インタビュー

糖尿病の食事療法。「普通の食事」で血糖コントロール

糖尿病の食事療法。「普通の食事」で血糖コントロール
松澤 陽子 先生

松澤内科・糖尿病クリニック 院長

松澤 陽子 先生

張 日怜 さん

独立行政法人 労働者健康福祉機構 横浜労災病院 栄養管理部

張 日怜 さん

この記事の最終更新は2016年04月08日です。

糖尿病の患者さんにとって、食生活を見直し、適切な食事療法を行うことは非常に重要です。食生活を見直すことで、糖尿病が進行して起こる重篤な合併症の危険性を減らすことができます。糖尿病の食事療法について、横浜労災病院栄養管理部の張 日怜(ちゃん いるりょん)さんにご説明していただきました。

糖尿病は、生活習慣病のひとつであり、血液中のブドウ糖の濃さを示す「血糖値」の高い状態が続く病気です。糖尿病そのものでは痛みなどは伴いませんが、進行することによって全身の血管が障害され、重篤な合併症を発症する恐れがあります。

糖尿病の3大合併症は、眼の網膜内の血管が障害される糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)・腎臓の機能低下を招く糖尿病性腎症・足などのしびれや痛みを引きおこす糖尿病性神経障害です。これらを発症すると、最悪の場合、糖尿病網膜症では失明、糖尿病性腎症では人工透析、糖尿病性神経障害は手足の壊疽(えそ)(壊死した組織が細菌感染などによって腐敗すること)の一因となり、場合によっては手足の切断につながるなど重大な影響を及ぼします。

そのほか、糖尿病の合併症には動脈硬化による大血管障害(太い血管がつまるなどの病気)があります。動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどがたまり血液の流れが滞ることです。動脈硬化は、糖尿病初期に見られる「食後だけが高血糖」の段階の時点ですでに発症率が高くなっています。

大血管障害に分類される主な合併症は、ことばの障害や手足の麻痺などの後遺症が残りやすい脳梗塞や、激しい胸の痛みに襲われ、突然死もあり得る心筋梗塞です。

また、糖尿病になると

の発症率も高まることがわかっています。最近の研究では、「歯周病の治療をすると、血糖コントロールが改善された」との報告もあります。

糖尿病性神経障害が進行していると、痛みに気づかないこともあります。

血糖値が上がりやすい体質を変えることはできません。しかし、正しい治療により病気の進行を抑え、糖尿病をコントロールして合併症を予防することはできます。

そのため、「糖尿病コントロールのピラミッド」の図のように、まずは食事を改善して、適度な運動を生活に取り入れ、薬も上手に組み合わせるといった、バランスのとれた治療が重要になります。

以下は、上記3つのうちもっとも重要で基本となる食事療法の詳細です。

生活改善

糖尿病の患者さんには、摂取エネルギーの多さや偏った食事、運動不足が多く見られます。したがって、食事バランスを整え、適度な運動を行うことで血糖値のコントロールが可能になります。

特別な食事は必要ない

糖尿病の食事療法は治療の基本になりますが、特別な食事が必要というわけではありません。甘いものや炭水化物を一切断つなど、極端な制限は必要なく、食べる量をやみくもに減らすことも不要です。

重要なのは摂取エネルギーを適正にすることにあります。摂取エネルギーは摂り過ぎても不足しすぎても、体に負担がかかり血糖コントロールが乱れるもとになります。

適正エネルギー量を計算してみる

まず、ご自身が1日の食事でどのくらいのエネルギー量を食事から摂ればよいのか、計算してみましょう。

適正エネルギーの計算方法

ただし、糖尿病性腎症が進行している方(腎臓の機能が低下している方)の場合は基準が異なりますので、主治医に相談してください。

①適正エネルギー表一覧

一日の適正エネルギー量

上記の適正エネルギー量を参考にして、日々の食事を意識して摂ってみましょう。現在では、外食先のメニューにエネルギー量(カロリー)が表示されていることも増えてきました。

食事療法をすすめる上で重要なのは以下の3ポイントです。

生活リズムを整え、食事と食事の間隔を一定にします。食事を抜いたり、食事の時間が不規則だと血糖値が安定しません。とくに働いている方は、朝食抜きや、休日になると食事の時間が不規則になるといったことが起こりがちです。毎日同じ時間に規則正しく食事を摂ることを心がけましょう。

1日の適正エネルギー量を3等分し、朝・昼・夜に分けて食べるようにします。食事の量が多すぎても少なすぎても、血糖コントロールには悪影響です。1日2食の「まとめ食い」や夕食への配分過多は、空腹時の低血糖や食後の急激な血糖上昇などが起こりやすくなります。

また、間食はなるべく避けましょう。やむをえず間食する場合は、そのエネルギー量も1日の適正エネルギー量の計算に入れることを忘れないようにします。1日のエネルギー適正量の10%を超えないことが目安です。

一般的には1日の適正エネルギー量の配分は炭水化物50~60%、タンパク質15~20%、脂質20~25%です。

主食一覧

具体的には「主食・主菜・副菜」が揃っていることが理想的とされます。主食とは体を動かすための力の源になる炭水化物(米・パン・麺など)です。主菜とは筋肉や血液など、身体を作るもとになるタンパク質(肉・魚・卵・豆腐など)、副菜は体の調子を調整する働きを持つ野菜や海藻類が当てはまります。これらがバランスよく体内に摂取されることで体に十分な栄養がいきわたり、代謝が循環し、効率的にエネルギーを燃やすことができます。

パン食の場合は、菓子パンではなく野菜が入ったサンドイッチを選びましょう。また、サラダや乳製品を組み合わせると、食物繊維やタンパク質もまんべんなく摂れます。お弁当類は、野菜・魚・肉などが少量ずつ多種類入ったバランスの良いものが最適です。外食の場合も、必ずサラダやお浸しを加えてください。メニューにない場合は、ネギをたっぷりトッピングするといった工夫もできます。

なお、糖尿病患者さん向けの宅配食ならば、料理の手間も省け、カロリーや糖質、塩分に毎回気をつかわずに済むので、用途に合わせ上手に利用すると良いでしょう。

糖尿病治療は、単に「血糖値を下げること」が目的ではありません。

色々な糖尿病合併症によって生活に支障がでることを予防し、患者さんご自身に充実した豊かな人生を楽しんでいただくことが、治療のゴールです。

薬物療法については河盛隆造先生の記事『糖尿病の薬物療法-正常な“糖のながれ”を再現する治療法』の記事を参照してください。

運動療法については同じく河盛隆造先生の記事『糖尿病の治療について-食事・運動・薬物療法で“糖のながれ”を是正する』にて触れられています。

 

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