インタビュー

不眠症が生活にもたらすデメリットと初期における薬物治療

不眠症が生活にもたらすデメリットと初期における薬物治療
天野 方一 先生

イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、帝京大学ちば総合...

天野 方一 先生

目次
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日本では成人人口の30~40%に不眠の症状があり、その慢性化である“不眠症”に悩まれている方も10%ほどとされ、世界の中でも「不眠症」大国です。

症状としては、寝つきが悪い(入眠障害)、夜中に何度も目が覚めてしまう(中途覚醒)、朝早くに目が覚めてしまう(早朝覚醒)、眠りが浅いなど、誰もが経験するものが挙げられます。

逆説的に言えば身近な悩みとして簡単に片付けられてしまいがちな不眠症ですが、深刻な健康上の問題を引き起こすことがあり、生活に多くのデメリットをもたらします。

不眠症のもたらすデメリットと治療方法、特に初期段階での薬物治療について、eHealthクリニック院長の天野(あまの) 方一(ほういち)先生に産業医学の観点も交えてお話を伺いました。

不眠症のデメリットは大きく3つに分けられます。1つ目としては、不眠症が原因で体にもたらされる影響が挙げられます。

不眠が続くと、

(1)免疫機能の低下:大小さまざまの発症が起こりやすくなる

(2)慢性的な疲労:疲労しやすい、または疲れが続きすっきりしない状態が続く

(3)心血管リスク:脳卒中心筋梗塞(しんきんこうそく)などの発症リスクが高まる

につながります。

特に(3)は注意が必要です。不眠の状態は図にあるとおり、肥満の原因にもなります。

先方提供
e-ヘルスネット(厚生労働省)「睡眠と生活習慣病との深い関係」掲載の図を修正して掲載

肥満は睡眠時無呼吸症候群の発症や悪化の原因となり、睡眠の質の低下を招くことが知られています。この不眠→肥満→睡眠時無呼吸症候群→眠りの質の低下という負の循環は加速度的に心血管リスクを増加させるため、不眠は単に眠りに関する悩みにとどまらず、健康上の大きなリスクになるといえます。

2つ目は精神的・心理的なデメリットです。不眠は集中力の低下に始まり、認知機能の障害、うつ症状や不安の増加などにも影響をもたらします。

そして3つ目は、前述のデメリットによる社会的な影響です。

身体的、精神的・心理的なデメリットは、いずれも悪化すれば就業や就学ができなくなるなど、無視できない影響を招きかねません。

またその過程で、家族や友人、多くの周囲の方々との人間関係においても相互に負担が起こる可能性もあります。

不眠という状況があるとき、原因を特定するにせよ治療を行うにせよ、医師が必ず考慮しなければならないことがあります。

それはご本人の体や心だけに留まるのではなく、ご家庭の事情、また社会的な背景や影響など、広い範囲から物事を考えていくということです。現代社会においてこれらの境目は非常に曖昧ですが、それに対処する医療もまた流動的・補完的である必要があります。

具体的には、心が関係することだから精神科の病気だというのではなく、原因となった社会的な事象を探ったり、治療において産業医学的な観点から生活面のアドバイスをしたりすることが求められます。もちろん内科的な観点からご家庭や社会の事象が身体的な問題につながっていないかしっかりと把握することも重要です。

患者さんにとってはさまざまな医師や診療科が不眠の不安に対して窓口になっている、相談したらいろいろと事情を汲み取って対応してもらえる、という状態は理想的であり、その状況は広がってきています。ですが、同時にただただ漫然と睡眠薬を処方されるだけという状態になっている場合もあるので、そのような治療状況には違和感を持ち、医師に詳細を聞いてみることをおすすめします。

不眠症の初期段階においては、まず原因の把握やほかの合併症・関連する病気の除外を行います。そのうえで

  • 「入眠困難」「睡眠維持困難」「早朝覚醒」のいずれかがある
  • 日中に社会的、職業的、教育的、学業上、行動上などの機能の障害がある

の2つを満たせば不眠症と診断されます。

不眠症は非常に一般的であるとともに本人や周囲への影響が大きな病気であるため、初期的な薬物治療が重要です。

薬物治療の目的と得られる効果は、睡眠の促進(寝つきやすくする)と睡眠の質の向上(深い眠りで中途覚醒を防ぐ)です。これによって昼間の眠さを軽減し集中力を維持するなどの狙いもあります。

一般的に使用される薬物治療の種類は、

  • オレキシン受容体拮抗薬
  • メラトニン受容体作動薬
  • ベンゾジアゼピン系薬
  • 非ベンゾジアゼピン系薬

に分けられます。

中でもベンゾジアゼピン系薬は旧来より不眠治療に頻度高く使用されてきましたが、向精神薬の中では中毒性の観点で安全ながら、薬剤によっては依存性が高いものもあります。

現在では依存性の観点などでもより安全性の高い、オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬が最初の選択肢として用いられる傾向にあります。

いずれにせよ、医師と協力して個々の状況に合わせた適切な薬物治療の選択を行うことが重要です。

不眠症の薬物治療には依存性などの問題があり、長期使用による副作用の可能性も検討が必要です。薬物によっては、日中の眠気、集中力低下、ふらつき、記憶力の低下などが生じることがあります。

また、長期間の使用や適切でない薬剤の選択は依存症や耐性の発生リスクを増大させる可能性があります。医師の指導による適切な薬物使用は、不眠症の治療において重要となります。

薬物治療だけで改善されない場合は、ライフスタイルの変更や、心理療法を組み合わせるアプローチが効果的です。重要なのは睡眠環境の改善や規則正しい睡眠スケジュールの確立であり、認知行動療法やリラクゼーション法などの心理療法も症状の軽減に役立つことがあります。

不眠症は必要に応じて専門的な医師、心療内科や精神科を受診すべきですが、初期の段階の人が専門の医師や診療科を受診すると、すでに忙しいそれら専門の医師はパンクしてしまいます。不眠症の症状を気軽に相談・受診したい場合は、まずはかかりつけの内科や産業医への相談、あるいは近年ではオンライン診療の活用をおすすめします。

中でもオンライン診療は、日中にまとまった時間が取りにくいため医療機関を受診できない、という働き盛りの人の悩みを解消できます。治療には制限、限界がありますが、利便性を生かして気軽に相談していただくと、不眠症改善の一助になるのではないでしょうか。

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