「うつ病の治療イコール抗うつ薬」、そう考えてしまっている人も多いかもしれません。しかし、実は抗うつ薬の効果は巷間信じられているほどではありません。その一方ですべての薬には副作用があり、抗うつ薬も例外ではないのです。となると、効果(ベネフィット)がリスクを上回るかを問わねばなりません。
『うつの8割に薬は無意味』などの著書で知られる、獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授・井原裕先生にお話を伺いました。
うつ病に対する抗うつ薬の効果は、期待されるほどには高くありません。近年の効果研究の結果をまとめて、NNT(Number Needed to Treat)という数値で表したものがあります。これはプラセボ効果ではなくて、薬自体の効果によってその薬で何人に1人を治療できるのかという数値です。
(※プラセボ効果とは、本当には抗うつ薬を飲んでいるのではなく、偽薬(乳糖、ブドウ糖など)を飲んでも「それが薬だ」と思いこむことによって効果が出てしまうことをいいます。)
抗うつ薬のNNTを見てみると、5から8程度というデータが出ています。この5という数字は何を示しているのでしょうか。これは、プラセボ効果をのぞく「ほかでもない抗うつ薬の効果」で治るのは「5人に1人」という意味です。論文によっては、NNTにして8から10という数字も出ています。つまり、それぞれ8人に1人、10人に1人しか効いていないということです。私の著書の題名は『うつの8割に薬は無意味』でしたが、むしろ『うつの9割に薬は無意味』とすべきだったかもしれません。
抗うつ薬の効果があるのは、好意的にみても「5人に1人」程度、場合によってはもっと効きません。ですから、抗うつ薬についての認識を改める必要があります。「効かなくて当然」「効いたら儲けもの」という程度の冷めた目で見なければなりません。
その一方で、抗うつ薬にはデメリットがあります。まず、薬価がかなり高いことです。さらに副作用が起きます。抗うつ薬の代表SSRIの場合、下痢や胸焼けが起こりえます。稀には、「セロトニン症候群(脳内のセロトニンが急激に増え、不安・イライラ・精神的混乱等が生じる)」や「アクチベーション症候群(衝動性亢進により、自傷・自殺等のリスクが増大する)」といわれる恐るべき副作用もあります。
薬剤は非薬物療法で奏功しないときに限って使うべきです。その場合も、ベネフィット(有効性)がリスクを上回るかの判断が必要です。十分な療養指導もしないで、「とりあえず薬」を標準仕様とするという発想が一番いけないものです。薬は諸刃の剣です。医師としては、必要な患者さんに、必要な薬を、必要な量、必要な期間に限って、最小限に使うという考え方が大切なのです。
患者さん自身も認識を改めていただく必要があります。「これさえ飲めば治る」など夢にも思ってはなりません。十分眠る、十分動く、酒を減らすなどの最低限の自助努力は必要です。それなしに「病院に来たのだから薬ぐらいだしてほしい」では困ります。
次の記事からは、患者さんや一般読者の方にとってもっとも大切な「ヘルス(健康)リテラシー」についてお話しさせていただきます。その際に大切なことは「薬は病気を治すもので、健康を作るものではない」という認識です。健康を作るのは、あくまでも生活習慣です。たとえば糖尿病の患者さんも、からだの健康のために食事・運動療法について学びます。同じく、こころの健康のためにも、ヘルシーな生活習慣について学んでいただく必要があります。
すべての保険医は、薬物より療養指導を優先しなければなりません。なぜなら、すべての保険医は「保険医療機関及び保険医療養担当規則」を遵守しなければならず、その第20条の2には「栄養、安静、運動、職場転換その他療養上の注意を行うことにより、治療の効果を挙げることができると認められる場合は、これらに関し指導を行い、みだりに投薬をしてはならない」と記されているからです。安易に薬を処方するまえに、十分な療養指導を行わなければなりません。そのことは制度上も明記されているのです。
井原裕先生の最新作です
獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科 教授
獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科 教授
精神科医となって以来、都心の大学病院・農村の精神科病院・駅前のクリニック・企業の健康管理センター・児童相談所と多様な治療セッティングのもとで診療を行う。この多彩な臨床経験をもとに、就学前から超高齢者までの、ほぼすべての年齢層の患者を診察。対象疾患も、うつ病・統合失調症・発達障害・知的障害・認知症・不安障害・パーソナリティ障害等、全領域にまたがる。近年は、プラダー・ウィリー症候群という希少疾患を、日本の精神科医としては最も多数例診ている。一方、司法精神鑑定医として、埼玉県内の事件を中心に数々の重大事件の精神鑑定を行い、精神保健判定医として多数の医療観察法審判に関与。刑事・民事ともに、法廷で精神鑑定人として証言する機会も多い。現在は、獨協医科大学越谷病院こころの診療科にて、セカンドオピニオン外来を開設。他の医療機関通院中の患者さんに対して、専門的見地からのコンサルテーションを行っている。今後も「精神科医としての守備範囲日本一」をめざし、限界に挑戦するつもりで広範な領域に関与していく予定。
井原 裕 先生の所属医療機関
関連の医療相談が119件あります
親と婚約者からの言葉のDV
先生初めまして。 今私は心療内科にかかっています。診断は鬱ですが、今大分症状が落ち着き、隔週の通院も1ヶ月に一回となりました。今回ご相談したいのは、婚約者と実母から受けている言葉のDVです。言葉としては婚約者からは『気狂い』『頭おかしいんじゃねえの?』等実母からは『あんたはいつまでも結婚も決めないで居候しやがって』『お前のせいで血圧が高いんだよ!』等毎日のように言われていて、もうこんな毎日を過ごしているので。自殺願望が出てきました。取材からはその場から離れなさいとしかアドバイスは受けられず話せる相手もいません。台所で自分で調理をしていれば包丁で自分を刺そうとしたこともありました。助けてください。
うつ病と診断されましたが頼れる人がいません。
3日前に心療内科を受診し、うつ病と診断されました。 症状は、倦怠感、やる気がでない、食欲がない、泣いたり笑ったりを繰り返す、眠れない、仕事に行っても2,3時間しか働けない、疲れやすいなどです。 ご飯に関しては、誰かが一緒にいないと食べれません。 今は彼氏が頼みの綱で、彼氏がお盆休みなので看病してくれてますが、来週の木曜日から通常勤務になるので看病してもらうのが難しくなります。親とはいい関係ではないので正直頼りたくないです。職場の人も気を使ってくれてご飯を一緒に食べに行ってくれたりして嬉しいですが、話していてどっと疲れてしまいます。 一人でいると買い物もできないし、日常生活に支障がでているので、誰か頼りたいのですが頼れず困ってます。施設に入って入院でもした方がいいのでしょうか。
ここ一週間鬱のような感じ
先月くらいからもしかしたら鬱かな?と とにかく朝起床が辛く仕事に行けてません。午前中ずっと横になってます、午後になると少し落ち着く感じですが食欲が落ち体重も減ってしまいました。 仕事の負担感やコロナ不安などあるのでしょうか? 心療内科はどこもいっぱいみたいで、予約が取れたのが月末です。 その日まで大丈夫かな?と不安で仕方ないです。
抗うつ薬に抵抗があります。
主人は、抗うつ薬の副作用が怖く、出来れば漢方が良いのですが、うつ病に漢方薬は効くのでしょうか? 神経内科の医師にパーキンソン病と診断されていますが、運動機能よりも、うつ症状の方が強い為、まずはこちらを治すという判断でした。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「うつ病」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。