インタビュー

PMSと上手に付き合うには――正しく知ることで本人も周りも楽になる

PMSと上手に付き合うには――正しく知ることで本人も周りも楽になる
磯山 響子 先生

札幌医科大学 産婦人科学講座/医療人育成センター 教育開発研究部門 助教

磯山 響子 先生

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「月経前はいつもイライラしてしまう」「思うように家事や仕事が進まない」など月経前の不調に悩んでいませんか。それはPMS(Premenstrual syndrome:月経前症候群)の症状かもしれません。そんなPMSを改善するにはどうしたらよいのでしょうか? 漢方薬を含めたさまざまな治療法や日常生活でできる対策、周りの方ができることなどについて、札幌医科大学医学部産婦人科学講座 兼 医療人育成センター教育開発研究部門 助教 磯山 響子(いそやま きょうこ)先生にお話を伺いました。

PMSとは、月経前から月経開始時期にかけて繰り返し起こる体や心の不調、不快な症状のことです。月経周期による体調の変化はほとんどの女性に起こりますが、特にその不調が日常生活に支障をきたしていたり、つらいと感じていたりするのであれば、治療が必要なPMSといえます。なお、月経のある女性の5.4%に社会生活における困難を伴うPMSの症状があるといわれています。

PMSの症状には身体症状、自律神経症状、精神症状があります。それぞれの主な症状は以下のとおりです。

身体症状

腹痛、頭痛、腰痛といった痛みの症状や、体のむくみ、お腹の張り、便秘、乳房の張りなどがあります。

自律神経症状

めまい、のぼせ、倦怠感、微熱などがあります。

精神症状

情緒が不安定になる、イライラする、気分が落ち込む、不安や緊張が強くなるなどの症状があります。眠気、集中力の低下、睡眠障害や不眠の症状が現れる患者さんもいらっしゃいます。

イライラや不安などの精神症状が特に強く現れる場合にはPMDD(Premenstrual‌ Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)の可能性もあります。PMDDとは、PMSのうち主に精神症状が強く出る状態のことです。

月経のある女性の1.2%にPMDDの症状がみられるといわれています。また、PMSの症状があり困っているということで婦人科を受診される患者さんの4人に1人くらいはPMDDであるように思われます。

PMSの原因としては、排卵期から月経までの間の女性ホルモンの変動が関与しているといわれています。詳しい原因はまだ解明されていませんが、排卵による女性ホルモンの低下や、それに伴って気分を安定させたり不安な気持ちを取り除いたりする神経伝達物質がうまくはたらかなくなることなど、さまざまな要素が関わる複雑なメカニズムによって引き起こされると考えられています。

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身体症状や精神症状が月経前の3〜10日間ほどに現れ、月経開始とともに症状が改善、あるいは消失することが毎月繰り返し起こることがPMSの診断基準となります。症状がいつから出て、いつよくなるのかを確認し診断します。

自分がPMSかもしれないと思った場合には、現れた症状を日記やスマートフォンアプリなどに記録しておくとよいでしょう。こうした“症状日記”をつけることは、自分の症状やリズムを把握するのに役立ちます。症状が日常生活や社会生活に支障をきたしている場合は治療対象となりますが、月経周期に関係なく症状が出たり持続したりする場合には、違う病気の可能性も考えられます。気になる症状があるときには医師に相談してみましょう。

PMSと思われる症状のほかにも、月経痛や月経時の経血の量が多いなど気になる症状があれば受診をおすすめします。

付け加えたい点として、基礎疾患(持病)や治療中の病気の症状が月経前に悪化する場合があり、これを月経前増悪と呼びます。月経前に悪化しやすいことで知られている病気には、うつ病片頭痛(へんずつう)てんかん気管支喘息(きかんしぜんそく)などがありますが、そのほかの病気でも起こり得ます。このような場合はかかりつけ医と産婦人科医が連携しサポートする必要があります。月経と関連があるか分からない場合でも、まずはご自身の病気の治療に携わっている医師に相談するとよいでしょう。

PMSの治療法には大きく分けて生活改善(薬を使わない治療)と薬物療法があります。患者さんが日常生活でできる工夫としては、以下のようなことが挙げられます。

バランスのよい食事

食事ではビタミン、特にビタミンB6を取ることがPMSの症状の改善に役立つとされています。加えて、肌荒れが気になる方はビタミンB群、C、Eなどを取るとよいでしょう。カルシウムやマグネシウムも精神症状を落ち着かせるために摂取するとよいといわれています。食事で取ることができれば食事で、サプリメントのほうが手軽であればサプリメントで取るなど、患者さんそれぞれが無理なくできる方法で摂取するのがよいでしょう。

月経前に糖分を取りすぎると血糖値の変動が強くなりやすいといわれています。「月経前は甘いものが無性に食べたくなる」という方は多いのですが、血糖値の急激な上昇や低血糖を防ぐため、糖分の取りすぎに注意しましょう。

また、カフェインやアルコールを控えることも症状の緩和に役立ちます。

適度な運動

ヨガやストレッチなどの有酸素運動を適度に行うとよいでしょう。

PMSの悪化にはストレスや精神状態が大きく関わっています。患者さんご自身はなかなか気付いていらっしゃらないことが多いのですが、環境の変化などによる疲れをため込んでいる場合があるようです。

