インタビュー

うつ病の薬の種類と特徴—離脱症状や副作用はある?

うつ病の薬の種類と特徴—離脱症状や副作用はある?
井上 猛 先生

東京医科大学 精神医学分野主任教授

井上 猛 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年04月06日です。

うつ病では、静養、環境調整、精神療法、心理教育、生活指導とともに薬による治療を行います。うつ病の症状改善に効く薬である抗うつ薬には多くの種類があります。これらは、症状、副作用や患者さんの既往歴・合併症などをもとに使いわけられます。うつ病で使われる薬の種類や副作用、薬物治療を効果的に行う方法などを、東京医科大学 精神医学分野主任教授の井上 猛先生にうかがいました。

カウンセリングを受ける患者

うつ病と診断されると、ある程度以上の重症度では、患者の意向が特別にない限りは、基本的に薬による治療を行います。しかし、ここで心に留めていただきたいのは、うつ病は薬だけで治るものではないということです。薬はあくまでも治療の一部にすぎず、うつ病を引き起こしている、あるいは悪化させている要因を可能な限り除去し、過度な負荷やストレスを取り除き、必要なときには静養することがうつ病の治療には大切です。

先に述べたように、うつ病は薬だけで治すのではなく、並行して静養、環境調整、精神療法、心理教育、生活指導を実施することが肝要です。実際に、薬物療法を実施しなくてもうつ病の症状が改善する方は少なくありません。これは、抗うつ薬の臨床試験*で用いられる、プラセボ(偽薬)の効果でも示されており[注1]、うつ病の症状改善には薬以外の要素もおおいに関係していると考えられます。

臨床試験…新しい薬や治療法を開発するために、人で効果や安全性を調べる試験

注1:Pecina M, et al. JAMA Psychiatry. 2015;72:1087-1094.

薬による治療を続けて、症状がある程度軽症となり、活動できそうなときは、ぜひ散歩や買い物などの適度な活動をすることをおすすめします。

後述のように抗うつ薬は神経伝達物質を増やして症状を改善しますが、神経伝達物質は適度な活動・運動によって神経から放出され、抗うつ薬によりその濃度がさらに増加します。さらに、ストレスによって減る海馬の神経新生は、運動によって増えることが動物実験から明らかになっています。

実際運動療法はうつ病の治療に有効であることが臨床試験で報告されており、運動はうつ病治療において重要な手段となると考えられます。また、体力を落とさないためにも、意識して運動していくことが望ましいのではないでしょうか。

うつ病は、脳内の神経伝達物質の機能が低下することで、不安やゆううつ、意欲の低下、興味関心の低下、焦燥感などの症状が現れると考えられています。

うつ病で機能が低下するといわれる神経伝達物質は、以下の3種類です。これらの減少が以下の症状出現と関連することが示唆されていますが、まだ明らかではありません。

  • ドパミン…報酬機能、運動機能、認知機能
  • ノルアドレナリン…注意、覚醒、記憶
  • セロトニン…不安

うつ病で使われる抗うつ薬は、これらの神経伝達物質の脳内における神経細胞外濃度(シナプス間隙の濃度)を高めることによって、症状を改善します。

薬

2017年12月現在、うつ病で使用される薬は、作用機序*と化学構造により大きく5種類にわかれます(★は副作用が少ないことからよく使用される薬)。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)★
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)★
  • NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)★
  • 三環系抗うつ薬
  • 四環系抗うつ薬

作用機序…薬がその効果を発揮するメカニズム

SSRIは、神経細胞外セロトニン濃度を主に増やす薬です。従来使われていた抗うつ薬(三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬)よりも副作用が少ないことから、うつ病の治療の際、最初によく使われる抗うつ薬です。

セロトニンを増やすことにより不安症状を改善するため、不安症の治療にも使われます。

副作用

副作用は少ないものの、以下の副作用が現れることがあります。

  • 吐き気・嘔吐(主に飲み始め)
  • 眠気
  • 性機能障害
  • 中止後症候群 など

SSRIの種類

  • フルボキサミン
  • パロキセチン
  • セルトラリン
  • エスシタロプラム

※2017年12月現在

SNRIは、セロトニンとノルアドレナリンの神経細胞外濃度を高める作用のある薬です。従来使われていた抗うつ薬(三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬)よりも副作用が少ないことから、SSRIと同様にうつ病の治療の際、最初によく使われる抗うつ薬です。

