慢性腎臓病が進行して、腎臓の機能が著しく低下すると、老廃物の排泄や水分バランスの調整が困難となり、その機能を助ける腎代替療法が必要になります。日本における腎代替療法の中心は透析療法ですが、近年は患者さんの生活スタイルや価値観に合わせて、方法や回数などを選択できるようになりつつあります。そこで今回は、市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理 藤村 龍太先生に、腎代替療法の概要や導入のポイント、同センターにおける取り組みなどについてお話を伺いました。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)などにより腎臓の機能が低下すると、やがて患者さんの腎臓だけでは血液中の老廃物などを十分に排泄できず、体内の環境を正常に保つことができなくなります。体内に老廃物や水分がたまることで、むくみや疲労感だけでなく、吐き気や下痢、かゆみなどの症状が認められるほか、意識障害や不整脈、心不全など命に関わる病気を起こすこともあります。
腎臓の機能が著しく低下した末期腎不全に至ると、残念ながら腎機能が回復する見込みは非常に低くなるため、老廃物や不要な水分の排泄などの腎臓の機能の代わりをする腎代替療法(透析療法・腎移植)の導入が検討されます。
透析療法には血液透析と腹膜透析の2つの方法があり、日本では血液透析が9割以上を占めています。
血液透析は、腕の血管に血液の出入り口となるシャント(バスキュラーアクセス)をつくり、そこから取り出した血液を透析器(ダイアライザー)に通して血液中の老廃物や不要な水分を除去します。透析器を通った血液は、シャントから再び体内へと戻ります。血液透析は基本的に医療機関で行われるため、一般的には週3回程度の通院が必要で、治療時間は1回あたり4~5時間程度です。
腹膜透析は、お腹(腹腔)の腹膜に囲まれた空間に透析液を入れて、その液体に体内の老廃物や不要な水分を移し、透析液ごと取り除く治療法です。腹膜透析には、1日3~4回、日中に患者さん自身が交換する方法(CAPD:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)や、就寝中に機械が自動的に交換する方法(APD:Automated Peritoneal Dialysis)があり、患者さんのライフスタイルに合わせて選択することができます。腹膜透析では、透析液の交換の手間がありますが、仕事先や旅行先でも実施することができるのに加え、通院は月に1~2回と血液透析よりも少なくて済みます。
腎移植は、機能が大きく低下した患者さんの腎臓の代わりに、提供された正常な腎臓を移植する治療法です。腎移植にはご家族などから腎臓の提供を受ける生体腎移植と、脳死や心停止により亡くなった方から提供を受ける献腎移植があります。正常な腎臓を移植するため、透析療法よりも生活の自由度が高い治療法です。しかしながら、患者さんは免疫抑制薬の服用を続けなければならず、感染症や悪性腫瘍のリスクが増加する可能性があること、腎臓を提供するドナーの負担なども考慮したうえで実施を決定する必要があります。
腎代替療法は、患者さんの生活を大きく変える可能性のある治療法であり、方法によって長所と短所も異なります。近年は、患者さんのライフスタイルや価値観、家族の支援の状況、治療環境などを踏まえて治療法を選択できるようになりました。しかし、これまでの日本では血液透析が圧倒的に多く用いられ、そのほかの選択肢に関する情報提供や準備期間は十分ではなかったと考えられます。
また、腎代替療法の導入で大切なことは、腎臓の機能の低下から腎代替療法が必要な時期を見越して、導入の前から準備を進めていくことです。たとえば透析療法の場合、腎臓の機能が大きく低下して命に関わる状況になった段階で急いで透析療法を導入するよりも、もう少し症状が軽い段階で開始したほうがよい治療成績が得られるとされます。したがって、腎代替療法の導入が視野に入る腎臓の機能が正常の30%未満(CKDステージ4)に至るまでには、腎代替療法についての情報収集や検討を始めることが望ましいでしょう。
当センターでは血液透析・腹膜透析による透析療法を実施しており、2022年度には血液透析63件と腹膜透析9件の新規導入を行いました(2022年1月~2022年12月)。腎移植は実施していませんが、希望する患者さんについては、専門の医療機関をご紹介することができます。また、全身管理が必要な重症の患者さんに対する透析治療にも対応しており、新型コロナウイルス感染症に伴う腎不全に対する透析治療や、心不全やがんなどの合併症を有する透析患者さんの入院治療など、治療の難しいケースも受け入れてきました。また、心臓血管外科・放射線科との連携のもと、透析に必要なシャント(バスキュラーアクセス)の造設やシャントのトラブルにも対応しています。
