インタビュー

IgA腎症の症状と検査 - 腎生検とは? eGFRとは?

IgA腎症の症状と検査 - 腎生検とは? eGFRとは?
小松 康宏 先生

聖路加国際病院 副院長/腎臓内科部長

小松 康宏 先生

この記事の最終更新は2016年12月31日です。

時に「肝腎要」と言われるように、腎臓は血液中の塩分や老廃物をろ過し、尿として体外に排出することで、体内の環境をきれいに保つ非常に重要な臓器です。腎臓の機能が低下すると老廃物や過剰な塩分が体内に溜まり、高血圧、全身の浮腫(むくみ)、尿毒症といった様々な弊害を引き起こします

腎臓病には、糸球体腎炎ネフローゼ症候群、嚢胞腎、糖尿病は高血圧による腎病変など様々な種類があります。また急性と慢性に分かれ、腎機能障害が進行すると腎不全といわれる状態になります。IgA腎症は慢性糸球体腎炎の一種で、日本人の慢性糸球体腎炎の多くを占める病気です。本記事ではIgA腎症について聖路加病院腎臓内科部長の小松康宏先生にお話を伺いました。

IgA腎症は免疫が関係する腎臓病の一種です。IgAとは免疫グロブリンAの略称です。私たちの体は病原菌やがん細胞から体を守る「免疫」という仕組みがありますが、免疫の中で大きな役割を担っているのが免疫グロブリンという蛋白質で、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があります。IgAは通常、気管支や腸などの粘膜を外敵から守っています。本来はウイルスや細菌などの外的から私たちの体を守ってくれるIgAが何らかの異常により腎臓の糸球体に沈着し、腎臓を傷つけていくのがIgA腎症です。糸球体というのは毛細血管が毛糸玉のように集まったもので、腎臓をつくる重要な構造です。

IgA腎症が発症すると腎臓の機能が少しずつ低下し、無治療で放置した場合には約3割の方が透析が必要な末期腎不全に至るともいわれています。早期に適切な治療を行えば病気の進行を抑え、透析をさけることができるようになってきているので、早期診断と治療が大切です。

糸球体イラスト
糸球体断面図

IgA腎症の原因は免疫グロブリンA、通称IgAにあると考えられています。感冒や扁桃腺炎などにより質が違うタイプのIgAが産生され、腎臓の糸球体に沈着し炎症を起こすことで、血尿や蛋白尿が出現すると考えられます。

IgA腎症の主な症状は尿に赤血球と蛋白が漏れることです。健常人の尿には赤血球や蛋白はみられませんが、IgA腎症では糸球体の毛細血管が傷ついた結果、赤血球と蛋白が尿に漏れてしまいます。尿中に赤血球が漏れているものを「血尿」といい、顕微鏡で尿をみて確認します。健診などでは尿試験紙の色の変化から尿中の赤血球の有無を判断します。「尿潜血陽性」とは、尿試験紙を使った検査で、血尿が疑われることを意味しています。

患者さんの中には、血尿だけで蛋白尿は見られない方もいますし、血尿と蛋白尿の両方がある方もいます。血尿といっても、目で見て尿の色が赤くなるわけではありません。顕微鏡でみれば尿中に赤血球を認めても、尿の外観だけでは通常の尿と変わらないことがほとんどです。

IgA腎症になっても自覚症状はほとんどありません。蛋白尿や血尿があっても目で見てわからないことも多く、自覚症状らしい自覚症状といえば風邪を引いた際に、ウーロン茶のような色の尿(肉眼的血尿といいます)が出ることがある程度です。腎機能が低下すると水分や塩分が体内に溜まるので、足がむくんだり、血圧が高くなることもあります。IgA腎症になると疲れやすくなるのではと思われるかもしれませんが、IgA腎症が進行し末期腎不全に至った患者さんを除けば、疲れやすくなることはありません。

24時間畜尿の採取
24時間畜尿の採取

IgA腎症は自覚症状がほとんどみられないので、7~8割の患者さんは健康診断などの尿検査がきっかけとなって発見されます。IgA腎症の発見には、年に一回の検尿がとても大切だと言えるでしょう。

IgA腎症の場合、漏れ出す蛋白の量と腎炎の程度に関連があります。蛋白尿が多い患者さんほど、腎炎が進行する可能性が高くなります。正常な人では尿蛋白の量は1日あたり0.15グラム未満ですが、1日1グラム以上の蛋白が継続して漏れ出している場合は積極的な治療が必要ですし、1日0.5グラム以上で要注意(腎生検も検討)と考えられています。

