双極性障害は気分が高揚した「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」とが繰り返される病気です。どちらでもないときはいつもどおりの日常を送ることができます。
双極性障害は、躁状態の度合いによって「双極I型障害」と「双極Ⅱ型障害」とに分けられます。特に激しい躁状態の見受けられない双極Ⅱ型障害は、うつ病との鑑別が重要といわれています。また、双極性障害は薬物療法と心理療法によって治療されます。
今回は双極性障害の概要について、国立国際医療研究センター病院 精神科診療科長の加藤温先生にご説明いただきました。
双極性障害とは、気分が高揚する「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」とが繰り返される精神疾患です。「躁うつ病」と呼ばれることもあります。
双極性障害の患者さんは躁状態でもうつ状態でもないときがあり、いつも症状が出ているわけではなく、いわゆる普通の状態があることが特徴です。
双極性障害は20歳前後の若年期に発症することが多いと分かっています。
双極性障害は、具体的な原因は分かっていません。しかし遺伝などの素因(その病気にかかりやすい素質)を持つ人が、なんらかの環境要因によるストレスを受けることによって発症するのではないかと考えられています。また、他の精神疾患と比較して、脳・ゲノムなど身体的な側面が強い病気と考えられています。
双極性障害は、アメリカ精神医学会が出版する「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」によって、2つに分類されます。DSMは1952年に初版が出版され、2018年5月現在は2013年に公開された第5版(以下、DSM-5)が最新です。
双極I型障害の躁状態は、社会生活に多大な支障をきたすほどの激しい躁状態を引き起こします。躁状態と耳にすると「機嫌がいい」「調子がいい」というようなポジティブな印象を受ける方もいますが、実際にはそうではないことも多いです。双極I型障害の躁状態は、たとえば以下のような突飛な行動を引き起こします。
<躁状態の主な事例>
このように躁状態では、その人の社会的な人格を疑うような、あるいは信頼を失うような突飛な行動をしてしまうことがあります。
双極Ⅱ型障害の特徴でもある軽躁状態は、躁状態ほどではなく、社会生活における著しい支障はない程度の躁状態のことを指します。本人としては、いつになく調子が良いと感じたり、仕事が捗っているように感じたりする状態のため、本人自身が異常と捉えることはあまりありません。ただ、本人をよく知る人からすると、いつもより多動気味でテンションが高くみえるため、周囲が先に気づくことが多いです。
双極性障害のうつ状態では、いわゆるうつ病にみられるような症状を認めます。たとえば以下のような症状が挙げられます。
<うつ状態の症状一例>
うつ状態の症状は、うつ病の症状とほとんど変わりません。しかし、双極性障害のうつ状態にうつ病の治療薬を投与しても十分な効果を得られず、逆に躁状態に転じることもあるため、適切な診断を行うことが大切です。
躁状態と軽躁状態の定義はDSM-5によって定められています。社会的に著しい支障をきたしているかどうか、入院を要するかどうかが区別のポイントになりますが、実際にはその差がわかりにくいことも少なくありません。両者の鑑別は専門医に任せてよいと思います。
ただ、普段と違って気分の高揚がみられる時期があるかどうかについては、確認しておきたいところです。これが双極性障害を診断する上で大変重要な情報になります。
躁状態だけではなく、軽躁状態にも留意すべき理由は、双極Ⅱ型障害の見逃しを防ぐことにあります。軽躁状態があることを見過ごされたために、双極Ⅱ型障害をうつ病として治療がなされ、症状コントロールがうまくいかないケースも少なくありません。先に述べたように、双極性障害のうつ状態はうつ病の症状によく似ています。双極I型障害のように顕著な躁状態がみられれば、医師もうつ病ではなく双極性障害であると気づけることが多いのですが、はっきりとした躁状態がない場合、うつ状態の症状だけをみてうつ病と診断してしまうことがありえます。そのため、診断は慎重に行い、診断後は処方した薬がどのように作用しているか、躁状態や軽躁状態の徴候がないかどうかなど経過を見守ることが大切です。
双極性障害には、血液検査や画像検査などの特定の検査方法はありません。症状の経過をみながら、患者さんご本人の生活や家族歴(ご家族に双極性障害にかかっている方がいないかどうか)を総合的にみて診断します。この病気には躁状態、うつ状態と相反する2つの状態が伴うため、長期的な症状経過から、診断します。
双極性障害の症状は、他の体の病気による症状や、薬の服用による副作用に似ていることがあります。そのため、診断する前に、何か別の身体の病気が隠れていないか、服用している薬による症状ではないか、これらの確認をします。確認のために、血液検査、CT*やMRI*などの画像検査を用いることもあります。たとえば、次のような病気や薬が双極性障害に似た症状を引き起こすことがあります。
<双極性障害に似た症状を引き起こす病気>
<双極性障害に似た症状を引き起こす薬>
CT……エックス線を使って身体の断面を撮影する検査
MRI……磁気を使い、体の断面を写す検査
双極性障害は、「薬物療法」と「心理療法」によって治療されます。ここでは、それぞれの治療方法についてご説明します。
双極性障害の薬物治療では、「気分安定薬」と呼ばれるような薬を使用します。この薬は躁状態とうつ状態の両方をコントロールし、抑えることで、より安定した日常生活を送れるようにする薬です。薬物療法は、躁状態とうつ状態を抑えるという意味では対症療法(症状を和らげる治療)と捉えることもできますが、脳内の神経伝達物質のバランスを整える役割があるため、長期で服用することによって病気そのものにも効果がある治療といえます。
双極性障害は、患者さんが病気の特徴を理解し、付き合っていくことが大切です。特に双極I型障害の場合、患者さんが躁状態になったときの危険性を患者さんご自身が理解しておく必要があります。そのため、患者さんが病気のことを理解し、症状が出現した時に適切な対応ができるよう、治療に積極的に取り組むための心理療法を行います。心理療法は、具体的には医師から病気について説明を受けるなどの疾患学習が主な内容です。
双極性障害の患者さんは、明らかな躁状態を除けば「自分はうつ病ではないだろうか」と懸念して精神科を訪れます。気分が塞ぎ、著しく意欲が低下したときは、是非病院を受診されることをおすすめします。早期に病気に気づくことで、日常生活を送りやすくなるケースもあります。
また、精神科と耳にすると、たくさんの薬を服用し、副作用に悩むイメージを抱き、受診を躊躇する方もいます。しかし、近年は診療や薬も進歩し、少ない種類の薬でコントロールできることも増えてきました。心配事も含め、なんでもご相談いただきたいと思っています。
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