インタビュー

眠れないときの原因と対策――ストレスに関連した不眠症とは?

眠れないときの原因と対策――ストレスに関連した不眠症とは?
千々岩 武陽 先生

はこざき漢方内科・心身医療クリニック 院長

千々岩 武陽 先生

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近年、コロナ禍におけるライフスタイルの変化などから、なかなか眠れずに困っている方も多いのではないでしょうか。働き盛りの40~50歳代や年齢とともに体力が落ちる高齢者だけでなく、子どもや若者の不眠も増えてきているようです。不眠症はストレスが原因の1つと考えられていて、改善には生活習慣の見直しが重要です。また、漢方療法によりストレスからくる不眠症の対策を行うことでも効果が期待できます。

本記事では、はこざき漢方内科・心身医療クリニック 院長の千々岩 武陽(ちぢわ たけはる)先生に、不眠症の原因や治療、生活習慣の改善方法についてお話を伺いました。

不眠症は症状の違いによって、以下に示す4パターンに分けられます。

  • 入眠障害:寝つきが悪い
  • 中途覚醒:睡眠中に何度も目が覚めてしまう
  • 早朝覚醒:起きたい時間よりも早く目が覚めてしまう
  • 熟眠障害:睡眠時間を確保しても寝た感じがしない

人によっては4つのパターンのうち、いくつかの症状が重複して現れることもあります。うつ病などのメンタル疾患が背景にある方では、入眠障害と中途覚醒の症状が両方現れるケースもよくみられます。また一般的には入眠障害を感じて受診される方が多くいらっしゃいますが、患者さんと接する中で、メンタル疾患のある方では中途覚醒や早朝覚醒の割合が高くなっているように感じます。

一般的には、不眠に関する症状が1か月以上続いた場合に不眠症と診断されます。日中の眠気や疲労感、集中力の低下など、日常生活に支障が出ている場合は不眠症と考えてよいでしょう。

日本では成人の約20%が慢性的な不眠を抱えているといわれており、そのうち約15%は日中の過剰な眠気を自覚しています。さらに約6%は寝酒や睡眠薬など、眠りにつくのを補助する何らかの方法を行っているようです。

年齢やライフスタイル別にみると、不眠の悩みを抱え始めるのは20~30歳代からです。中年以降で急激に人数が増え、40~50歳代でピークを迎えます。ただ、コロナ禍におけるライフスタイルの変化や高度情報化社会による心理的ストレスなどにより、若年者の不眠症も問題になってきています。パソコンでの遠隔授業やテレワーク、“巣ごもり需要”で注目されたテレビゲームなどにより、大人だけでなく子どもの体内時計も乱れやすくなっていることが原因の1つかもしれません。

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不眠症の要因は多岐にわたりますが、大まかには“5つのP”と呼ばれる以下の5種類に分類されます。

  • 生理的な要因(Physiological)
  • 心理的な要因(Psychological)
  • 薬理学的な要因(Pharmacological)
  • 身体的な要因(Physical)
  • 精神医学的な要因(Psychiatric)

それぞれについて説明します。

生理的な要因とは?

生理的な要因は、時差ボケや夜ふかしなどによる体内時計の乱れや、寝室が明るすぎたり音がうるさかったりするなどの環境要因が当てはまります。

心理的な要因とは?

心理的な要因は、主に精神的なストレスのことです。不安や心配事だけでなく、楽しみな予定があり興奮して眠れない場合も含まれます。

薬理学的な要因とは?

薬理学的な要因は、嗜好品や薬の成分が良質な睡眠を妨げているケースです。嗜好品に含まれる成分の例としては、カフェインやニコチン、アルコールなどが挙げられます。医薬品では、ステロイド薬やパーキンソン病治療薬などでも不眠症を発症することがあります。

身体的な要因、精神医学的な要因とは?

身体的な要因と精神医学的な要因は、病気の症状により眠れない場合を指します。身体的な要因には、体の痛みやかゆみ夜間頻尿などが挙げられます。精神医学的な要因は、不安症(不安障害)やうつ病双極性障害など精神的な病気の症状として不眠が現れるケースです。

先に述べた中でもストレスからくる不眠症には、自律神経のはたらきが関わっています。自律神経は、意思とは関係なく自動的に体の機能を調整する神経です。体を興奮・覚醒状態にする交感神経と、体をリラックスさせる副交感神経に分かれており、これらがバランスを取りながらはたらいています。

私たちの体は、ストレスがかかると“自分の命が脅かされている”と捉えて交感神経にスイッチが入るようになっています。たとえば昔々、狩猟採集時代には、私たちのご先祖様もトラやオオカミなどの大型肉食獣に襲われることもあったでしょう。生命が危険にさらされたとき彼らの体では瞳孔が開いたり、気管支が拡張して酸素を取り入れやすくしたりといった、危機的状況に対応するための生体反応が起こっていたはずです。これが“闘うか逃げるか”、すなわち“闘争―逃走反応”と呼ばれる交感神経が優位になる状態です。