健診や外来での尿検査では、細長い紙でできたテステープ(尿試験紙)を利用し、1+や2+といった指標で尿中に蛋白や赤血球が含まれているかを調べます。

また、尿蛋白濃度と尿クレアチニン濃度の比を調べることで、1日あたりどの程度の蛋白が漏れ出しているかを推測することができます。尿の蛋白の濃度(mg/dl)と尿クレアチニンの濃度(mg/dl)の比率が1日の尿蛋白量をあわらします。たとえば、尿蛋白の濃度が50mg/dlで、クレアチニンが100mg/dL、つまり尿蛋白クレアチニン比が0.5の場合、1日あたりに漏れ出している蛋白量は0.5グラムと推測できます。

もっとも、これは1日に漏れ出している蛋白の量を推測しているだけで、正確な数値とは言えません。そこで、尿検査に異常が見られた場合、血液検査と24時間の蓄尿を行うことがすすめられます。

24時間蓄尿とは24時間の尿を溜め、正確に何グラムの蛋白尿が含まれているか、また血液検査と組み合わせることで腎機能がどの程度かを調べる検査です。ペットボトルなどに1日分の尿を溜めて検査します。

24時間蓄尿による検査は、随時尿による検査と比べ、より正確な情報が得られます。24時間の蓄尿の結果、0.3~0.5グラム以上の尿蛋白がつづく場合は腎臓に異常がある可能性が高いので、正確な診断をつけるために「腎生検」を行うことが望ましいと考えられています。

腎臓の組織の一部を採取して検査することを「腎生検」といい、腎臓病の原因と程度を正確に診断することができます。

腎生検
腎生検

実際に採取した腎臓組織を観察することで、IgA腎症の診断を下すとともに、治療の必要性やその後の腎炎の進行を予測することができるようになります。

IgA腎症は

・特別な治療をしなくても透析に進行する可能性がほとんどないもの

・治療しないで放置すれば発症から20年前後で透析に至る可能性があるもの

・発症から5年程度で透析に至る可能性が高いもの

にわけられます。腎生検は、IgA腎症の勢い、つまり腎機能が今後どのような時間軸で低下していくかを推測できるので、非常に価値のある検査と言えるでしょう。

実際の腎生検では、局所麻酔をしたうえで、背中から注射針のような細い針を刺して腎組織の一部を採取します。エコー(超音波)で腎臓の位置を見定めながら検査を行うので危険はすくないのですが、腎臓には心臓から大量に血液が流れこむため、出血の危険があります。安全に検査を行うため入院が必要で、検査後半日はベッドで安静にしていただきます。

腎臓の状態を調べるために、腎エコー検査も併せて行います。IgA腎症の場合、腎臓そのものの形に変化はありません。

腎臓の機能を調べる検査には、BUN(尿素窒素)、クレアチニンがあります。腎臓の働きが低下すると、BUNやクレアチニンが高値となります。BUNやクレアチニンの基準値は性別、年齢で異なるので、腎臓の働きそのものを評価する数値として近年、eGFRが使われるようになってきました。

・男性:eGFR (ml/分/1.73㎡) = 194×Cr-1.094×年齢-0.287

・女性:eGFR (ml/分/1.73㎡) = 194×Cr-1.094×年齢-0.287×0.739

※eGFR=推算糸球体濾過量

※Cr=血清クレアチニン値

GFRとは糸球体ろ過値(glomerular filtration rate)の略ですが、一分間に何mLの血液が腎臓で浄化されてているかを意味します。例えば、GFR=100の場合、一分間に100mLの血液が浄化されている、ということになります。まさに腎臓の機能そのものであり、非常に有用な値なのですが、正確に測定するためには畜尿が必要なので煩雑です。

そこでGFRを直接測るのではなく、血液中のゴミの量(クレアチニン値)が多ければ腎臓の処理能力が低いだろうという考えから、体内の老廃物の量からGFRを推測する計算式がつくられました。この計算式から算出された数値がeGFRです。この「e」は「estimated(推測された)」の頭文字です。

eGFRは「クレアチニン値(mg/dl)」「年齢」「性別」がわかれば計算することができます。GFRは60以下が続く場合は「慢性腎臓病」に該当し、30を切ると身体に影響が現れ始めます。

クレアチニン値には個人差があり、腎機能が正常範囲であっても筋肉量が多ければクレアチニン値は高くなり、小柄だとクレアチニンが低くなります。eGFRは標準的な体格の人で、血清クレアチニンから推算されるGFR値ですので、筋肉量が多くクレアチニンが高い人は、本当のGFRよりも低く計算されることがあります。そこでeGFRの絶対値で判断するよりも、同じ個人の場合は、eGFRがどう変化していくかをモニターするのがよいでしょう。eGFRが毎年低下していく場合には、腎不全が進行していることをあらわしますし、eGFRの絶対値が基準値よりわずかに低くても、10年間にわたって同じ値を保っているのならば腎不全の進行は抑えられていると考えてよいでしょう。

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