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これからの時代に求められる腎臓内科診療――患者さんの“腎生”に寄り添う

これからの時代に求められる腎臓内科診療――患者さんの“腎生”に寄り添う
藤村 龍太 先生

市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理

藤村 龍太 先生

目次
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高齢化社会の進展とともに、腎機能の低下をきたす患者さんは増加しています。腎機能の低下は、全身にさまざまな不調をきたし、生活の質を低下させることから、健康寿命の延長に向けては、早期かつ継続的な治療が求められます。そうした中で、地域の腎臓内科が担う役割は以前にも増して大きくなりつつあり、近年、かかりつけ医との連携、患者教育などの幅広い取り組みが行われてきました。そこで今回は、市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理 藤村 龍太(ふじむら りゅうた)先生に、大阪府・中河内医療圏における同センターの役割や慢性腎臓病重症化予防に向けた取り組み、今後の展望などについてお話を伺いました。

大阪府・中河内地域の医療を支える市立東大阪医療センターの腎臓内科では、急性期・慢性期を問わず腎疾患の診断から治療までを一貫して行ってきました。そうした中で、私たちは“腎臓病にならない”、“腎臓病を進行させない”、“腎臓病で命を落とさない”ことをモットーとし、患者さん一人ひとりに合ったトータルケアを実践することを心がけています。

また、当センターは総合病院として、さまざまな背景を持つ患者さんに対応していることから、当科で扱う病気は、腎炎ネフローゼ症候群など腎臓そのものに起因するものから、糖尿病高血圧症膠原病(こうげんびょう)などに連動して起こる腎臓病まで幅広く、その内容も原因疾患の治療のみならず、腎機能低下の抑制や腎代替療法の選択・導入、透析合併症の治療など多岐にわたります。

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さらに腎臓内科の治療においては、ほかの診療科や多職種と連携する機会も多く、そこでは密なコミュニケーションも求められます。私たちは診療科や職種の垣根を越えた講演会・研究会などを開催しながら互いの理解を深め、スムーズな連携につなげています。

当院のある中河内医療圏は、大阪府西部の3市(東大阪市、八尾市、柏原市)から構成される地域で、大阪府の中でも高齢化率の高い地域です。また、糖尿病高血圧症の患者さんも多いことから、慢性腎臓病のリスク因子を持つ人が多いという特徴があります。しかしながら、特定健診の実施率*は、全国の平均が33.7%、大阪府の平均が27.5%に対して、東大阪市の平均は25.4%と低い状態にあり、慢性腎臓病の早期発見・重症化抑制に向けては、啓発活動など取り組むべき課題が多いと考えられます。

それに加えて、中河内医療圏は人口に対する医師の数が少なく、腎臓の専門医も十分ではない状況が続いています。当地域の慢性腎臓病患者さんの健康寿命を延ばすためには、早期からの腎臓専門医の関わりが重要であり、その中で当センターは“CKD病診連携”として、シンプルで分かりやすく、続けやすい連携システムを運用してきました。また、CKD病診連携の取り組みは、慢性腎臓病患者さんの予後を改善するだけでなく、腎臓専門医による診断・治療方針、医療スタッフによる患者教育の内容が、患者さんを通じてかかりつけ医に伝わるというメリットもあります。結果として地域の慢性腎臓病診療のレベル向上にもつながっています。

*特定健診の実施率:ここでは2020年度の特定健康診査のうち国民健康保険(市町村国保)の受診者数を対象者数で割ったものとする。

慢性腎臓病の重症化予防に向けては、腎臓専門医やかかりつけ医だけではなく、地域医療を担う訪問看護師や介護福祉士、医療政策を策定する行政とも協力しながら、対策を進めていく必要もあります。大阪府では、府内の腎臓内科を有する13の医療機関で構成された“大阪慢性腎臓病対策協議会(O-CKDI)”を中心に、慢性腎臓病に関する普及啓発活動、医療連携体制の整備、人材育成などに取り組んでおり、当センターは中河内医療圏における拠点としての役割を担ってきました。特に慢性腎臓病対策に必要な人材の育成は急務であり、当科では地域の医療者に向けた講演会・研修会を精力的に行っています。また、新型コロナウイルス感染症の流行により中止となっていた市民公開講座などの啓発活動についても、近く再開したいと考えています。

今後、高齢化の進展はさらに強まると考えられ、やがて多死社会を迎えることになります。それに伴い、透析患者さんの数は徐々に減少していくと考えられますが、健康寿命の延伸や医療費の適正化という観点からは、透析患者数をさらに減少させるための取り組みを進めていく必要があります。これに対して、より早期からの若年層への介入が重要なポイントになると考えています。ここでも腎臓内科医が担う役割は大きく、患者さんの多様なライフスタイルに合った重症化予防対策の展開が求められるでしょう。

また、腎臓病の背景には生活習慣病や慢性腎炎が関わっており、治療の経過が長くなることから、患者さんと腎臓内科医とは長期にわたって関係が続くケースも多いと感じます。腎臓病の検査・診断に始まり、患者教育、治療方針の決定、病状やライフスタイルの変化に合わせた調節や透析の導入など、治療経過の節目に寄り添いながら、患者さんの“腎生”を支えていくことは、腎臓内科医としての使命であり、私たちのやりがいでもあります。

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さらに、腎疾患は全身のさまざまな病気により生じるため、腎臓内科医はほかの診療科との協力のもと治療を行う機会がとても多いという特徴があります。また、栄養指導を行う管理栄養士や、透析機器を管理する臨床工学技士、運動療法を担う理学療法士など、さまざまな医療スタッフとも関わります。患者さんにとって適切な治療を実現するためには、腎臓内科医によるリーダーシップのもと、円滑な多職種連携の実践が不可欠です。職種や年齢、経験を問わず、互いを尊重して意見を出し合い成長できる関係性を大切にしていきたいと考えています。

腎臓は、血液浄化や内分泌、代謝において重要な役割を担う臓器であるとともに、全身の臓器とも密接に関連していることから、腎臓内科の診療は“全身を診る”ことから始まります。診療を進める中では、総合内科のような思考が必要とされるのに加え、さまざまな診療科との協働のもとで腎臓内科としての専門性も求められます。こうした経験を通じて、内科のジェネラリストかつプロフェッショナルとしての力をバランスよく身につけられるのが腎臓内科の魅力の1つでもあります。

また、腎臓内科診療では、患者さんの生活や価値観などに深く関わることが多く、その対応においては柔軟な人間性も求められます。たとえば、腎代替療法など、患者さんのこれからを決める重要な場面も多く、医師の患者さんに対する姿勢は大きな影響を及ぼします。当科では、実臨床の現場で患者さんとのコミュニケーションについても経験を積むことができ、“患者さんから多くを学び続ける”という姿勢を大切にしながら、よりよい診療を実現できるよう指導を行っています。

さらに、腎臓内科領域ではいまだ解明されていないことも多く、腎臓内科医のだれもが現在の医療に限界を感じた経験があるはずです。そうした限界と正面から向き合うことは、自身の成長や臨床医としての豊かな経験につながります。私たちは若手医師の“リサーチマインド”を大切にしたいと考えており、学会発表や研究会への参加も支援してきました。

このように、腎臓内科医として求められる能力は多岐にわたりますが、当科ではこれらをバランスよく身につけることを目指した研修・指導を行っています。出身大学を問わず、志を共にする医学生・研修医とともに、よりよい腎臓内科をつくっていきたいと考えていますので、ぜひ一度見学にいらしてください。

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