こうした反応は現代を生きる私たちにもそのまま受け継がれています。興奮や不安を感じる状態にあるときは交感神経が優位になる一方、ご飯を食べた後やお風呂に入った後などリラックスしている状態では副交感神経が優位になります。そして交感神経と副交感神経のバランスが乱れた状態が、いわゆる自律神経失調症*と呼ばれるものです。

そのため、交感神経が優位になって体が覚醒・興奮している状態だと眠れないことは自然な現象といえます。寝る前にネガティブな考え事をしたり、戦争や災害など不安になるようなニュース番組を見たりすると、交感神経が優位になって眠れなくなってしまうため注意しましょう。

*自律神経失調症:自律神経が乱れたことで体に現れるさまざまな症状を総称した用語

不眠症の診断基準は大きく2つあります。1つは不眠の症状が目安として1か月以上続いていること、もう1つは日常生活に支障が出ていることです。症状が続いている期間はあくまで目安ですが、1~2日程度ではなくある程度長く続いていることが診断のポイントになります。

不眠の症状が日常生活に支障をきたしている例としては、寝坊して会社に遅刻してしまったり、日中の眠気が強く仕事中のミスが増えてしまったりすることが挙げられます。特に日中の眠気は不眠症の患者さんに現れやすい症状です。強い眠気で生活に支障が出るようであれば医療機関へ相談することをおすすめします。

軽い不眠症状に関しては、生活習慣の見直しで改善が期待できるケースも多くあります。寝る前に心と体をリラックスした状態にしておくことや、寝室の環境を整えることがポイントです。具体的には、次のような方法が有効です。

適度な運動をして適度な疲労があると、疲労を回復させるために副交感神経が優位になりやすくなります。コロナ禍で運動不足の方が増えているので、日中に運動を取り入れられる方は試してみてください。また、寝る前に体をほぐしてリラックスさせることも有効です。ストレッチやヨガなど、筋肉をほぐす運動がおすすめです。適度な疲労は重要ですが、寝る前の激しい運動は交感神経が優位になってしまうので避けましょう。

お風呂に入るときは、シャワーだけでなく湯船に入るのがおすすめです。湯船に入ることは体を温めて筋肉の緊張をほぐすことができ、リラックス効果も期待できます。お風呂に入る時間は、寝る時間の1時間半~2時間前がよいでしょう。

空腹になると交感神経が刺激されるので、眠れなくなってしまうことがあります。寝る前にお腹が空いている場合は、何か少し食べてから寝るとよいでしょう。寝る前に食べる場合は血糖値が急激に上がりにくい、バナナやヨーグルトなどの低GI食品を選ぶよう意識してみてください。

寝る前のコーヒーや寝酒、寝たばこは控えてください。コーヒーや紅茶に含まれているカフェインやたばこに入っているニコチンには覚醒作用があるためです。また、アルコールは寝つきをよくしますが、アルコールが抜ける段階で覚醒を促してしまうため夜中に目が覚めやすくなります。逆効果になってしまうので避けましょう。また、最初は少ない酒量で眠れたものが、徐々に酒量が増えていき、アルコール依存につながるリスクもあります。

寝室に入ってからスマートフォンの画面を見るのはおすすめしません。たとえブルーライトカットの設定にしていても、ネットサーフィンは始めるとキリがなく、おもしろいニュースや刺激的なニュースが目に入ると交感神経が優位になってしまうためです。寝室にはスマートフォンを持ち込まないほうがよいでしょう。

不眠症で悩む方の多くは、寝る前に一人反省会をしています。さらには寝る前の考え事はほとんどがネガティブな内容です。1つ考え始めると、連想ゲームのように不安が連鎖してしまうことがパターンです。

一人反省会をしそうになったら、頭に“鍵のかかる箱”を思い浮かべてみてください。ネガティブな考え事は箱の中にしまい、鍵をかけてしまいます。「箱は翌日のお昼に開けて、解決策を考える」などと決めて寝ると、案外安心して眠れるものです。翌日、箱の中にどのような考え事を入れたか、忘れてしまうことも珍しくありません。

寝室を快適な環境に保つことも、良質な睡眠を取るうえで重要なポイントです。光や温度などは、睡眠の質に大きく影響します。たとえば信号の光が部屋に入ってきてしまう場合は遮光カーテンを使う、夏の暑い時期は扇風機ではなくエアコンで室温を一定に保つなど工夫してみましょう。

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生活習慣の見直しを試みても不眠の症状が改善されない場合は、薬を使った治療を検討します。使用する薬の種類を選択する際は、不眠症状に切迫性があるかどうかが1つの基準です。

