合、治療によりどのくらい生命を救えるかを示す指標。具体的には、がんと診断され5年後に生存している人の割合が、日本人全体(同じ性別、年齢の日本人集団)で5年後に生存している人の割合と比べてどのくらい低いかを表す。100%に近いほど治療により生命を救える可能性が高いがん、0%に近いほど治療で生命を救うのが困難ながんを意味する。

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早期の膵臓がんは基本的に無症状ですが、膵頭部にできたがん黄疸(おうだん)症状(目や皮膚が黄色くなること)が出やすいため、初期の小さな段階でも発見されることがあります。また、まれではあるものの急性膵炎(きゅうせいすいえん)*の発症によって膵臓がんの診断に至るケースもあります。

膵臓がんが進行すると、腹痛、食欲低下、体重減少、倦怠感(けんたいかん)、腹水(おなかに水がたまること)による腹部膨満、黄疸などさまざまな症状が現れます。腹痛はみぞおちの辺りに感じやすく、ほかのがんと比べて痛みが強いという特徴があります。腹痛があって胃の内視鏡検査を受けたものの異常がなく、様子を見ていたところ膵臓がんであると判明したという方もいるため、注意が必要です。

また、膵臓はほかの臓器よりも背中に近い位置にあるため背中に痛みを感じることもあります。背中の痛みの多くは整形外科的な病気によるものですが、整形外科で異常を指摘されず、そのままにしていたら膵臓がんだったというケースもあるため、気をつけていただきたいと思います。

*膵炎:膵液を出す膵外分泌腺に炎症が生じる病気。急性膵炎では急激な炎症によって強い痛みが起こり、慢性膵炎では長期にわたる炎症によって細胞が破壊され膵臓の機能が低下する。

『膵癌診療ガイドライン2022年版』では、以下のような膵臓がんのリスク因子が挙げられています。

まずは家族歴です。膵臓がん患者さんの中には、第一度近親者(親やきょうだい)も膵臓がんを発症した方がいるケースがあります。膵臓がんの方がいる家系は、そうでない家系に比べて膵臓がんの発症リスクが高いとされており、膵臓がんを発症した人が多いほど、そのリスクは高まります。具体的には第一度近親者に1人いると4.5倍、2人いると6.4倍、3人以上いると32倍になるとの報告があります。

また、慢性膵炎と診断された方は膵臓がんの発症リスクが13.3~16.2倍になるといわれています。慢性膵炎の診断後2年以内は特にリスクが高く、時間の経過とともに低下していきます。そのほか、膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう)(IPMN)*などの膵嚢胞(すいのうほう)**も膵臓がんのリスク因子として挙げられます。

さらに、喫煙、過度の飲酒や糖尿病、肥満などの生活習慣病も膵臓がんの発症リスクを高めます。喫煙で1.7~1.8倍、過度の飲酒(アルコール摂取量が1日24~50g)で1.1~1.3倍、肥満で1.3~1.4倍といわれています。糖尿病では発症1年未満で5.4倍、2年以降は1.5~1.6倍と徐々に低下していきます。そのほか、ピロリ菌感染はリスクが1.4倍、O型以外の血液型はO型の1.9倍との報告もあります。

膵臓がんの発症をできる限り抑えるには、禁煙する、過度な飲酒をしない、太らないよう心がけるなどリスクを避ける努力が求められます。また、ピロリ菌は胃がんのリスク低減のためにも除去しておくとよいでしょう。

*膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):膵管の中に乳頭状に増殖する腫瘍。粘液を産生して嚢胞を作る。

**膵嚢胞:膵臓内や周囲にできる液体を含んだ袋状の病変。

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写真:PIXTA

膵臓がんは、症状が現れた段階では治療の選択肢が限られてしまうケースが多く、早期発見が非常に重要です。しかし、待っているだけでは早期発見の機会はなかなか巡ってきません。健康診断人間ドックなどで膵臓を観察できるオプション検査を積極的に受けるなど、自ら見つけようとする努力が必要です。

一般的な健康診断で膵臓がんを発見できる可能性があるとすれば、腹部超音波検査腹部エコー)です。膵臓の一部分しか見えないため限界はありますが、間違いなく受けておいたほうがよい検査です。ただし、企業の健康診断には腹部超音波検査が含まれていない場合もあり、そのようなときにはご自身で別途受けておくとよいでしょう。膵臓がんのリスク因子とされる膵嚢胞はすぐに治療を要するものではありませんが、定期的に経過観察を受け、がん化する可能性が高い状態になったとき、あるいはがん化したときにすぐに治療できるようにしておくことが大切です。

この記事の読者の皆さんの中にも、ご家族に膵臓がんの方がいるなどのリスク因子があり、ご自身も膵臓がんを発症するかもしれないと不安を抱えている方がいるかもしれません。後悔しないためにもお近くの病院やクリニックなどで一度検査を受けていただくことを強くおすすめします。

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