慢性腎臓病(CKD)とは、何らかの腎臓の障害が少なくとも3か月以上続くことを指します。多くは数十年かけて徐々に進行しますが、かなり進行するまで自覚症状がみられないため、健康診断などで早期に異常を発見し治療を行うことが大切です。
このページではeHealth clinic院長の天野 方一先生に、慢性腎臓病の治療のポイントや慢性腎臓病に関する治療の最新トピックスについてお話を伺いました。
慢性腎臓病の特徴について詳しくは、1記事目『慢性腎臓病の早期発見におけるポイント』をご覧ください。
慢性腎臓病の治療の基本は食事療法と運動療法です。これらの治療では効果が不十分な場合や糖尿病、高血圧症などの合併症がある方、尿タンパクがかなり多い方には追加で薬物療法も検討します。ただし、慢性腎臓病の治療の目的は腎臓の機能を今より悪くしないことです。治療を行ったからといって腎臓の機能が圧倒的に改善されることはほとんどありません。そのため、患者さんが治療の効果を実感しにくく、モチベーションを維持できない場合もあります。
また慢性腎臓病の治療では、医療機関を長期にわたって定期的に受診する必要があります。したがって「病院の待ち時間が長い」「忙しくて通えない」などという方は、治療を途中で諦めてしまいがちです。当院では待ち時間の少ない診療体制を築くとともに、オンライン診療も取り入れ、重症度に応じて来院による受診とオンライン診療の比重を調整しながら、無理なく受診していただける環境を整えています。
前述のとおり、慢性腎臓病の治療の基本は食事・運動といった生活習慣です。そのため、忙しい方ですと「外食が多いので治療は無理だろう」などという漠然としたイメージを持って受診される方も少なくありません。しかし、私は外食の多い方や忙しい方でも工夫次第で生活習慣の改善は可能だと思っています。
実際に当院では管理栄養士の指導の下、コンビニエンスストアで購入できる食品などを用いた、その患者さんにとって実現可能な範囲でのリアルな食事療法を提案しています。外食する際のポイントなどについても詳しく指導していますので、まずは食事療法の内容について一度、説明を聞いていただきたいと思っています。
近年は慢性腎臓病に対する治療についても、さまざまな研究が進んでいます。ここでは慢性腎臓病の治療に関する近年のトピックスについてご紹介します。
食事療法では、主に減塩とたんぱく質の摂取量のコントロールが行われます。
今までの慢性腎臓病に対する治療では、たんぱく質の摂取量をかなり厳しく制限していました。もちろんたんぱく質制限は治療の1つとして重要ですが、近年は高齢者を中心にたんぱく質の摂取過多で腎臓の機能が低下することはないこと、むしろたんぱく質量が足りていないと低栄養に陥ってしまうことなどが分かってきています。
また、ステージ3aまでの患者さんに対するたんぱく質制限の有効性が証明された研究はあまりなく、軽症の場合はどの程度制限すればよいかといった指針を立てるのが難しいことがあります。そのため、実際のたんぱく質の制限に関しては、年齢や体格、重症度などに応じて柔軟に対応することが求められます。
また、近年は薬物療法も目覚ましい進歩を遂げています。腎臓に関する治療薬といえば、以前は腎臓の機能と関連のある血圧をコントロールする“降圧薬”しかありませんでしたが、近年は3つほど注目されている治療薬がありますので、今回はそれをご紹介します。
腎性貧血に対する新たな治療薬として、HIF-PH阻害薬が2019年より処方できるようになりました。
腎臓には赤血球の産生を促すホルモンを作るはたらきがあるため、腎臓の機能が低下すると貧血に陥ることがあります。これまでは注射薬でそのホルモンを補うことにより腎性貧血を治療していましたが、HIP-PH阻害薬の登場によって飲み薬で腎性貧血を治療できるようになり、使用できる患者さんの幅が広がっています。
SGLT2阻害薬といえば、2型糖尿病の治療薬として以前からあったものですが、ここ数年の研究で糖尿病の有無にかかわらず腎臓病の進行を抑制し、尿タンパクを抑える効果も期待されています。また、SGLT2阻害薬は慢性腎臓病だけでなく脂肪肝、心不全など栄養の取り過ぎによって起こりやすい、さまざまな病気への効果が期待されています。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬はもともと高血圧症の治療薬として使用されていた降圧薬です。中でもフィネレノンと呼ばれる新しいミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は腎臓の機能低下を抑える効果があると考えられています。