たとえば、「仕事が変わって忙しくなり、そのストレスに伴ってPMSが強くなってきた」「妊娠前はそうでもなかったのに出産して育児をするなかでPMSがひどくなり、子どもにイライラするようになってしまった」などと話される患者さんが、私が診察するなかでも多くいらっしゃいます。

PMSのつらい症状を和らげるには、疲れをため込まないよう十分に休息を取ることが大切です。あれもこれもとスケジュールを詰め込まないようにし、リラックスする時間を作るように心がけましょう。可能ならPMSの症状が出る期間は大事な用事を入れないなど、ゆとりを持ったスケジュールを組むことも1つの方法です。

自分の生活スタイルに合った方法で、自分らしい過ごし方を心がけることが症状の緩和に役立ちます。

「PMSがあってつらい」ということを身近な方に相談し、知ってもらうことも症状の緩和につなげるための大切なポイントです。

理解を求めること自体ハードルが高く感じられるかもしれませんが、誰にも知られないなかでPMSと闘っていくのは大変でつらいことでしょう。まずは信頼できる方や身近な方に自分のPMSのことを伝えてみてください。家族や職場やコミュニティの中で誰か1人でも分かってくれている方がいれば、心強いことと思います。

自分のつらさを分かってもらうだけでもストレスが緩和され症状が和らぐ場合もあります。

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PMSの薬物療法としては以下の方法が挙げられます。

痛みに対する鎮痛薬、むくみに対する利尿薬など、それぞれの症状を和らげる対症療法となる薬剤を使用します。

いわゆる低用量ピルと呼ばれている“低用量経口避妊薬(OC)”や、同じ成分で月経困難症などの治療に保険適用されている“低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)”は、排卵を一時的に止めることで月経周期に伴う女性ホルモンの変動を抑えるため、排卵に伴う月経前の症状の改善が期待できます。また、避妊効果、子宮内膜症の抑制効果、月経痛や経血の量を抑える効果もあり、長期的なQOL(Quality of life:生活の質)の改善や維持に向いていると考えられます。日本ではPMS、PMDDに対しては現在のところ保険適用外となっていますが、低用量経口避妊薬(OC)のPMSやPMDDに対する有効性を示した研究結果がありますし、海外ではPMDDに対して保険適用になっている国があります。

また、低用量経口避妊薬(OC)にもいくつか種類があり、種類によって効果や副作用の面で差があります。毎月月経を起こす周期投与や、月経回数を減らす連続投与など、投与方法に違いもありますので、患者さんの症状やライフスタイルに応じて医師と相談して使用していくことが望ましいでしょう。

年齢や喫煙習慣の有無など、患者さんの状況によっては低用量経口避妊薬(OC)の使用が好ましくない場合もありますので、医師との相談が必要です。

気分の落ち込みやイライラなど、精神症状が主体の場合には抗うつ薬のSSRI(Selective ‌Serotonin Reuptake Inhibitors:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療が検討されます。精神症状がメインであり、月経前は生活がままならなくなる、周りに迷惑をかけてしまい困っているなど、生活に支障をきたしているのであればSSRIを第一に選択することがあります。通常、うつ病不安障害の患者さんが抗うつ薬を使用する場合、効果が現れるまでに2~4週間ほどかかりますが、PMSやPMDDの方には即効性があるとされているため、月経前の精神症状がある期間にだけ服用(周期投与)する方法もあります。

また、SSRIと低用量経口避妊薬(OC)を併用するなど、いくつかの薬剤を組み合わせて使うこともあります。

東洋医学とPMS

東洋医学では不調の原因を “気・血・水”という考え方により把握します。“気”は生命エネルギー、“血”は血液や栄養分、ホルモンなど、そして“水”は血液以外の体内の水分をつかさどります。東洋医学ではこの“気・血・水”が体を順調に巡っている状態が健康とされており、どこかに不足や滞りが生じると体や心に不調が現れると考えられています。たとえば、むくみが強い方であれば“水”が滞った“水滞”の状態、落ち込みやイライラが強いなら“気”の巡りが悪い“気滞”や、“気”が逆流する“気逆”が起こっていると判断します。

これらを判断するためには、詳しい問診と診察を行うことが重要です。基本的には問診で、寒がりなのか暑がりなのかといった体質的なことや、むくみや冷え、ほてりの有無などを詳細にお聞きします。併せて、顔色や舌の色、脈の性状やお腹を触った所見など東洋医学特有の診察方法から得られた情報をもとに、患者さんの体質や体力、症状や不調をきたしている原因を総合的に診断し、それぞれの患者さんに合った漢方薬を処方します。

PMSでは“気・血・水”のいずれか、あるいはいくつか、または全てのバランスが崩れている状態と考えられます。月経関連の不調には基本的には“血”の異常が関わっていると考えられるため、“血”の異常に対応した漢方薬を処方することが多いです。

