気分障害のなかには、気分が落ち込むうつ病と、うつ病の症状だけではなく、逆に気分が高揚する躁(そう)の症状が交互に現れる双極性障害(躁うつ病)が含まれています。記事1『気分障害とは 症状や具体的なエピソード、発症メカニズムまで』では、うつ病と双極性障害の症状などを中心にお話をうかがいました。
今回の記事では引き続き、藤田医科大学 医学部 精神神経科学教授の岩田仲生先生に、気分障害の遺伝についての研究や、現在の日本ではどのような治療が行われているのかを中心に、お話しいただきました。
疫学研究から、双極性障害(Ⅰ型Ⅱ型ともに)とうつ病を比較すると、双極性障害のほうが遺伝要因が環境要因よりも強いということがわかっています。たとえば、一卵性の双子で、どちらか一方が双極性障害を発症した場合、2組中1組は、もう一方も発症しているということがわかっています。
双極性障害の場合、遺伝要因が80%、環境要因が20%となって発症するといわれます。またうつ病の場合だと、遺伝要因が40%、環境要因が60%といわれています。しかし、関連遺伝子の詳細は未だにわかっていない状態でした。
ですが、藤田保健衛生大学と国立研究開発法人理化学研究所、国立研究開発法人日本医療研究開発機構が行った研究で、双極性障害の確実にリスクとなる遺伝子をいくつか特定しました。この研究論文は2017年1月24日に発表されています。
この研究では、日本人サンプルでは過去最大規模となる約3千人の双極性障害サンプルと、約6万人の対象者を用いた全ゲノム関連解析(ゲノム*全体の構造や情報を解析する)を行いました。その結果、双極性障害の1つの確実な関連遺伝子は、不飽和脂肪酸*を代謝する遺伝子だということが判明しました。
*不飽和脂肪酸とは脂肪酸の一種で、脂肪酸とは脂肪や油の構成要素です。不飽和脂肪酸は魚などの食材に多く含まれています。
*ゲノムとは、生物の遺伝情報のすべてをさします。
不飽和脂肪酸のなかには、最近体によいと話題になっているオメガ3脂肪酸や、オメガ6脂肪酸などが含まれています。現在は、このオメガ3とオメガ6の比率が双極性障害との関係で重要になっているとの考えのもとで臨床研究を進めています。
将来的には関連遺伝子を持つ患者さんの不飽和脂肪酸の比率に介入することで双極性障害になりにくくなったり、病状が多少回復したりする可能性もあります。また、新薬の開発につながるかもしれません。
2002年から2017年の15年間で、日本人の双極性障害の患者さんは2.5倍に増加しています。現在、100人に1人は双極性障害を発症している計算です。遺伝子は急に増えたり減ったりはしないため、日本人は何世代も双極性障害のリスク遺伝子を持っていたはずです。では、なぜ双極性障害の患者さんは増えているのでしょうか。
双極性障害の患者さんが増加した背景の1つとしては、食生活の変化があるのではないでしょうか。昔の日本人は青魚(アジやイワシなど)をよく食べていたため、オメガ3を多く摂取していました。しかし、近頃の日本人の場合は食文化が欧米式に変化し、オメガ3の摂取が減少しています。
また、日本人はもともと日本人の遺伝子に合う環境の社会を作ってきました。しかし、グローバル化のなかで、我々の遺伝子に適していた環境とは異なる要素を次々と導入しています。そういった理由から、日本人の遺伝子が適応できなくなり、双極性障害の方が増加しているということも考えられます。
前項で述べた通り、双極性障害に関しては、リスクとなる遺伝子が解明されてきています。しかし、双極性障害よりも発症する方の数が多く、少なくとも10人に1人はかかるといわれているうつ病のリスクとなる遺伝子はまだわかっていません。
また、うつ病の場合は、ケースコントロール研究*を行うことが困難である点もリスクとなる原因遺伝子を見つけられない原因の1つです。
*ケースコントロール研究とは、ある疾患にかかっている方(ケース)と、年齢や性別、環境などが同じでその疾患にかかっていない方(コントロール)を集めて、その病気との関連が疑われる要因を過去に遡りながら探すというものです。
ケースコントロール研究を行う場合、まったく同じ環境で生きてきた方々を対象とし、ある疾患にかかる方と、かからない方がでたときに研究は成立します。しかし、実際にはまったく同じ環境で生きてきた方を多数見つけることはできません。
