インタビュー

月経前不快気分障害(PMDD)の症状と原因ー月経前症候群(PMS)とは違う?

月経前不快気分障害(PMDD)の症状と原因ー月経前症候群(PMS)とは違う?

平島 奈津子 先生

この記事の最終更新は2017年06月18日です。

健康な女性であっても、その約30パーセントの方は月経前になると特別な原因なしに、医療機関を受診するほどではないが、何かしら不快な気分を感じるといわれています。

月経前症候群(PMS)は、月経の7〜10日前から現れる精神的・身体的に不快な症状のことをいいます。その症状は様々で、たとえば、乳房の張りや体のむくみ、イライラする、眠気やだるさなどが挙げられます。

一方、月経前不快気分障害(PMDD)は、身体的な症状は月経前症候群(PMS)と似ていますが、精神的な症状が強く現れることによって、情動不安定になることが特徴で、日常生活に大きく影響します。

月経前不快気分障害(PMDD)とは、具体的にどのような症状なのでしょうか。国際医療福祉大学三田病院精神科教授 平島奈津子先生にお話を伺いました。

月経前不快気分障害(PMDD)は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)で定められている、うつ病や気分変調症(慢性の軽うつ)などと同じ分類にあたる抑うつ障害群の一種です。

症状の発現する時期に特徴があり、月経の始まる7〜10日前くらいに精神症状が発現します。その症状は激しく、生活に支障をきたすほどです。しかし、月経が始まると速やかに症状が軽減し、遅くとも月経が終わって一週間で症状がなくなります。このように月経周期に合わせて発現する精神症状を呈する疾患は、月経前不快気分障害(PMDD)以外に存在しません。

また、月経前不快気分障害(PMDD)のような症状がみられても、日常生活に支障がなければ、診断はつきません。

月経前不快気分障害(PMDD)の症状は多岐にわたりますが、些細なことでイライラする、怒りっぽくなる、暴力を振るうといった、易怒性(いどせい)が認められることが大きな特徴です。自分自身でコントロールができないくらい激しい怒りの感情をあらわにしてしまうため、患者さん自身にとって社会的に深刻な問題が生じます。

実際に、私のところに相談にいらっしゃる月経前不快気分障害(PMDD)の患者さんは、易怒性(いどせい)によって対人摩擦を起こし、身近な方と喧嘩をしたり、会社でトラブルを起こしたりといった問題を抱えているケースが多くあります。

怒っている女性

易怒性(いどせい)以外にも、月経前不快気分障害(PMDD)では様々な精神症状が認められます。

具体的には以下のような症状が挙げられます。

  • 悲しくなる、涙もろくなるなど感情が不安定になる
  • 気分の落ち込み、絶望感がある
  • 不安や緊張を感じる

症状が重くなると、自殺衝動が起こることも少なくありません。

月経前不快気分障害(PMDD)は、精神症状が主ですが、身体症状も認められます。

たとえば以下のようなものが挙げられます。

  • 疲れやすくなる
  • 不眠または過眠になる
  • 乳房やお腹が張る
  • 体がむくむ
  • 頭が重い(頭痛
  • 便秘

月経前不快気分障害(PMDD)と月経前症候群(PMS)の症状は、似ている部分もあり、臨床では症状が軽いほど境界が曖昧といわれています。

どちらも月経周期に関連して症状が発現する病気であることは共通していますが、月経前症候群(PMS)は身体症状、月経前不快気分障害(PMDD)は精神症状が顕著に現れる点が異なります。

また、月経前症候群(PMS)にみられる精神症状は軽度にとどまっていますが、月経前不快気分障害(PMDD)の精神症状は生活に支障をきたすほどの重い症状であるという点も大きな違いです。

女性の体調が悪そうな様子

月経前不快気分障害(PMDD)の大きな特徴である易怒性(いどせい)は、パーソナリティ障害(性格の著しい偏りによって生じる困難のために日常生活に支障が出てしまう精神疾患)にも認められます。

そのため精神科の医師でも、月経前不快気分障害(PMDD)の患者さんの診察に慣れていない場合、パーソナリティ障害の診断をつけてしまうことがあります。しかし月経前不快気分障害(PMDD)とパーソナリティ障害は、それぞれ全く違う疾患であり、治療も異なるため、医師は誤診に注意が必要です。

また前述の通り、月経前不快気分障害(PMDD)は月経周期に伴って症状が発現するという特徴があるので、症状が発現するタイミングをきちんと把握することが大切です。

うつ病には持続するような憂鬱感や、好きなことさえできないくらい気分が落ち込むといった症状があらわれますが、月経前不快気分障害(PMDD)では、必ずしもそのような症状が顕著に現れるわけではありません。

ただし、うつ病の女性患者さんの場合も、約60〜70パーセントの方が月経前にうつ症状が重くなるといわれており、その場合はうつ病の症状が悪化したのか、月経前不快気分障害(PMDD)の症状が出たのか鑑別が難しいことがあります。

しかし、臨床的にうつ病と月経前不快気分障害(PMDD)の治療は、それぞれ似ているところがあるので、鑑別が困難でも過度に心配する必要はないといえます。

月経前不快気分障害(PMDD)の原因については諸説あり、正確な原因については明らかになっていません。ホルモン値の検査をしても正常な値であることがほとんどです。

仮説としては、ホルモン自体には問題はないものの、月経前にホルモンが変動することによって脳が過剰に反応をしてしまうといわれています。

また、ストレスも一部影響しているのではないかとも考えられており、実際にストレスを多く抱えている患者さんは症状が改善された後も再発しやすいです。

月経前不快気分障害(PMDD)は、月経のある女性なら年齢を問わず誰でもかかる可能性があります。

ただし、ホルモンバランスの変動が引き金となって起こる『産後うつ』の既往がある女性は、特に月経前不快気分障害(PMDD)にかかりやすいといわれています。

また、ピルを飲むことで、まれにイライラしたり精神不安定になったりする方がいらっしゃいますが、これがのちに悪化して月経前不快気分障害(PMDD)を引き起こすこともあります。

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