生活に支障が出ているレベルの不眠に対しては、睡眠導入剤を使用することがあります。従来使われていたベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤は、乱用による依存性が近年問題になっており、次第に使われなくなってきています。

そこまで不眠の状況が切迫していない場合は、漢方薬を使用することもあります。漢方薬は睡眠導入剤と異なり、脳や自律神経のリラックスを通じて、眠りやすい状態を整えてくれます。

患者さんのご希望も踏まえたうえで、症状の程度をみながら治療薬を決定しています。

漢方医学では、“気・血・水”など、患者さんの体質を見極めるための漢方医学特有のものさしが用いられます。

たとえば、気・血・水の“気”でいえば、生体エネルギーの流れが滞った状態を気鬱(きうつ)といい、気鬱が不眠に悪影響を与えていることがあります。気鬱は、喉が詰まっているような違和感やお腹の張り、気分の落ち込み、不安などの症状と関連しています。気分の落ち込みや不安が生じて、なかなか眠れなかったり夜中に起きてしまったりする方には、気鬱を改善する漢方薬が適している可能性があります。

漢方医学には気・血・水以外にもさまざまな概念があります。患者さんに合う漢方薬を選ぶにあたっては、問診以外にも視診や脈診、腹診も重要です。体全体を見ながら、患者さんの不調がどこにあるのかを探っていくわけです。漢方療法を専門とする医師は、こうして複数のものさしを用いながら患者さんの状態を総合的に判断し、一人ひとりに合った漢方薬を処方しています。

そのため一口に“不眠症”といっても、患者さんによっては同じ薬が効きやすい場合と効きにくい場合が出てきます。イライラして神経の高ぶりがある方、気分が落ち込んでいて胃腸が弱っている方、心身の疲労がたまって眠れない方、赤ら顔でイライラして落ち着かない方など、それぞれに適した漢方薬は異なります。また、たとえば胃腸が丈夫な方に向いている漢方薬を胃腸が弱っている方に処方してしまうと、かえって調子を悪くすることもあるのです。そのため、不眠症という病名だけで漢方薬を選ぶことはありません。

漢方療法を希望される場合は、日本東洋医学会認定 漢方専門医に相談することをおすすめします。

病院で処方される漢方薬は、一般的にエキス製剤です。インスタントコーヒーのように乾かして粉末状にしたものであることや、漢方薬はもともと複数の生薬を煮出したスープとして服用されていたことから、私は基本的に一度100mLほどのお湯に溶かしてから飲むことを患者さんにおすすめしています。ただ、吐き気があり飲みづらい場合には冷やして飲んでもらうなど、患者さんの状態に合わせた工夫が必要です。漢方薬の味や香りを十分に味わえるよう、湯に溶かした際の蒸気を嗅ぐことが自律神経のリラックス効果につながるともいわれています。

不眠症が治るまでの期間は、治療方法や一人ひとりの状態によってさまざまです。たとえば入眠障害や中途覚醒に対して睡眠導入剤を使う場合は、飲んだ当日から効果を実感できることが多いでしょう。漢方薬に関しても、薬が体質と的確にマッチした場合は一度飲んだだけで眠れるようになったと感じる方もいらっしゃいます。ただ、一般的には即効性に優れているのは睡眠導入剤のような西洋薬(西洋医学の治療薬)だといえます。

一方で、西洋薬を使った不眠症の治療はあくまで対症療法です。薬の作用としては脳を強制的に寝かせるようなはたらきなので、不眠症の原因そのものを改善するものではありません。痛み止めを使っても痛みの原因になる病気は治らないのと同じです。

睡眠導入剤を使って不眠症の症状を抑えても、不眠症の背景にうつ病睡眠時無呼吸症候群などの病気がある場合、根本的な解決には至りません。睡眠導入剤を常用していたがゆえに、隠れていた病気に気付くのが遅れてしまう可能性もあります。西洋薬は即効性があるものの、万能ではないと考えておきましょう。

薬のメカニズムから考えると、睡眠導入剤を使って眠れるようになるのは当然の結果です。一方であくまで対症療法であることから、長期使用に注意することも大切です。睡眠導入剤は依存性や、日中まで効果が持ち越されてしまって眠気やふらつきが出るリスクもあります。そのため、まずは生活習慣の改善や漢方療法によって自然にリラックスして眠れる状態を作ることが大切だと考えています。

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近年の不眠症は、コロナ禍におけるライフスタイルの変化がきっかけとなって起こることも多くなってきています。夜遅くまでテレビを見ていたり、スマートフォンを触っていたりする場合は生活習慣の見直しが重要です。

とはいえ、眠れない悩みを自分の中で抱え込んでしまうこと自体が、不眠を悪化させるストレスになります。意識的に生活習慣を見直しても眠れずにつらい場合は、遠慮なく専門家の外来を受診してください。

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