たとえば、90歳の方が2人いて、1人は今まで一度もうつ病にかかったことがない方で、もう1人はうつ病を発病したことがある方とします。しかし、2人は同じ環境で生きてきたわけではありません。たとえば、うつ病を発症している方は、過去に戦争で悲惨な体験をしていたとします。うつ病を発症していない方はそうした経験がなかったとして、発症している方と同じ体験をもししたとしてもうつ病を発症しなければコントロールになりますが、実際にどうなるかはわかりません。そのため、ケースコントロール研究はうつ病では原理的に困難さを抱えています。
医学研究は対象研究をしないと因果関係がわかりません。つまり、ケースコントロールを行うときに、ケース(うつ病になった人)はわかります。しかし、コントロール(同じ環境でうつ病になっていない人)は簡単には見つけられません。同じ環境で生きてきた人で、うつ病になる人とならない人がいたら本当のケースコントロールとなり原因遺伝子にたどり着ける可能性があります。しかし、そういう環境は存在しないため原因の発見が困難な状況が続いています。
一般的にうつ病になりやすいのは、律儀で真面目な方だといわれたこともありました。しかし、全ゲノム関連解析を行っても、うつ病の関連遺伝子は発見されませんでした。そのため、科学的な観点からいえばうつ病になりやすい人というのは存在しないといえます。ストレスフルな環境に身を置いていれば、どんな方でもうつ病になる可能性があるのです。
先述したように、ストレスも何もない環境で生活をしている方がある日突然、気分障害を発症するということは考えにくいと言えます。つまり、気分障害の発症は仕事で辛い思いをしていたり、大切な方を亡くしたりしたことなどがきっかけとなることがほとんどです。そのため、気分障害の治療では、まずはストレスの要因を取り除くことが重要です。
ストレスをなくすことで、それ以上の治療が必要ではなくなる患者さんもいます。仕事がストレスとなっている際の解消法は、仕事をいったん止めて、長期の休暇を取得するということも考えられます。しかし、キャリアや会社の事情もあり、思うように長期休暇がとれないこともあります。そのようなときに有効と考えられるのが、次にご紹介する「意識改革」です。
長期休暇をとることが現実的に厳しくとも、少しの意識改革でストレスがなくなる場合もあります。気分障害の患者さんを診ていると、頑張り屋さんで人に相談したり頼ったりすることが苦手な方が多い印象を受けます。誰かに相談すればすぐに解決することでも、自分ひとりで頑張ろうとしてしまうこともあるようです。
ひとりで頑張ってしまう患者さんには、自分自身の生き方を再点検して、「(過剰に意地をはらずに)誰かに相談を求め、助けてもらう」ことをお勧めしています。このように患者さんの生活環境に対して少しアドバイスをするなどの介入を行うだけでもストレスが減少し、楽になるケースもあるのです。そのため、気分障害の患者さんの治療では、まず意識改革から始めることもあります。
現在日本で行われている気分障害の治療法としては、薬物療法、精神療法、電気けいれん療法などがあります。これらの治療法の多くは科学的な検証を経て、その有効性が確認されたものとして我が国の保険医療の中で行われています。もちろん「良薬は口に苦し」ではないですが、効果だけではなく様々な副作用があり、それらのバランスや患者さんの特性を見極めながら治療法を相談して決めていく必要があります。
新しい治療薬の開発も進行中であり、即効性が期待される薬物の開発も始まったところです。他にも経頭蓋磁気刺激は現在の日本ではまだ開発中ですが、海外ではその有効性が認められており、日本でも近々認可される可能性があります。磁気刺激の利点は、電気けいれん療法など入院が必要な治療とは異なり、週に2~3回の通院で行えることです。
うつ病をはじめとした気分障害への研究は、実はまだ十分行われてきていませんでした。今後気分障害の研究が進展することによって、新たな治療法の開発が進んでくることが期待されます。
藤田医科大学 医学部 精神神経科学 教授
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