インタビュー

気分障害とは?症状や具体的なエピソード、発症メカニズムまで

気分障害とは?症状や具体的なエピソード、発症メカニズムまで
岩田 仲生 先生

藤田医科大学 医学部 精神神経科学 教授

岩田 仲生 先生

この記事の最終更新は2017年05月24日です。

気分が上がったり下がったりすることは誰にでもあることです。しかし、通常の気分の浮き沈みとは違い、体を動かすことすらできないほど気持ちが辛くなり、不眠や食欲不振に陥ったり、逆に気分が高揚して突発的に高価な買い物をしたり、周囲に怒鳴り散らすなどの行為があった場合は、気分障害という疾患の可能性があります。

気分障害を発症するメカニズムの詳細は、まだ解明されていません。そのため、気分障害を発症したことのない方の一部には、気の持ちようだといって理解されないこともあります。しかし、気分障害の症状は、経験したことがないと理解できないほど辛く重苦しいもでもあり、適切な治療をする必要があります。

今回は、藤田医科大学 医学部 精神神経科学教授の岩田仲生先生に、気分障害の症状や行動、発症メカニズムを中心にお話をうかがいました。

気分は、人間が生きていくうえで上がったり下がったりするもので、ある程度であれば普通のことです。しかし気分障害では、通常の気分の上がり下がりとは違い、今までの人生のなかで一度も経験したことのないような、非常に重苦しく辛い気分に陥ります。

気分障害の苦しみは発症した方にしかわかりません。たとえば、心筋梗塞を発症したときの通常とは比較できないほどの胸の痛みであるとか、インフルエンザで40℃の熱がでて身動きするのも苦しいといった、経験してみないとわからない、そういった苦しみなのです。

気分障害のなかには、気持ちが落ち込むうつ病と、気持ちが過剰に高揚する躁(そう)の状態とうつ病の状態を交互に繰り返す双極性障害(Ⅰ型・Ⅱ型)*の大きく2つのタイプに分類できます。

重度の躁状態とうつ病を交互に発症する疾患が双極性Ⅰ型障害で、軽い躁とうつ病を交互に発症する疾患が双極性Ⅱ型障害。双極性障害は躁うつ病とも呼ばれています。

現在の医学では、うつ病双極性障害などの気分障害がどういったメカニズムで発症するかについてはまだはっきりとは解明されていません。そのため、発症の仕組みを説明することは非常に困難であることに加え、気分の上がり下がりは誰にでも存在するため、気分障害にかかったことのない方のなかには、この疾患は「気の持ちようの問題」ではないかといった偏見を持っている方も多く存在します。しかし、実際には気分障害はさまざまな治療介入が必要な病気なのです。

気分障害を発症しているあいだは、多くの場合患者さんに病識(自分自身が疾患を患っているという自覚)はありません。症状が軽くなってきた時点で、あのときは異常だったとわかるようになります。以下では、うつ病双極性障害にわけてさまざまなケースや症状を例示していきます。

うつ病を発症した場合は、すべてのことに興味がなくなり、次のような症状があらわれます。

不眠、食欲不振からの昏迷(こんめい)状態

不眠になると、朝までまったく眠くならないか、眠れても1日3時間程度という日々が続きます。また、食欲不振の場合、最初は食べ始めることができますが、少しすると食欲が一気になくなってしまい、食べられなくなってしまうという特徴があります。

この2つの症状が続くと体力が消耗されていき、最悪の場合まったく眠らず、何も食べず、何も喋らなくなって昏迷状態(自らの意思表示をせず、外からの刺激にも反応しない状態)に陥るケースもあります。

幻聴や幻覚、激しい妄想

「死ね」という幻聴が聞こえたり、亡くなったおばあちゃんが手招きをしているなどの幻覚がみえたりする場合があります。また、「息子が人を殺したから、うちの家族はみんな死んで詫びなければいけない」といった妄想を持って譲らない患者さんや、「自分は全身にがんが転移しているから」といってうつ病の治療をすべて拒否する方もいます。

死にたいと思い自殺を企図する

苦しいから生きたくないという考えが頭に浮かび、自殺を考えるようになります。「今ここで車が自分を轢いてくれたら生きなくてすむ」と思うような、とにかく生きていることが辛いから死んでしまいたいという感情になります。うつ病の症状としての自殺の企図は、死について反復して考えた末に、生きている意味がないから自殺したいという種類の自殺願望とは少々異なっています。

(うつ病の状態が治らないまま長く続くと、躁の症状が現れることも少なくありません。この場合はうつ病ではなく、たまたま最初にでた症状がうつであっただけであり、双極性障害と診断されます)

怒鳴っている人

双極性障害のⅠ型とⅡ型は、うつ病の症状に関しては同様ですが、躁の症状の重さが異なります。

双極性Ⅰ型障害

重度の躁状態とうつ病の症状を交互に現す疾患が、双極性Ⅰ型障害です。双極性Ⅰ型障害の躁エピソードは、精神病の患者さんと区別がつかないほどの症状があらわれ、日常生活に支障をきたすようになります。

具体的なエピソードとしては、自尊心が誇大しイライラとして仕事をやり散らかしたり、周囲に怒鳴り散らしたりします。また逆に、自分は何でもできるといった万能感がわき起こり、何でも自分に任せろといった感じで、常ににこにことした笑顔をみせるパターンもあります。

前者のようなイライラとして怒り出す躁の症状を、我々は「プリプリ躁」と呼んでいます。人間は、自分が不当な扱いを受けたと感じたときに怒るようになっています。そのため、自尊心が誇大すると自分がとても偉い人間に思え、すべての扱いが不当と考えるようになるため、周囲に怒り出すのです。

また、様々なことのアイディアが次々と浮かんでくるので、少しやっては放り出しを繰り返し、収集がつかなくなることもあります。他には、突然車などの高額な買い物をしたり、海外で違法ドラックに手を出してしまったり、ということもあります。

双極性Ⅱ型障害

双極性Ⅱ型障害とは軽躁(軽い症状の躁)の状態とうつ病の症状を、かわるがわるに発症する疾患のことです。

軽躁状態でも日常生活に支障をきたすことなく生活している方は、世の中に大勢いらっしゃいます。たとえば、日夜を問わず寝ないで仕事に没頭する方は、軽躁状態といえるでしょう。私のまわりの医師にも当てはまる方は沢山います。その他にも、海外旅行に行った際に、寝る間を惜しんででも、ガイドブックに載っている場所をすべて回りきらないと気が済まないという方も軽躁状態といえるかもしれません。

また、人間は、危険なところに踏み入ったり、新しいものを食べてみたりといった軽躁状態の冒険心を持った方がいたからこそ、進歩してきたという面があるのも事実です。もっとも、軽躁状態のエピソードだけでは、双極性Ⅱ型障害とは診断されません。軽躁エピソードに加え、うつ病の症状がみられた場合に初めて、双極性Ⅱ型障害と診断されます。

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