異所性脂肪という言葉を聞いたことがある方はどれくらいいるのでしょうか。皮下脂肪や内臓脂肪を知る方は多いと思いますが、異所性脂肪という言葉を聞いたことがない方も少なくないのではないでしょうか。異所性脂肪とは、本来溜まるべき場所ではない臓器や筋肉に蓄積される脂肪のことをいい、糖尿病や動脈硬化などの疾患につながることがあります。この異所性脂肪にはどのような特徴があるのでしょうか。今回は、九州大学/東京医科歯科大学の教授である小川 佳宏先生に、あまり知られていない異所性脂肪についてお話しいただきました。
脂肪には、大きく分けて、正所性脂肪(せいしょせいしぼう)と異所性脂肪(いしょせいしぼう)があります。正所性脂肪とは、本来蓄積されるべき場所に溜まる脂肪であり、皮下脂肪や内臓脂肪を指します。本来、蓄積されるべき場所とは、脂肪細胞が存在する場所です。
一方、異所性脂肪とは、本来脂肪が蓄積されない場所に不適切に溜まる脂肪を指します。これは、脂肪細胞ではなく、たとえば、肝臓の中の肝実質細胞や骨格筋に存在する筋細胞など本来脂肪が蓄積されない細胞に蓄積される脂肪をいいます。
正所性脂肪である皮下脂肪、内臓脂肪、そして異所性脂肪には、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。
正所性脂肪のうち皮下脂肪とは、飢餓に備えエネルギーや栄養を保存しておくために蓄積される脂肪のことです。その名称の通り、皮膚の下に蓄積される脂肪であり、皮膚の上からつまむことができます。皮下脂肪は、なかなか溜まりづらい一方、一度過剰に蓄積されてしまうと減らすことが難しいという特徴があります。そのため、特に女性のなかには二の腕や足を細くしたいと望む方がいますが、それに反するように一度過剰に蓄積された皮下脂肪を減らすことは難しいのです。
内臓脂肪は、内臓の周辺に溜まる脂肪のことです。主に腸管の周辺に蓄積される脂肪を指します。この内臓脂肪には、ウイルスなどの異物が身体のなかに吸収されるのを防ぐ役割があります。これは、脂肪が腸管を守るバリアのような役割を果たす姿をイメージしていただくとわかりやすいでしょう。また、皮下脂肪と異なり、内臓脂肪は脂肪の出し入れがしやすい点が特徴です。たとえば、運動やダイエットで減らすことが比較的容易であるものの、食事の過剰摂取により蓄積もしやすい脂肪であるということができます。
これら正所性脂肪である皮下脂肪や内臓脂肪と異なり、異所性脂肪は、本来脂肪が存在しない非脂肪組織に溜まる脂肪を指します。主に膵臓、筋肉、肝臓、心臓(血管周囲)に過剰に蓄積される脂肪を指し、肝臓や筋肉に溜まるケースが典型的です。
お話ししたような皮下脂肪や内臓脂肪は、健康な状態を保つために一定の量の蓄積が必要です。たとえば、皮下脂肪は、お話ししたようにエネルギーや栄養を保存し、病気を予防するために有効です。
また、内臓脂肪がまったくない状態では、ウイルスなどの異物の吸収を防ぐことができなくなり腸管の免疫力が落ちるとともに、内臓がぶつかり合うことにより臓器が傷むことがあります。このため、一定量の内臓脂肪の蓄積は健康のために必要なのです。
しかし、一定以上溜まってしまうと、本来蓄積されるべき皮下脂肪や内臓脂肪の中だけでは脂肪を十分に収容できなくなり、肝臓や筋肉に運ばれ、異所性脂肪として溜まってしまうことになります。つまり、異所性脂肪とは、皮下脂肪や内臓脂肪などに溜めきれなかった脂肪といいかえることができます。
皮下脂肪は、女性に蓄積しやすいといわれています。閉経前の女性は、女性ホルモンが一定のサイクルを持ち働いているため、皮下脂肪を蓄積しやすい状態になっています。これは、疾患を予防し、糖尿病や動脈硬化、脂肪肝から守られている状態といえます。
