糖尿病性腎症とは糖尿病の合併症で、高血糖が続き腎臓の機能が低下した状態のことをいいます。腎臓は、血液をろ過して必要な物だけを残し、余分な水分や塩分、老廃物を排出する臓器です。腎機能が低下するとこれらができなくなり、食事内容によっては腎臓に負担をかけてしまう場合もあります。そのため、主な治療法は食事療法と血糖コントロールです。
本記事では、糖尿病性腎症における食事療法の目的や食事のポイントについて解説します。
糖尿病性腎症における食事療法の目的は“腎不全への進行を防ぐこと”です。食事療法ではたんぱく質の摂取制限などによって腎臓の負担を軽くし、現状の腎機能をできるだけ長く保ちます。
実際の食事療法は患者や腎症の進行度によって異なり、医師や管理栄養士と相談しながら決めていくことが一般的です。
糖尿病性腎症の食事療法では、糖尿病の食事療法に加えて、たんぱく質や塩分、カリウムの摂取量を制限します。具体的な食事療法のポイントは以下のとおりです。
糖尿病性腎症の食事療法では、たんぱく質の摂取を制限されることが一般的です。
たんぱく質は筋肉や骨、臓器などの主成分で体に必要な栄養素ですが、尿素などの老廃物を出すため、取り過ぎると老廃物を処理する腎臓に負担がかかります。そのため、たんぱく質の摂取量を調整し、腎臓への負担を軽くすることが大切だと考えられています。
たんぱく質の制限は患者個人の状態やステージによって異なるため、必ず医師の指示に従って適切な量を取るようにしましょう。
前述のとおり、糖尿病性腎症の場合いずれもたんぱく質の制限は必要ですが、たとえば高齢者の場合は、たんぱく質を制限することで低栄養を招き、“サルコペニア”や“フレイル”などを引き起こすことが問題になっています。サルコペニアとは加齢などが原因で筋力が減少することで、フレイルとは加齢によって心身が衰えた状態のことをいいます。
また、中等度から重度の腎臓病の患者さんの場合はたんぱく質制限が推奨されていますが、軽症の腎臓病の患者さんの場合はたんぱく質制限の有効性が証明された研究はなく、明確な指針を示すのは難しいと考えられています。このようなことからも自己判断はせず、不安や疑問がある場合は医師や管理栄養士に相談するようにしましょう。
食事療法で単にたんぱく質を減らすと、全体のエネルギー源が少なくなってしまいます。人間はエネルギー源が十分でないと、体の中のたんぱく質を分解してエネルギーを補います。すると、たんぱく質を制限しても大量のたんぱく質を摂取していることと変わらなくなってしまいます。
そのため、たんぱく質を減らした分のエネルギーは炭水化物や脂質の比率を増やして補うことも大切です。
ただし、炭水化物の取り過ぎは高血糖状態を招く原因となり、肥満につながることによって血糖値が上昇しやすい体となる可能性があるため注意が必要です。1日3回の食事を規則正しく取るようにしましょう。
糖尿病性腎症によって腎機能が低下すると、塩分がたまりやすくなり、血圧が上昇する場合があります。
高血圧は、腎症の進行を加速させる重大な原因の1つです。そのため、腎症の食事療法では食塩の摂取も制限することがあります。
また、必要に応じてカリウム制限をする場合もあります。腎症が進行することで、カリウムが尿中へ排泄されにくくなり、血中カリウム濃度が高くなることで不整脈などを引き起こしやすくなるためです。
食事療法の目的は“腎不全への進行を防ぐこと”です。糖尿病性腎症は、早期であれば治療によって進展を遅らせることも可能だと考えられています。食事を含めた治療方針は患者のステージや状態によって異なるので、医師と相談しながら決めていくことが大切です。不明点や疑問点があれば、医師へ相談して確認するようにしましょう。
イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
日本内科学会 認定内科医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本医師会 認定産業医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
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