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漢方療法を取り入れるメリットとは

漢方薬は1つの処方で複数の症状を改善することが期待できるため、複数の症状を抱えていることが多いPMSの患者さんには漢方薬の治療が適していると考えられます。

漢方薬には心と体の両面に作用する薬剤が多いというメリットもあります。抗うつ薬の使用に抵抗を感じられる患者さんには、精神症状に効果が期待できる漢方薬から始めていただくこともあります。

低用量経口避妊薬(OC)に対して抵抗を感じる患者さんにも、まず漢方薬から始めてみるケースが多いです。治療の導入として漢方薬を使用していくのも効果的な方法といえるでしょう。

処方した薬剤が体質や症状に合えば、漢方薬のみでよくなる患者さんもいらっしゃいます。一方、ほかの治療法単独では「月経痛はよくなったけれどまだイライラが取れない」「ちょっとむくみが気になる」ともう一歩改善させたいという場合に、漢方薬を併用することで改善を得られる患者さんもいらっしゃいます。たとえば、もともとむくみやすい方、「天気が悪いときには頭痛やむくみが生じやすい」などのように天気や気圧の変化により体調を崩しやすい方は、水滞を改善する漢方薬の使用により症状が軽快する場合もあります。

また、出産直後の方や直近で妊娠を考えている方など、低用量経口避妊薬(OC)の使用を控えるべき患者さんには漢方薬の使用を第一に考えることもあります。

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実は、出産後や更年期に差しかかる時期にPMSが出現したり悪化したりする方は多くいらっしゃいます。これには、産後や更年期にはホルモンバランスが変調をきたしやすく、また生活スタイルやライフステージの変化によるストレスを感じることが多い時期であることが大きく関わっています。

「今までやり過ごせていたのに、どうしてこんなに体調が悪いんだろう」「なぜこんなにイライラしてしまうようになったのか」と、自身の変化に戸惑いや不安を感じて来院される患者さんも多いのですが、ホルモンの変動により起こっている症状であることや、同じように悩んでいる患者さんがたくさんいらっしゃることをお伝えすると、それだけでも「ちょっと荷が下りた」「少し楽になった」という言葉が返ってきます。患者さんのせいではないこと、対処法があることをまず患者さんご自身に知っていただき、少しでも気持ちを楽にしていただきたいと思っています。

周囲の方ができることとして、まずはPMSについて知ろうとすることが第一歩です。このページをご覧になっている方は、その最初の一歩を踏まれているということです。PMSについて正しい知識を身につけ、必要以上に恐れたり不安を抱いたりせず大きく構えることが大事だと思います。

PMSの症状は個人差が大きく、前述のように生涯の中でも変化していきます。「以前はそうじゃなかった」「その症状はPMSではないのでは?」などと安易に決めつけたり否定したりすることは避けたほうがよいでしょう。

PMSの症状でつらそうにしている姿を見かけたり、いらいらをぶつけられたりして、周囲の方も戸惑いを覚えたりつらい気持ちになったりすることがあるでしょう。しかし、周りの方が「月経周期によって起こっていることなんだ」「自分ではコントロールが難しいこともつらいんだ」と認識し理解を示すだけでも、本人も周りの方も気持ちが楽になると思います。

必要以上に気を使ったり、特別に何かしてあげようと気負ったりする必要はなく、寄り添う、支えるという姿勢で関わることが大切です。

ただし、体調がよくないときにどう接してほしいかはその人それぞれで異なります。月経前の体調不良真っただ中では、建設的な話し合いが難しかったりするので、体調が落ち着いている時期に、「どう関わってほしいのか」「何をしてもらえると助かるのか」などを話し合っておくのがよいでしょう。

前述のようにストレスによってPMSは悪化しやすいため、普段からご家族が育児や家事などに協力的であったり、しっかりコミュニケーションを取っていたりするほうが望ましいといえます。日頃からお互いを尊重し合うこと、お互いの不満の種をそのままにしないことも重要です。

ストレスの原因や責任を追求するのではなく、今目の前にある症状と向き合い、患者さんと周りの方が協力してPMSの期間を穏やかに過ごすことを目指すとよいでしょう。

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自分の不調がPMSかもしれないと考えている方は、まずは自分の体調や変化について書き出したり、記録をつけたりすることから始めてみてください。書き留めていくなかで、どういうときに特につらいのか、どうしたら楽に過ごせるかなどを探っていくことはセルフケアの1つになります。まずは患者さんがご自身のことを知り、自分を労ろうとすることが大切です。

PMSが女性特有の病気であることに加えて、症状の種類や度合いが人によって多彩であること、PMS自体があまりよく知られていないことなどから周りの方の理解が得られにくい場合があります。男女にかかわらず、一人ひとりがPMSについて正しい知識を持つことはとても大切です。

また、患者さんご自身の体調の変化について周りの方にも知ってもらい、一人で抱え込まず周りの人と一緒に受け止めながら付き合っていくという姿勢も大事だと思います。

月経前の不調などで心配なことや困っていることがあれば、おひとりで悩まずに、まず産婦人科を受診してみてください。正しい対処法や患者さん一人ひとりに合った治療法など、自分らしく前向きに過ごすための心強いサポートを受けながら生活していただきたいと思います。

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