概要
糖尿病性腎症とは糖尿病の合併症の1つであり、高血糖状態が長く続くことによって腎機能が低下した状態のことです。糖尿病になってから約10〜15年以上たってから発症することが多いといわれています。
初期はほとんど自覚症状がありませんが、進行するとむくみや高血圧などがみられるようになります。さらに進行すると末期腎不全になり、腎機能の代わりをする“人工透析”が必要になります。
日本において、人工透析の原因疾患の第1位はこの糖尿病性腎症であり、国をあげて糖尿病腎症の重症化予防に取り組んでいます。
原因
糖尿病性腎症は、糖尿病による高血糖状態が続き、腎臓の血管が損傷することが原因で発症します。
腎臓には、血液から老廃物を取り除いて尿として排泄し、体内の水分量や血圧などを調節するはたらきがあり、これは腎臓の微細な血管が張り巡らされている糸球体と呼ばれる場所で行われています。
糖尿病で高血糖状態が続くと、血液中のブドウ糖が組織のタンパク質に結合した物質が増え、全身の小さな血管を傷つけて血管を詰まらせたり破いたりします。前述のとおり、糸球体には細い血管が多いので損傷が起こりやすく、その結果として腎臓の機能が低下すると考えられています。
症状
糖尿病腎症の初期は無症状であることがほとんどですが、進行すると以下のような症状が出る場合があります。
さらに腎機能の低下が進行して腎不全になると、尿毒症症状(吐き気やだるさ、食欲不振、吐き気、息苦しさなど)がみられることがあり、人工透析が必要になる場合もあります。
検査・診断
糖尿病性腎症の検査には、血液検査と尿検査があります。
血液検査
糖尿病性腎症の血液検査では、血糖値や糸球体ろ過量(eGFR:推算糸球体ろ過量)などを確認します。推算糸球体ろ過量とは、腎臓に老廃物を取り除き尿へ排泄するはたらきがどの程度あるのかを示す指標であり、血液中のクレアチニン値と年齢、性別から算出します。この値が低いほど腎機能が低下しているということになります。
尿検査
糖尿病性腎症の尿検査では、尿中のアルブミンやタンパク質の量を確認します。
これらは体に必要な栄養素なので、正常な場合は腎臓から尿に排泄されることはあまりありません。しかし、腎機能が低下すると尿中に漏れ出てしまいます。そのため、尿に出てくるアルブミン、タンパク質が多いほど、腎機能が低下しているということになります。
治療
糖尿病性腎症を悪化させないためには、早期に治療を始めることが重要です。糖尿病性腎症の主な治療法は食事療法で、血糖・血圧・脂質のコントロールが行われます。早期であれば、血糖などのコントロールをきちんと行うことで改善が期待できる場合もあります。また、必要な場合は経口血糖降下薬や降圧薬の服用およびインスリンの注射も行われます。
食事では1日の摂取カロリーに加えて、腎臓に負担がかかりにくくするため、タンパク質や塩分、脂質の摂取量にも配慮します。一方、高齢者の場合はタンパク質の制限によって低栄養を招くサルコペニア(加齢から全身の筋肉量が低下した状態)やフレイル(加齢から心身が健康な状態ではなくなること)などが起こる可能性もあるため、患者によって食事内容は異なります。
また、タンパク質の中でも植物性タンパク質である大豆は、腎機能の低下を抑えるという報告もあるため、食事内容は自己判断せずに医師や管理栄養士と相談しながら決めていくことが大切です。進行して腎不全になると、透析治療の導入を検討することになります。
予防
糖尿病腎症の予防では、血糖コントロールと動脈硬化を予防する対策をしっかりと行うことが重要です。糖尿病性腎症は血糖のコントロールがうまくできていなかったり、血圧が高かったり、たばこを吸ったりすることなどが関係していると考えられています。このため、生活習慣を見直し改善して、予防を心がけるようにしましょう。
また、糖尿病腎症の早期発見に役立つ検査は尿検査です。そのため、定期的に検査を受けて腎機能を確認しておくことも大切です。
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