慢性腎臓病(CKD)は、成人の約8人に1人もの患者がいるといわれ、“腎臓の障害”と“腎臓の機能低下”のいずれか、または両方が3か月以上続いている場合に診断される病気です。腎臓には尿を作り出したり、体の水分や血圧、体液のバランスを調節したり、生きるのに必要なホルモンを作り出したりするなどのはたらきがあります。しかし、腎臓機能が低下すると体にさまざまな影響が出るようになります。この重症度に応じて5段階のステージに分けられ、治療ではステージに応じた適切な方法が選択されます。そのため、各ステージの概要や治療法について知っておくことは大切です。
本記事では、ガイドラインに基づき慢性腎臓病のステージや治療方針について解説します。
慢性腎臓病はステージは血液検査、尿検査、画像検査などによって分かります。特に尿検査で“タンパク尿が0.15g/gCr以上”もしくは、“糸球体ろ過量(GFR)が60mL/分/1.73m2未満”の場合に腎臓機能が低下していると判断されることが一般的です。
GFRとは、腎臓に老廃物を尿へ排泄するはたらきがどの程度あるのかを反映する数値で、この値が低いほど腎臓機能が低下しているということになります。このような検査結果などから診断がされ、1〜5までのステージ(重症度)に分類します。
慢性腎臓病は、腎臓機能の低下を糸球体濾過量(GFR)で評価し、G1(ステージ1)~G5(ステージ5)の5段階に分けられます。そのうえで、ステージに応じた治療計画を立てていきます。
GFR 90以上の場合はステージ1と診断されます。腎臓機能は正常もしくは高値と推定され、通常自覚症状はありません。また、タンパク尿などの尿検査異常がない場合には慢性腎臓病ではありません。一方、尿検査異常が続いている場合には慢性腎臓病が疑われます。
腎臓機能は正常であることから治療の必要はありません。ただし、喫煙、糖尿病、高血圧症、肥満、メタボリックシンドローム、腎臓病の家族歴(家族で腎臓病になった人がいるか)がある人などは、慢性腎臓病になりやすいことが分かっています。そのため、このような病気・生活習慣がある人は、禁煙、運動、減量、塩分やカロリー制限など、生活習慣を改善することがすすめられます。
GFR 60~89の場合はステージ2と診断されます。腎臓機能は正常もしくは軽度に低下していると推定され、通常自覚症状はありません。ステージ1と同様、タンパク尿などの尿検査異常がない場合には慢性腎臓病ではありませんが、尿検査異常が続いている場合には慢性腎臓病が疑われます。
ステージ1と同様に、喫煙、糖尿病、高血圧症、肥満、メタボリックシンドロームなどの病気・生活習慣がある人は、原因に応じた治療や生活習慣の改善を行うことが大切です。
GFR 30~59の場合はステージ3と診断されます。しかし、ステージ3は細かくG3aとG3bに分けられ、G3aではGFR 45~59で腎臓機能の低下が軽度~中等度、G3bでは30~44で腎機能の低下が中等度~高度となります。尿アルブミンやタンパク尿の数値が高い場合には、末期腎不全や心血管死亡の発症、死亡のリスクが高まります。
ステージ3でも適切な治療を行えば、腎臓機能低下の進行を防げる場合があります。治療としては、腎臓機能悪化の原因をコントロールすることや、血圧・血糖管理を中心とし、日常生活の改善や食事療法に加えて薬を用いた薬物療法が行われるのが一般的です。
GFR 15~29の場合はステージ4と診断されます。腎臓機能は高度に低下していると推定され、多くの場合、貧血やミネラル異常、骨の異常など腎臓機能低下によるさまざまな異常を伴います。
また、重症な腎不全や、重篤な心血管疾患にかかりやすく、末期腎不全や心血管死亡の発症、死亡のリスクが高い状態にあります。
ステージ4では、より厳格な生活改善、食事療法、薬物療法が必要となります。これらの治療によって現状を維持しつつ、透析の開始をできるだけ遅らせます。
GFR 15未満の場合はステージ5と診断されます。もっとも重症であり、末期腎不全の状態であると推定されることが一般的です。腎臓機能低下によるさまざまな異常を伴っている場合が多く、腎代替療法を必要とする直前の状態となります。
ステージ5では放置すると命に関わる可能性もあるため、腎代替療法が検討されます。腎代替療法には血液透析、腹膜透析、腎移植から患者さんにあった方法が選択されます。それぞれの治療法に長所と短所があることから、患者さん本人にとってもっともよい治療法を選ぶことが大切です。
腎臓は一度機能が低下すると回復することが難しく、徐々に低下していくのが一般的です。しかし、早い段階で治療を受けることによって進行を抑えることができる場合があります。
ステージによっては厳格な管理が求められるほか、治療の選択肢が複数ある場合もあるため、診断や治療について何か不明なことがあれば医師に相談するようにしましょう。
イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
日本内科学会 認定内科医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本医師会 認定産業医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
天野 方一 先生の所属医療機関
関連の医療相談が10件あります
腎臓結石の治療について
他病気の疑いがあり、CTを受けたのですが、その際に腎臓に結石があるのが偶然見つかった、と言われました。 先生からは現状では治療の必要がなく、尿管に落ちてくるかどうかもわからない、と言われました。 そこで疑問なのですが、 ①CTは内科で受けたのですが、泌尿器科の診断を受けた方がよいでしょうか? ②経過観察は、健康診断を受ける1年に1回エコーを受ける程度でいいのでしょうか?(そもそもエコーでは結石があるのがわかっていない) ③尿管に落ちると激痛を伴うようですが、回避する方策はないのでしょうか? ご回答いただけると幸いです。
NASHの治療について
人間ドックでNASHの可能性が高いと診断され、精密検査で肝臓内科を受診したところやはりNASHの可能性が高いと診断されました。 病院ではNASHは運動して食事をコントロールして体重を減らせば治りますから深刻な考える必要はないですよと言われました。 しかし自分でNASHについて調べると2割の人が肝硬変になるというデータもあり、恐ろしい病気なのではと思ってます。 NASHは肝臓内科の先生が言う通り体重を減らすことによって完治することは可能な病気なのでしょうか? 肝硬変にならないために体重管理以外にしなければいけないことはないのでしょうか?
健康診断で血圧が
昨日健康診断を受けて、血圧をはかったら上が150で下が88でした。昨年は上が110で下が85ぐらいだったのにいきなり上がり出して怖いです。何か病気のサインでしょうか?自分では疲れやすいぐらいで前とあまり変わらないと思うのですが?病院に行った方が良いですか?ちなみに143cm体重79キロです。体重落とさないと駄目ですよね?塩辛いおつまみやお酒、スナック菓子大好きです。これはやめないとまずいですね。
健康診断で心電図要受診
職場で年に1回健康診断を受けています。 ここ6~7年必ず心電図で3つ結果が書かれており、必ずあるのが「陰性T波」と「小さいR波」です。 平成30年に一回循環器内科に行き、エコーと血液検査をしてもらったのですが、問題なしと言われました。 なので、毎年心電図に所見があり要精密検査と書かれていても、きっと問題ないのだろうと思い特に再度検査等は受けていません。 ただ、毎年健康診断で引っかかるので、そのたびに気にはなります。 質問は、 同じような所見でも何年かに一回は精密検査を受けた方がいいのか? このよな所見が書かれていたら必ず精密検査を受けた方がいい、というような目安はあるのか? ということです。 よろしくお願いいたします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「慢性腎臓病」を登録すると、新着の情報をお知らせします