概要
双極性障害は、躁状態または軽躁状態と抑うつ状態とを反復する精神疾患です。“躁うつ病”と呼称される場合もありますが、うつ病とは別の病気です。躁状態または軽躁状態は気分の高揚や活動性の増加を特徴とし、抑うつ状態は気分の落ち込みや興味・喜びの喪失を特徴とします。
激しい躁状態を伴う場合を“双極I型障害”、生活に著しい支障がないものの、気分が高揚した軽躁状態を伴う場合を“双極II型障害”といいます。躁状態あるいは軽躁状態のときは自身が病気であることに気付けない場合もあり、抑うつ状態だけが注目されがちであるため、双極性障害でありながらうつ病と診断されてしまう場合も少なくありません。
躁状態による問題行動や、うつ状態による抑うつ気分・何をしても楽しいと思えない状態により社会生活に支障が生じることもあるほか、自殺率が高いことも知られています。主に10代後半から20代前半で発症することが多く、日本での有病率は0.6%程度と推定されています。
原因
双極性障害の原因は明らかになっていません。しかし、双極性障害の発症にはゲノム(遺伝子)が影響するといわれています。脳の神経細胞同士をつなぐシナプス、神経細胞からの神経伝達物質の放出、神経細胞の興奮性の調節に関わるイオンチャネルなどに関連する遺伝子との関連が指摘されています。
症状
双極性障害では、活動的になる躁状態や軽躁状態と、気分が落ち込み何をしても楽しいと思えなくなる抑うつ状態が繰り返されます。躁状態・軽躁状態でもうつ状態でもない時期を寛解期といいます。人間には誰しも感情の浮き沈みがありますが、双極性障害における気分の波というのは1日中、毎日、何日も続き、周囲の方から見ても明らかにいつもと違うような場合のことをいいます。
躁状態と軽躁状態
双極I型障害でみられる躁状態では、気分が高揚する、怒りっぽくなる、開放的になる、活動性が増加するなどの症状が1日の大半でみられます。一方、双極II型障害でみられる軽躁状態は、躁状態と同様の症状が現れるものの、社会生活には支障をきたさない程度の場合をいいます。
抑うつ状態
抑うつ状態では1日中、毎日憂鬱な気分が続く状態が2週間以上みられ、何をしても楽しいと思えなくなり、思考がうまくはたらかなくなります。事実とは異なるマイナスな考えが浮かぶようになる方もいます。また多くの場合、食欲が低下したり、眠れなくなったり、疲れやすいなどの体の症状も現れます。
検査・診断
双極性障害を診断する際は、症状、経過、身体疾患、服薬中の薬や飲酒状況など、さまざまな観点から総合的に判断されます。身体疾患との鑑別のためには、血液検査や脳の画像検査が有用です。
双極性障害はうつ病との鑑別が難しいことも少なくありません。特に躁状態・軽躁状態について本人に自覚がない場合もあります。そのため、正しい診断のためには家族などから話を聞くことも重要となります。
治療
双極性障害は再発率が高い病気ですが、早期発見と適切な治療により、多くの場合は問題なく社会生活を送れるようになります。治療では、現在の症状改善と長期的な安定を目指します。患者自身が病気を理解し、再発予防に努めることが重要です。治療方法には主に薬物療法と心理社会的治療があります。
薬物療法
薬物療法では主に気分安定薬と抗精神病薬が使用されます。
気分安定薬は、躁状態と抑うつ状態の両方に効果があり、躁・軽躁および抑うつエピソードを予防する作用があります。炭酸リチウムなど一部の薬は、体調の変化や併用薬などによって中毒を起こすことがあります。そのため、適切な治療効果を得つつ副作用のリスクを最小限に抑えるために、定期的に血中濃度(血液中に含まれる薬の量)を測定し、適切な投与量を調整する必要があります。
抗精神病薬は、躁状態の改善に効果があるものが多く、さらに一部の薬は抑うつ状態の改善や予防にも効果を示します。また、幻覚や妄想などの精神症状を抑える作用もあります。
副作用