ところが閉経後の50歳前後になると女性ホルモンが一定のサイクルで働かなくなってしまいます。その結果、内臓脂肪が蓄積しやすくなり、脂肪肝(中性脂肪が溜まった状態)やNASH (Nonalcoholic steatohepatitis:肝臓に脂肪が蓄積することで起こる肝炎)にもなりやすいといわれています。このため、閉経前の女性は皮下脂肪が溜まりやすく、閉経後には内臓脂肪が溜まりやすくなる点が特徴でしょう。
一方、内臓脂肪は、中年男性に蓄積される傾向があるでしょう。中年男性の肥満は、内臓脂肪型の肥満が多く、その結果、糖尿病や動脈硬化、脂肪肝などの生活習慣病を引き起こすといわれています。
通常、脂肪の蓄積は、主に体型の変化から自覚することができます。たとえば、皮下脂肪であれば、腕や足が太くなったり、お尻が大きくなったりすることで、皮下脂肪の蓄積を自覚することができます。また、内臓脂肪は、腹囲を測ることで、ある程度把握することが可能でしょう。しかし、異所性脂肪の蓄積は自覚しづらい点が大きな特徴です。肝臓に脂肪が溜まる脂肪肝になったり、筋肉に脂肪が蓄積されたりしたとしても、そもそも脂肪組織ではないのでブヨブヨと大きくなることはありません。もちろん、検査により把握することは可能です。たとえば、エコー検査によって脂肪肝を調べることはできるのですが、患者さん自身の自覚症状としては現れないのです。
このように、自覚症状がほぼないため、異所性脂肪は具体的な疾患が現れ、初めて気づく方がほとんどであるでしょう。異所性脂肪が引き起こす代表的な疾患には、糖尿病、脂肪肝、動脈硬化があります。
ここでは肝臓や膵臓などの臓器に異所性脂肪が蓄積されたケースについてお話しします。異所性脂肪が溜まると、その臓器の機能を落とす機能障害をもたらした結果、様々な生活習慣病につながることが認められています。
異所性脂肪が溜まると、悪い効果が出る脂肪毒性というものを発生させます。たとえば、肝臓に異所性脂肪が蓄積された結果、脂肪肝になると、脂肪毒性により高血糖を防ぐインスリンというホルモンが効きにくくなり糖の代謝が悪くなります。その結果、糖尿病や脂肪肝などの病変が進行してしまいます。
また、インスリンを合成・分泌する膵臓のβ細胞(ベータ細胞)に脂肪がたまると脂肪毒性でインスリンの分泌がうまくいかなくなり、その結果、インスリン抵抗性の糖尿病につながってしまいます。
このように、本来蓄積されるべきではない臓器に異所性脂肪が溜まることで、重篤になり得る疾患につながることがあります。
西洋人と比べ、日本人はそこまで体重が重くなければ、BMI(体重と身長を計算することで求められる肥満判定の国際基準)も高くない方が多いといわれています。それは、特に日本人男性は、皮下脂肪を蓄積しづらいという特徴があるからです。そのため、欧米人のような西洋の食事を過剰に摂取すると、皮下脂肪に蓄積されない脂肪は、脂肪細胞以外に運ばれ異所性脂肪となってしまうのです。私は、この「皮下脂肪が溜まりにくい」という特性が問題であると考えています。それは、必ずしも体重が重くなくBMIも低いから安心というわけではないからです。
また、特に中年の男性は加齢とともに筋肉が落ちてくるといわれています。皮下脂肪に脂肪を溜めることができない上に、筋肉で脂肪を消費することもできなければ、結果的に異所性脂肪や内臓脂肪の蓄積につながってしまいます。このように、それほど太っていないのに糖尿病などの生活習慣病になる患者さんが増加しているのは日本人の特徴であり、大きな課題であるでしょう。
疾患を予防するための異所性脂肪の落とし方や治療方法については、記事2『内臓脂肪・皮下脂肪の減らし方-異所性脂肪を防ぐためにできること』で詳しくお話しします。
九州大学 大学院医学研究院病態制御内科(第三内科) 教授
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