SNRIには尿が出づらくなる副作用があるため、前立腺肥大症の男性の場合には積極的な使用を控えます。

副作用

  • 吐き気・嘔吐:主に飲み始めに
  • 眠気
  • 排尿障害(尿が出づらい)
  • 脈が速くなる
  • 高血圧
  • 性機能障害
  • 中止後症候群 など

SNRIの種類

  • ミルナシプラン
  • デュロキセチン
  • ベンラファキシン

※2017年12月現在

NaSSAは、SSRI、SNRIとは異なる作用機序でセロトニン、ノルアドレナリンの神経細胞外濃度を高める薬です。2009年に登場した比較的新しい薬で、特に不眠、食欲不振に効果が期待できます。また、鎮静作用があることから、焦燥感(しょうそうかん)が強い患者さんに使うこともあります。

副作用

  • 眠気
  • だるさ
  • 食欲亢進
  • 体重増加(肥満)
  • 一過性肝機能異常 など

NaSSAの種類

  • ミルタザピン

※2017年12月現在

三環系抗うつ薬は、SSRI、SNRI、NaSSAよりも古くから使われている抗うつ薬です。薬の種類によってノルアドレナリンとセロトニンの両方か、ノルアドレナリンのみの神経細胞外濃度を高める作用がありますが、SSRI、SNRIなどよりも副作用が出やすいです。

SSRI、SNRIなどよりも副作用が強いことから使用頻度は減ってきています。しかし、SSRI、SNRIなどではなかなか効果が現れない場合には使用することがあります。

注意点

三環系抗うつ薬や後述する一部の四環系抗うつ薬は、抗コリン作用といって記憶の保持に関わるアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質のはたらきを抑える作用があります。そのため、服用中に物忘れやせん妄*などが生じる可能性があり、高齢者では慎重に使われます。

また、抗コリン作用によって眼圧が上昇し、緑内障の患者さんでは緑内障が悪化する可能性があるために基本的には使用を控えます。

心臓病の患者さんでは、QT延長症候群*を起こし症状が悪化するおそれがあるため、この場合も一部の三環系抗うつ薬では基本的には使用を控えます。

せん妄…薬物、炎症、血流低下、全身状態悪化などにより脳機能が急性に低下し、記憶と見当識の障害、不眠、興奮などがみられる状態

QT延長症候群…心筋細胞の電気的な回復が延長し、不整脈のリスクが高まる病気

副作用

  • 口の渇き
  • 便秘
  • 立ちくらみ
  • 排尿障害(尿が出にくい)
  • 眠気
  • 手のふるえ
  • 性機能障害
  • 物忘れ、せん妄

三環系抗うつ薬の種類

  • アミトリプチリン
  • クロミプラミン
  • イミプラミン
  • トリミプラミン
  • ノルトリプチリン
  • アモキサピン
  • ドスレピン
  • ロフェプラミン

※2017年12月現在

四環系抗うつ薬は、三環系抗うつ薬をもとに三環系抗うつ薬よりも副作用を抑えた薬です。副作用は低減されているものの、特にマプロチリンではSSRI、SNRIに比べると副作用は強く、四環系抗うつ薬も使用頻度が減っています。

注意点

前述の通り、一部の四環系抗うつ薬(マプロチリン)も抗コリン作用による物忘れやせん妄、緑内障の悪化が起きることがあります。

また、ミアンセリン、セチプチリンでは、食欲亢進や体重増加が起きることがあります。

副作用

  • 口の渇き
  • 便秘
  • 立ちくらみ
  • 排尿障害
  • 眠気
  • 手のふるえ
  • 食欲亢進
  • 体重増加(肥満)
  • せん妄、物忘れ

四環系抗うつ薬の種類

  • ミアンセリン
  • マプロチリン
  • セチプチリン

※2017年12月現在

トラゾドン、スルピリドも抗うつ薬として使われることがあります。

今回紹介したうつ病の薬は、医師の診察を受けて、処方されないと使えない薬です。よって、市販では買うことができません。

うつ病の治療を希望する際には、まずは精神科や心療内科、メンタルヘルス科などの病院を受診してください。

臨床試験でうつ病の症状を改善することが証明されたサプリメントや漢方薬はありません。海外では抗うつ作用が報告され、使用されている一部のサプリメントがありますが、国内で発売されているものが抗うつ作用を発揮するかどうかは定かではありません。

ほとんどの抗うつ薬では、奇形の報告はされていません。しかし、一部の抗うつ薬(パロキセチン)では奇形の報告があることから、妊娠中の抗うつ薬の服用は避けることが望ましいでしょう。さらに、SSRIの妊娠中の投与は新生児遷延性肺高血圧症を引き起こすことが報告されています。