運動に関しても、かつては慢性腎臓病の方や透析療法を受けている方に対して「控えたほうがよい」「安静にしたほうがよい」と指導する風潮がありましたが、近年は積極的に行うことが推奨されています。
透析療法というとベッドで横になって受けるイメージが強い方も多いと思いますが、最近では透析中に運動用バイクをこぎながら時間を過ごす方もいます。
これまで述べてきたように、腎臓の機能低下を抑える予防的な治療方法については、少しずつではありますが医学の進歩が伺えます。一方で、腎臓病の種類によっては機能低下を抑えることが難しいものもあるため、今後は透析・腎移植以外の選択肢として再生医療が発展することを期待しています。
今の時代は病気を予防する手段も増えてきていますし、病気にかかっても病気とうまく付き合いながら人生を楽しめるようになってきています。病気とうまく付き合いながら生きていくためには、信頼できる医師や医療機関を作っておくことも大切です。
私たちは、患者さんに医療をより身近に感じていただくために、24時間対応のオンライン診療をはじめとするさまざまな取り組みを行っています。これからも困ったときに気軽に相談いただけるようなクリニックを目指して、診療にあたっていきたいと思っています。
イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
日本内科学会 認定内科医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本医師会 認定産業医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。
天野 方一 先生の所属医療機関
関連の医療相談が10件あります
腎臓結石の治療について
他病気の疑いがあり、CTを受けたのですが、その際に腎臓に結石があるのが偶然見つかった、と言われました。 先生からは現状では治療の必要がなく、尿管に落ちてくるかどうかもわからない、と言われました。 そこで疑問なのですが、 ①CTは内科で受けたのですが、泌尿器科の診断を受けた方がよいでしょうか? ②経過観察は、健康診断を受ける1年に1回エコーを受ける程度でいいのでしょうか?(そもそもエコーでは結石があるのがわかっていない) ③尿管に落ちると激痛を伴うようですが、回避する方策はないのでしょうか? ご回答いただけると幸いです。
NASHの治療について
人間ドックでNASHの可能性が高いと診断され、精密検査で肝臓内科を受診したところやはりNASHの可能性が高いと診断されました。 病院ではNASHは運動して食事をコントロールして体重を減らせば治りますから深刻な考える必要はないですよと言われました。 しかし自分でNASHについて調べると2割の人が肝硬変になるというデータもあり、恐ろしい病気なのではと思ってます。 NASHは肝臓内科の先生が言う通り体重を減らすことによって完治することは可能な病気なのでしょうか? 肝硬変にならないために体重管理以外にしなければいけないことはないのでしょうか?
健康診断で血圧が
昨日健康診断を受けて、血圧をはかったら上が150で下が88でした。昨年は上が110で下が85ぐらいだったのにいきなり上がり出して怖いです。何か病気のサインでしょうか?自分では疲れやすいぐらいで前とあまり変わらないと思うのですが?病院に行った方が良いですか?ちなみに143cm体重79キロです。体重落とさないと駄目ですよね?塩辛いおつまみやお酒、スナック菓子大好きです。これはやめないとまずいですね。
健康診断で心電図要受診
職場で年に1回健康診断を受けています。 ここ6~7年必ず心電図で3つ結果が書かれており、必ずあるのが「陰性T波」と「小さいR波」です。 平成30年に一回循環器内科に行き、エコーと血液検査をしてもらったのですが、問題なしと言われました。 なので、毎年心電図に所見があり要精密検査と書かれていても、きっと問題ないのだろうと思い特に再度検査等は受けていません。 ただ、毎年健康診断で引っかかるので、そのたびに気にはなります。 質問は、 同じような所見でも何年かに一回は精密検査を受けた方がいいのか? このよな所見が書かれていたら必ず精密検査を受けた方がいい、というような目安はあるのか? ということです。 よろしくお願いいたします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「慢性腎臓病」を登録すると、新着の情報をお知らせします