概要
膵嚢胞とは、液体を含んだ袋状の構造物(嚢胞)が膵臓内に形成される病気です。多くの場合、症状を伴わないため、健診や人間ドックなどで受ける超音波(US)検査やCT検査などで偶然に発見されます。
膵嚢胞は、炎症性膵嚢胞と腫瘍性膵嚢胞の大きく2つのタイプに分類されます。炎症性膵嚢胞は、主に急性膵炎(きゅうせいすいえん)や慢性膵炎などの膵臓に炎症が起きる病気が原因で発生し、膵臓の組織が損傷を受け、炎症反応の結果として嚢胞が形成されます。一方、腫瘍性膵嚢胞は、膵臓内に液体を産生する腫瘍が発生することで形成されます。
膵嚢胞の内部にたまる液体には、粘り気のある粘液と、さらさらした漿液があります。
治療は膵嚢胞の種類によって異なります。炎症性膵嚢胞では、原因となる病気の治療を行い、嚢胞が小さく症状がない場合は自然に消失することもあるため、経過観察を行います。膵嚢胞が大きく、周囲の臓器を圧迫して症状が現れている場合は膵嚢胞を摘出するか、嚢胞を胃などの別の消化管につなげる(交通させる)手術療法(吻合手術*)が実施されます。
腫瘍性膵嚢胞の場合、小さな無症状の嚢胞では定期的な画像検査による経過観察が選択されることもあります。しかし、大きな嚢胞や症状を引き起こしている場合、または悪性腫瘍と診断される、もしくは悪性化のリスクが高い場合には、膵嚢胞を取り除く手術療法が行われます。
*吻合手術:血管や消化管など管状の組織を縫い合わせて接続させることで、互いに連絡できるようにする(バイパスをつくる)手術のこと。
原因
膵嚢胞の原因となる代表的な病気は、以下のとおりです。
炎症性膵嚢胞の原因となる病気
急性膵炎
急性膵炎は、膵臓から分泌される膵液が膵臓内で活性化され、自分自身の膵臓が消化されることで生じる急性の炎症です。その主な原因はアルコールと胆石*であり、これらが急性膵炎の二大原因として知られています。
*胆石:食べ物の消化を助ける胆汁が固まって石になったもの。
慢性膵炎
慢性膵炎は、膵臓が繰り返し炎症を起こす病気です。初期段階では膵臓の機能が保たれていますが、次第に低下していきます。もっとも多い原因はアルコールで、喫煙も慢性膵炎のリスク因子となっています。長期的なアルコール摂取や喫煙は膵臓に負担をかけ、炎症を引き起こす原因となります。
腫瘍性膵嚢胞の原因となる病気
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は、膵液の流れる膵管内に粘液を産生する腫瘍が発生する病気です。この腫瘍は膵管と繋がっているため、分泌された粘液が膵液の流れを妨げ、膵管がさまざまな程度に拡張します。IPMNは腫瘍性膵嚢胞の中で最も頻度が高く、初期段階では良性ですが、時間の経過とともに一部が悪性化する可能性があります。
粘液性嚢胞腫瘍(MCN)
IPMNと同様に粘液を分泌しますが、膵管とはつながっていません。膵尾部に発生することが多い腫瘍です。腫瘍が成長する速度はゆっくりですが、悪性化することもあり、その場合は“粘液性嚢胞腺癌”と呼ばれます。
漿液性嚢胞腫瘍(SCN)
漿液を含んだ小さな嚢胞が集まって形成される腫瘍で、極めてまれな例外を除いて良性です。基本的に大きさは変わりませんが、まれに増大して周囲の臓器を圧迫することがあります。
症状
多くの場合は無症状ですが、膵嚢胞が大きくなった場合や膵炎がある場合、さまざまな症状が現れることがあります。
一般的な症状は、お腹や背中の痛みです。膵臓はみぞおちに位置するため、みぞおち付近から背中にかけて痛みを感じることがあります。
膵臓は消化酵素を分泌する重要な臓器であるため、膵嚢胞によって膵臓の機能が妨げられると、消化不良やお腹の張りなどの消化器症状が現れることがあります。これらの症状が続くと、栄養吸収の低下により徐々に体重が減少することもあります。
嚢胞が膵頭部にある場合、嚢胞が大きくなることで隣接する胆管を圧迫することがあります。この圧迫により胆汁の流れが妨げられ、胆汁が体内にたまることで、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が現れることがあります。
検査・診断
多くの場合、膵嚢胞は検診や人間ドックでのUS検査やCT検査で偶然に発見されます。
そのほかMRI検査や、先端に超音波装置がついた内視鏡で消化管の壁を通して膵臓を観察する超音波内視鏡検査も行われます。
また、腫瘍性膵嚢胞が疑われる場合、内視鏡を用いて膵液を採取し、腫瘍細胞の有無を調べる細胞診が行われることもあります。
治療
炎症性膵嚢胞と腫瘍性膵嚢胞では治療法が大きく異なります。
炎症性膵嚢胞
急性膵炎が原因の場合、急性膵炎の治療として膵臓を安静に保つために絶飲食を行い、点滴で必要な栄養を補給します。また、慢性膵炎の場合は禁酒・禁煙を行います。腹痛に対して、鎮痛薬や消化酵素のはたらきを抑えるタンパク分解酵素阻害薬などの薬が処方されることもあります。
腫瘍性膵嚢胞
腫瘍性膵嚢胞は、その大きさや症状、悪性化のリスクに応じて治療方針が決定されます。膵嚢胞が小さく、無症状で良性の場合は経過観察を行います。しかし、腫瘍が大きくなっている場合や腹痛などの症状が現れた場合、あるいは悪性と診断された場合や悪性化の可能性が高い場合には、膵嚢胞を含めた膵臓の切除手術を検討します。
手術方法は主に腹腔鏡下手術と開腹手術の2種類があり、膵嚢胞の状態に応じて選択されます。腹腔鏡下手術は、腹部に数か所の小さな穴を開け、先端にカメラが内蔵された腹腔鏡と呼ばれる手術器具を挿入して行う低侵襲な手術方法です。この方法は、膵嚢胞が比較的小さく、周囲組織への浸潤*がない場合に選択されます。腹腔鏡下手術のメリットとしては、傷が小さいため術後の痛みが少なく、回復が早いことが挙げられます。
一方、開腹手術は腹部を大きく切開して直接膵臓にアプローチする従来の手術方法です。膵嚢胞が大きい場合や進行したがんの場合に選択されます。
*浸潤:腫瘍が発生した部位から周囲の組織に広がること。
医師の方へ
「膵嚢胞」を登録すると、新着の情報をお知らせします