IgA腎症は、ゆっくりと静かに進行する腎臓病のことを指す慢性腎臓病の1つです。初期には自覚症状がないので、多くは学校や職場検診の尿検査で異常を指摘されて発見されます。そのため、定期的に健診などを受けて早期発見に努めることが大切です。
本記事では、IgA腎症の概要、原因、症状、治療方法などについて解説します。
IgA腎症とは、慢性糸球体腎炎の一種で、腎臓の糸球体に免疫グロブリンであるIgA(後述)というタンパクが沈着することで慢性的な炎症が起こる病気のことです。
腎臓の重要なはたらきの1つに“体内の過剰な水分や塩分、老廃物をろ過し、尿として体外に排出する”というものがあります。このはたらきをしているのがおよそ0.1~0.2mmほどの大きさの糸球体で、1つの腎臓に約100万個存在します。糸球体は毛細血管が球状に集まってできており、心臓から腎臓に流れ込む血液をふるいにかけてろ過しています。IgA腎症では、この糸球体に免疫グロブリンのIgAが沈着することによって慢性的な炎症が起こります。
発症者は子どもから大人まで幅広く、日本における患者数は約33,000人と推計されています。腎臓機能の程度や症状によって予後は異なりますが、成人発症の場合には10年間で約10~15%の確率で腎代替療法が必要な末期腎不全に至り、20年間では約40%とされています。
いまだ原因は不明ですが、腎臓に沈着するIgAの一部に異常(糖鎖異常IgA)が生じることと、患者の血液中に糖鎖異常IgAが増加することが分かっています。
IgAは主に腸管や分泌物に多く含まれるもので、鼻や喉などの粘膜から細菌が体の中に入るのを防ぐはたらきをします。糖鎖異常IgAは何らかの抗原(体内に入ってきた異物)に対する抗体(異物を攻撃するはたらきを持つタンパク質)として作られ、これが糸球体に沈着して発症すると考えられています。ここで原因となる抗原についてもまだはっきりと分かっていませんが、扁桃の慢性感染などの病巣感染が関係するといわれています。なお、IgA腎症は一般的に遺伝しません。しかし、患者の一部では家族内での発症が認められています。
IgA腎症にかかっても初期には無症状で、多くは学校健診や職場健診の尿検査でタンパク尿や血尿が検出されることで発見されます。このほか、急性扁桃炎などの上気道炎にかかった後にみられる肉眼的血尿(コーラのような色の血尿)で見つかることもあります。
未治療のまま病状が進行すると腎臓の機能が低下し、高血圧の合併や、むくみ、尿量の変化、頻尿、夜間尿、全身のかゆみなどの腎不全の症状が出るようになります。
IgA腎症ではほとんどの場合、尿検査で血尿を認め、病気の進行とともにタンパク尿も認めるようになります。診断を確定させるためには腎生検が必要で、この検査では背中から腎臓に針を刺して腎組織を採取し、顕微鏡で採取した組織を観察します。
IgA腎症に対する主な治療法として、薬物療法、手術、食事療法があります。治療方針は腎臓の機能やタンパク尿の程度によって異なります。
高血圧を合併している場合には、降圧薬の一種であるRA系阻害薬が用いられます。
また、タンパク尿や血尿がみられ、腎臓の機能がそれほど低下していない場合は、IgAによる炎症を抑え、タンパク尿や血尿を減らしたり腎臓の機能が低下するのを抑えたりする副腎皮質ステロイド薬の経口投与や点滴投与が検討されることもあります。そのほか、免疫抑制薬、抗血小板薬、魚油などが用いられることもあります。
IgA腎症に対する手術として口蓋扁桃摘出術があります。口蓋扁桃摘出術は外科的に扁桃腺を摘出する手術で、全身麻酔を行い、電気メスなどで扁桃腺を取り除きます。これにステロイドパルス療法を組み合わせた扁摘パルス療法が一般的に行われ、治療が難渋する場合や再燃する場合などに行われることがあります。
IgA腎症では塩分制限が重要で、腎臓の機能が低下している場合にはタンパク質制限が必要になることもあります。また、たばこを吸っている人は禁煙を、肥満の人では減量することがすすめられます。運動における制限は通常ありません。
IgA腎症は、学校や職場の検尿で偶然にタンパク尿や血尿を指摘されて発見されることが多いですが、急性扁桃炎などを合併したときには肉眼的血尿がみられることもあります。また、進行するとむくみなどの腎不全に伴う症状が出るようになります。このような症状を自覚した場合には早めに医療機関に受診し、検査を受けたほうがよいでしょう。
イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
日本内科学会 認定内科医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本医師会 認定産業医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
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