これらの薬には副作用の可能性がありますが、用量調整や服用方法の変更などで管理できます。気分安定薬では手の震え、喉の渇き、体重増加などが、抗精神病薬では眠気、体重増加、血糖値の上昇、錐体外路症状*などが起こる可能性があります。まれに、抗精神病薬の長期使用で遅発性ジスキネジア**が現れることもあります。症状や副作用について気になることがあれば、担当医に相談することが大切です。
*錐体外路症状:じっとしていられない、手足のこわばり、歩行障害、手の震えなど。
**遅発性ジスキネジア:抗精神病薬などに関連して生じる、口や舌、手足などが勝手に動いてしまう症状(不随意運動)のこと。
治療上の注意点
治療上の注意点として、躁状態と抑うつ状態で治療法が異なるため、医師の指示に従った正確な服薬が重要です。また、うつ病の治療薬である抗うつ薬は、双極性障害の症状を悪化させる可能性があるため原則として使用しません。抗うつ薬で改善しないうつ症状がある場合、双極性障害の可能性を検討する必要があります。
心理社会的治療
心理社会的治療には、心理教育、認知行動療法、対人関係・社会リズム療法、家族療法などがあります。
心理教育
患者本人が病気について正しい知識を身につけ、病気を受け入れ、安定につながる生活習慣を身につけ、再発の初期兆候を把握するなどして再発を予防することを目指します。
認知行動療法
毎日の気分や睡眠の状態を記録し、適度な運動を取り入れた規則正しい生活習慣を保つことで、気分の安定化を目指します。また、自分の考え方の癖に気付き、物事をよりバランスよく捉えられるようにすることで、うつ状態のときに起こりがちな否定的な考え方を和らげます。さらに、ストレスの多い状況に対処する方法を学ぶことも重要です。
対人関係・社会リズム療法
対人関係療法・社会リズム療法では、自分の起きた時間・寝た時間、人との接触の程度などを記録し、生活リズムを守ることで症状の悪化を防ぎます。特に双極性障害の場合、躁状態時に過度に活動的になったり、多くの方と関わりすぎたりすることがあるため、適切な対人接触のレベルを維持することも重要です。また、再発につながる対人関係に関連するストレスを解決することを目指します。
家族療法
患者の症状が家族に影響を与え、さらに家族の感情表出が患者の症状を悪化させるという悪循環が生じている場合、これを家族システムの問題として捉えます。家族システムが円滑に機能するように支援し、症状の改善を図ります。
再発予防
双極性障害は再発率が高く、再発を繰り返すたびに次の再発までの期間が短縮される恐れがあります。そのため、躁状態・軽躁状態、抑うつ状態で治療を始めるときから、再発予防を念頭に置いて治療することが大切です。
再発の予防法としては、再発予防効果がある気分安定薬の使用による維持療法が基本となります。気分安定薬に加えて、一部の抗精神病薬にも再発予防効果があることが報告されています。そのほか、ストレスへの対処法を身につけておくことや、自分の再発の初期徴候を自覚しておくことなどの心理社会的治療も大切です。
抗精神病薬などの長期使用によって起こる副作用
提供:田辺三菱製薬株式会社/ヤンセンファーマ株式会社
監修:慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 准教授 竹内 啓善先生
自分の意思とは関係なく体が動いてしまう…それは「遅発性ジスキネジア」かもしれません
「口や舌が勝手に動く」「手や足が勝手に動く」など、自分の意思とは関係なく起こる体の動きは「遅発性ジスキネジア」かもしれません。抗精神病薬などを長期間服用することによって起こることが分かっています。「遅発性ジスキネジア」は、なるべく早く気づき、悪化する前に改善方法を考えることがとても大切です。
ご自身の判断で抗精神病薬を減らしたり中止したりすることはとても危険です。絶対に行わないでください。気になる症状がある場合には、医療機関で相談しましょう。
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