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低身長の治療――成長ホルモン注射の適応や方法は?

低身長の治療――成長ホルモン注射の適応や方法は?
田嶼 朝子 先生

埼玉県立小児医療センター 代謝内分泌科 医長

田嶼 朝子 先生

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低身長の子どもは100人に2~3人といわれ、その中で治療が必要な病気が見つかるのは10人に1人もいません。確率はそれほど高くないものの、病気であれば早期治療が重要ですので、気になることがあれば医療機関で検査をし、適切な治療を開始する必要があります。病気が見つかったらどのような治療が行われるのでしょうか。今回は、埼玉県立小児医療センター 代謝・内分泌科 医長の田嶼 朝子(たじま あさこ)先生に、子どもの低身長の治療として行われる成長ホルモン注射について教えていただきました。

低身長の治療は、基本的に成長ホルモン補充療法(成長ホルモン注射)のみです。ほかの病気が関わっていて、たとえば甲状腺ホルモンなどが不足している場合は、それらを補う治療も同時に行います。

成長ホルモン補充療法の適応となるのは、成長ホルモン分泌不全性低身長症ターナー症候群、プラダー・ウィリ症候群、ヌーナン症候群、SGA性低身長症、軟骨異栄養症、慢性腎不全による低身長です。原因となる病気により適応基準が定められており、基準を満たせば治療が行われます。

このうちSGA性低身長症を除く6つの病気は、埼玉県立小児医療センターでは小児慢性特定疾病医療費助成制度の認定基準を満たした場合に、各自治体へ医療費助成を申請して承認を得たうえで治療を開始します。ただし、成長ホルモン分泌不全性低身長症に関しては、その基準を満たさなくても通常の保険診療で治療を受けられることもあります。またSGA性低身長症は一定の基準の下で保険治療が可能です。

成長ホルモン補充療法(成長ホルモン注射)は、皮下注射を自宅で行います。成長ホルモンの投与量は病気によって決まっており、決められた量を週6~7回に分けて1日1回、夜寝る前に皮下注射します。成長ホルモンの分泌は午後10時から午前2時にかけてもっとも活発になるため、生理的な分泌に似た状況を作る意味から寝る前に行います。ちなみに当センターでは成長ホルモンの投与を週6回に分け、 1日は投与を休めるようにしています。

皮下注射は腕、お腹、お尻、太ももに行うことができますが、当センターではお尻に打っていただくことが多いです。お尻は皮下脂肪がついており注射するときにつかみやすいので、保護者の方も注射しやすいと思います。小学校高学年以降になってお子さんが自分で打ちたいという希望があれば、注射部位を太ももに変えることもあります。

注射器はペン型で、特別な手技を要するものではありません。当センターではこの治療を始めるとき、外来でご家族と一緒に説明書を見ながら流れを確認し、デモンストレーション用の注射器で練習します。その後、実際にお子さんに1回打っていただき、問題がなければ翌日からはご自宅で打っていただきます。

注射と聞くと怖がるお子さんもいますが、極細の針が開発されており、想像するよりも痛みを感じないと思います。一度経験すると、ほとんどのお子さんは嫌がりません。

成長ホルモン注射は骨の成長が終わるまで継続可能ですが、治療期間は、治療開始時期や二次性徴(思春期になって表れる男女の体の変化)がいつ来るかによって個人差があります。たとえば4歳から治療を始めて中学生や高校生頃まで継続する方もいれば、小学校の途中から始めて中学生ぐらいまでとなる方もいます。終了時期は、治療終了基準の身長に達したときか、あるいはX線検査により手の骨年齢を確認して見極めます。大人の骨になると成長ホルモンを注射しても身長は伸びないため、治療を終了します。

治療中は身長の伸びが改善されているか、副作用が出ていないかなどを評価することが必要です。しっかりご自宅で注射ができているかどうかを確認するためにも定期的に通院し、身体測定、診察、血液検査、尿検査などを行っていただきます。頻度は医療機関によって異なりますが、3か月~半年に1回が通院の目安になっており、当センターでは3か月に1回の来院をお願いしています。

成長ホルモンの効果には個人差があり、最終身長は治療開始時の身長が平均値からどの程度離れていたのかによっても変わります。身長の伸びは初めの1年間がもっともよく、その後は治療の効果が落ち着いてくるというのが一般的な傾向で、最終的に平均身長に近いところまで伸びる方もいればそこまで達しない方もいます。

成長ホルモン注射には以下のような副作用、リスクがあります。治療を始める前に医師から十分な説明を受けてください。

  • 関節や骨の痛み(成長痛と同様のもの)
  • 皮疹(ひしん)
  • 肝機能障害
  • 皮膚のしこり(同じ場所に打ち続けると皮膚の下の組織が硬くなり、薬の吸収が悪くなる。これを予防するため注射する場所を毎回変えるよう指導)
  • 高血糖(成長ホルモンに血糖を上げる作用があるため)

成長ホルモンには骨だけでなくさまざまな細胞を育てる作用があるため、低身長の原因が腫瘍(しゅよう)に関連しているときは慎重な判断が必要です。腫瘍に対する治療が最優先であり、治療後1~2年間再発がないことを確認してから、担当の医師と相談しながら成長ホルモン注射を検討します。

ほかにも、糖尿病がある方や、プラダー・ウィリ症候群で肥満が強い場合、重度の呼吸障害がある場合などは、成長ホルモン注射は禁止されています。

埼玉県立小児医療センターでは、低身長に対する成長ホルモン補充療法の適応有無を慎重に判断し、保険診療で治療を行っています。定期的に来院していただき、血液検査、尿検査、X線検査などにより副作用がないかどうかや治療の効果を確認し、それに基づいて薬の量を調整しています。

しかし、成長ホルモン注射を打てば必ず身長が伸びるというわけではなく、成長には生活習慣も大きく関わっています。したがって、バランスのよい食事、良質な睡眠、適度な運動を継続することも併せてお伝えしています。特に夜更かしなどによって睡眠の質が低下すると、食生活や運動習慣にも影響を及ぼします。ご家族の生活スケジュールを考慮しながら、無理のない範囲で生活リズムを整えていただくようお話ししています。

「規則正しい生活を徹底してください」と口で言うのは簡単ですが、さまざまなことに興味を持つ年代のお子さんやお忙しい保護者の方にとっては容易なことではないでしょう。毎日同じことを繰り返すなかで、身長がなかなか伸びない、注射の痛みを感じる、などの理由で治療を続ける意欲がなくなってしまっては元も子もありません。治療をいったん開始したら日々続けていくことが大切ですので、お子さんとご家族がモチベーションを保って治療を継続できているか確認しながら診療にあたるようにしています。

お子さんの低身長が気になるようであれば、一度医療機関を受診してください。検査の結果原因となる病態はなく、治療の適応がなくてがっかりされる方もいらっしゃいますが、病気でなければ安心ですし、毎日の生活で注意すべき点などについてアドバイスを受けられるでしょう。身長が低いことはお子さんの個性であると捉えて、好きなことや得意なことができる環境を整え、能力を伸ばしていけるよう支えてあげていただきたいです。

成長ホルモン補充療法を行うことになったお子さんは、毎日決まった量を注射しなければ十分な効果が得られませんので、しっかり続けていただきたいと思います。子どもが成長できる期間は決まっていて、ホルモン注射で治療可能な期間も大人の骨になるまでと限られています。保護者の方だけが頑張るだけでは続けにくいため、お子さん本人の意思をきちんと確認しながら治療に取り組むことが大切です。

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