膵臓がんとは、胃の後ろ(背中側)にある膵臓と呼ばれる臓器に生じるがんのことです。好発年齢は60歳以降で、男女比はわずかに男性が多く約40人に1人の日本人が生涯で膵臓がんにかかると考えられています。膵臓がんは全がんの中でもっとも生存率の低い難治がんとして知られています。その大きな理由として、発見や診断が難しく進行がんで見つかることが挙げられます。
本記事では、膵臓がんの予後や生存率についてステージ(病期)ごとにお伝えします。
膵臓がん患者全体の5年生存率は女性で8.1%、男性では8.9%と、全がんの中でもっとも低いがんとして知られています。
膵臓がんが難治がんである理由の1つは、早期発見が難しいためです。初期に自覚症状がほとんどなく、症状が現れて病院を受診する患者さんの多くは進行がんと診断されることになります。そのため、膵臓がんと診断された段階で根治を目指した手術治療ができる患者さんは全体の20~30%程度とされます。
しかし、最近では化学療法を先行して行うことで手術治療を行える患者が増えています。残りの手術ができないような患者は化学療法を中心に放射線治療を組み合わせた治療が行われます。また、手術が可能である患者さんでも術後に再発することが少なくなく、術後に化学療法を組み合わせる集学的治療が行われ、術後の5年生存率は20~40%といわれています。
がん治療ではその進行度合いや広がり、転移の状態などによってステージ(病期)を定め、治療方針を決める際などに役立てられます。ステージにはI~IV期までがあり、なかでもI期がもっとも初期で、IV期がもっとも進行したがんです。
日本で用いられる膵臓がんのステージ分類は、日本膵臓学会が定めたものと国際的に用いられるUICC分類の2種類があります。以下では日本膵臓学会の定めた分類とわが国のがん登録データを用いて解説します。
I期はリンパ節や他臓器への転移がなく膵臓内にとどまっている状態で、がんの大きさによりAとBに分類されます。IA期はがんの大きさが2cm以下、IB期はがんの大きさが2cm以上となったがんを指します。
I期の膵臓がんでは主に手術治療と薬物療法を組み合わせた治療が行われ、5年生存率は36.2~54.1%といわれています。
II期もAとBに分かれます。IIA期はがんが膵臓の外に広がっているものの、近くの太い動脈である腹腔動脈や上腸間膜動脈に浸潤しておらず(がんが喰いついていない)リンパ節への転移のないものを指します。一方、IIB期はがんの広がりはI期やIIA期と同様であるものの、比較的近くのリンパ節への転移が4個以内確認されているものを指します。
II期の膵臓がんは多くの場合で切除手術が行われ、術後に化学療法や化学放射線治療(化学療法と放射線療法の併用)が行われます。しかし、最近では手術前に化学療法や化学放射線治療を行った後に切除術を行う治療戦略が試みられるようになってきています。II期の5年生存率は12.7~29.9%といわれています。
III期はがんが膵臓の外に広がり、腹腔動脈や上腸間膜動脈にも及んでいる状態を指します。
III期の膵臓がんでは、その広がりやリンパ節転移の状態によって手術治療・化学療法・化学放射線治療がいろいろな組み合わせと順序、期間で行われます。手術では、門脈などの血管の合併切除を同時に行うことがあります。III期の5年生存率は10.7%といわれています。
膵臓がんのIV期になると、がんは膵臓だけでなく離れた臓器にも転移し、重要な血管や臓器に浸潤している状態になります。さまざまな程度の疼痛や食欲不振、腹水、黄疸などの症状がみられます。
IV期の膵臓がんでは、化学療法による治療が行われることが多いですが、化学療法が効いて切除できるようになる場合もあります。Ⅳ期の切除患者の5年生存率は6.5%です。
膵臓がんで手術を受けた場合、術後5年間は経過観察、定期検査のための通院が必要です。また、日常生活では食生活や血糖コントロールに注意しましょう。
膵臓がんの手術をすると膵液の減少により消化不良、下痢を起こしやすくなります。そのため、術後は膵消化酵素剤の内服が必要になったり脂肪分を控えたり、消化のよい食べ物を食べるようにすることが必要です。飲酒については事前に医師に相談するのがよいでしょう。
そのほか、膵臓の役割の1つに血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌があります。膵臓の手術によって残された膵臓の体積が少なくなるため、インスリンが減少して糖尿病にかかったり、もともと持っていた糖尿病が悪化したりする可能性があります。さらに、膵臓を全摘した場合には、インスリンを注射によって補う治療が必要になります。このような場合は、糖尿病専門医の診察が必要になることもあります。
膵臓がんは難治がんの1つであるため、手術を行った場合でも再発のリスクを考えて術後の経過観察と定期検査を継続して受ける必要があります。そのため、術後は経過観察とともに日常生活にも注意して過ごすようにしましょう。
しかし、膵臓がんと診断されても決して慌てず恐れず諦めないで、治療の前でも治療が始まった後でも、手術の内容や術後の生活、あるいは化学療法や放射線治療の副作用などについて不安や疑問があれば、担当医に遠慮なく聞くことが大切です。
参考文献
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