今まで抗うつ薬を服用していた患者さんが妊娠して急に薬をやめると、症状が悪化することがあります。SSRIやSNRIを急に中止すると中止後症候群の症状が出現することがあります。うつ病症状がみられる場合には、妊娠中にできるだけ安全な薬を選んで抗うつ薬による治療を続けます。その際には精神科医と産婦人科医によく相談してください。

これまでに紹介した抗うつ薬や、精神科で使われる抗精神病薬には薬物依存性はありません。薬物依存性があるのは、抗うつ薬とともに使われることの多い抗不安薬や睡眠薬です(一部、薬物依存が起きない睡眠薬も販売されています)。

薬物依存性のある薬を長期間服用すると、中止することが難しくなり、中止時に離脱症状が出現します。

そのため、抗不安薬や睡眠薬を使う場合には、薬物依存を避けるためにも医師と相談して、その指示を守って正しく服用してください。

抗うつ薬服用中に飲酒すると、抗うつ薬の作用に影響することがあります。抗不安薬や睡眠薬を服用中に飲酒をすると、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が増強する

ことがあります。そのため、うつ病の薬物治療中は飲酒を避けたほうがよいでしょう。

心臓病、緑内障前立腺肥大症などの一部の病気では、抗うつ薬の服用によって持病が悪化、内科薬と抗うつ薬が相互作用するおそれがあります。持病がある方は必ず、服用中の薬と治療中である病気について医師に伝えてください。

精神科で処方されるほとんどの薬は、車の運転が禁止されています。仕事上、運転が必要な場合は基本的には運転を必要としない業務に変えてもらうことが望ましいです。

しかし、一部の抗うつ薬では、眠気、めまい等があらわれることがあるので、これらの薬を服用している方は、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には十分注意させることが求められているものの、禁じられてはいません。車の運転の可否については、主治医に相談してください。

うつ病の薬を飲み忘れたり、自己判断で急にやめてしまったりすると、中止後症状が起きることがあります。特にSSRIやSNRI、一部の三環系抗うつ薬などの神経細胞外セロトニン濃度を増加させる作用を持つ薬剤を長期間にわたり服用していた方が急に薬をやめたり、用量を減量した場合に中止後症状が起きることがあります。

中止後症状として、めまい、知覚障害(錯感覚、電気ショック様感覚、耳鳴り等)、睡眠障害(悪夢を含む)不安、焦燥、興奮、頭痛、吐き気、下痢、発汗、振戦(ふるえ)、意識障害などの症状があります。中止後症状は、今まで通りの量の薬を飲むことでまもなく消失します。

うつ病の薬をやめたいと思ったときは、まず医師に相談してください。薬の副作用がつらくてやめたいときには、他の薬への変更を検討します。

もし、抗うつ薬を飲んだときに気分がよくなってしまい、散財、浪費、多弁、易怒性(怒りっぽい)や性的関係を複数持つなどの行動が現れる場合はすぐに医師に相談してください。うつ病ではなく双極性障害による躁病の可能性があります。双極性障害の治療は、うつ病とは異なるために、双極性障害の治療に切り替える必要があるからです。

自分では調子がよいと感じ、もう薬はいらないと感じることがあるかもしれません。医師に相談せずに、すぐに薬をやめてしまうと、うつ病の症状の悪化や中止後症状が起きる可能性があります。中止するときには、必ず主治医と相談してください。

今回が初めてのうつ病の場合には、数か月無症状が続いた後に、徐々に量を減らして一度薬を中止します。うつ病の症状が2回目以降で反復性の場合には、再発予防を目的に服用を継続することを考慮して、医師は患者に説明し、治療継続を提案することもあります。

ウォーキングをする人

うつ病は、一時期は心の風邪ともいわれることもありました。しかし、うつ病は、風邪のように具合の悪いときにだけ短期間薬を飲めばよくなるというものではありません。悪化を防ぎ、回復を早めるためにも、調子がよいときも悪いときも医師の指示通りに継続して薬を服用することが大切です。

そして、負担にならないのであればむしろ散歩などをして体を動かしましょう。うつ病には心の安静は必要ですが、体まで無理に安静にする必要はありません。うつ病の治療は焦らずに根気よく続けることが大切であると私は考えています。焦ったり、自身の性格の問題だと決めつけたりせずに、症状が改善するまで治療を続けてください。そうすれば、うつ病の症状はよくなってきます。

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