日本での腎代替療法は、従来から血液透析が中心であり、これまで腹膜透析はほとんど普及していませんでした。その背景には、日本には透析施設が多く、比較的身近な治療であったことや、治療選択にあたって腹膜透析の説明が十分に行われていなかったことなども関係しているかもしれません。しかしながら、腹膜透析は在宅治療が可能で、食事制限も少ないなど患者さんの負担は比較的少ない治療法です。また、高齢者では血液透析に比べて認知症を発症するリスクが低いこと1)も明らかになるなど、高齢化社会を迎える日本においてはニーズの高い治療法だと考えられます。そこで当センターでは、2020年から腹膜透析を腎代替療法の選択肢の1つに加えるとともに、2021年からは腎代替療法選択外来を開設して、患者さんの腎代替療法の選択を支援してきました。
2021年6月に開設して以来、2023年3月までに当外来を受診された110名の患者さんのうち、78名が血液透析、22名が腹膜透析、7名が腎移植、3名が透析非導入を希望されており、患者さんに合った腎代替療法の選択肢を提供できるよう診療に取り組んでいます。
医師をはじめとした医療スタッフは、治療の選択にあたって“長生きすること”や“合併症を起こさないこと”に注目してしまいがちです。しかしながら、患者さんによっては“透析治療をしても旅行ができるか”“日常生活はどのように変わるのか”といった日常生活に関わることのほうが、より重要に感じられている方も多いと思います。そこで、当科の外来診察では、各治療法の概要やメリット・デメリットについての情報提供を行うだけでなく、医療スタッフが患者さんの悩みや希望、価値観などを伺い、腎代替療法導入後の生活を一緒に考えながら、患者さんが目指すゴールに目線を合わせた治療選択を心がけています。
「透析治療や腎移植が必要になるかもしれない」と伝えられた患者さんやご家族は、これからのことを考えて大きな不安を抱えていらっしゃるかもしれません。病気のことや治療のことなど膨大な医療情報を前に、今後の生活を思い描くことができず、頭の中が真っ白になってしまった方もいらっしゃるでしょう。
しかしながら、透析療法は進歩を続けており、近年は患者さんの病状だけでなく、ライフスタイルや価値観に合わせ、方法や治療回数なども選択できるようになりつつあります。透析療法は腎臓病治療の最終地点ではなく、豊かな療養生活の始まりの一歩です。ご自身が大切にしたいことや、やってみたいことなどを思い描き、ぜひ私たちに伝えてください。当科 腎代替療法選択外来のチームは患者さんのお考えを最大限に尊重し、それぞれの人生に合った治療方法を一緒に探すお手伝いをさせていただきます。患者さん、ご家族、医療スタッフがチームとなって、どの治療が今の自分に合っているのかを一緒に考えていきましょう。
参考文献
市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理
市立東大阪医療センター 腎臓内科 部長代理
日本内科学会 認定内科医・内科指導医・総合内科専門医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本透析医学会 透析専門医・透析指導医日本腎代替療法医療専門職推進協会 腎代替療法専門指導士International Society of Nephrology(ISN) 会員
東大寺学園高等学校を卒業後、医学の道へ。大阪大学医学部を卒業後、2012年に大阪大学医学部腎臓内科へ入局。国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部附属病院で腎疾患の臨床に幅広く従事した後、大学院へ入学し、生活習慣病と腎臓病に関する基礎研究を行う。2019年より臨床現場に復帰し、腎臓内科を志す若手の育成や腎疾患対策の推進、地域の先生方との病診連携に取り組む。多職種連携による腎疾患のトータルケアを実践し、患者さんと真っすぐ向き合って一人ひとりに身近で信頼される医療の提供を目指す。座右の銘は一期一会。
藤村 龍太 先生の所属医療機関
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