パニック症(パニック障害)とは、突然理由もなく動悸や息苦しさ、めまいなどのパニック発作が生じ、これが繰り返される病気です。一生のうちでおよそ100人に1人がかかるといわれ、かつては“不安神経症”“心臓神経症”などと呼ばれていましたが、1980年に、突然不安が起こる“パニック症”として、ずっと不安が続く“全般不安症(全般不安障害)”と区別した病名で呼ばれるようになりました。
本記事では、パニック症の主な症状や治療方法などについて詳しく解説します。
パニック症とは、突然動悸や息苦しさ、めまいなどの予期しないパニック発作(後述)が生じる病気です。このような発作が2回以上起こり、「また発作が起きたらどうしよう」と過度な不安を抱いたり、発作が起きないように努力したり、日常生活に支障が出るようになると、パニック症と診断されます。好発年齢は20~30歳代で、男女比は女性が男性の2倍多いといわれています
主な症状として、パニック発作、予期不安と、関連の強い症状として広場恐怖症の3つが挙げられます。
パニック発作とは、特にきっかけがないのに突然生じ、数分でもっともひどくなるが、少し経つと治まる不安の発作のことをいいます。また、動悸などの一部のパニック発作の症状はカフェインの摂取や治療薬の服用、甲状腺機能亢進症などの病気によって生じることがありますが、パニック症の場合これらの要因とは関与しておらず、検査をしても何の異常も見受けられないことが特徴です。
具体的には以下の13の症状のうち、4つ以上の症状が認められる場合を指します。
予期不安とは、パニック発作が繰り返されることによって「また発作が生じるのではないか」という不安が常に付きまとうようになることをいいます。
広場恐怖症とは、以前にパニック発作が生じた場所や発作が生じてもすぐに助けを求められない場所や状況を過度に恐れることをいいます。この症状が悪化すると、恐怖心から電車や飛行機などの交通機関を利用できなくなったり、特定の場所へ出かけられなくなったり、外出そのものを控えるようになったりする人もいます。
パニック症の原因はいまだ分かっていません。これまでの研究から、中枢化学受容器*や扁桃体などが過敏になっていて、少しの環境の変化でも“生命の危機的な状況”と勘違いしてしまうことによって、目の前に恐怖を感じるものが何もないのに、恐怖を感じているような体の反応が発作的に生じるのではないかと考えられます。
*中枢化学受容器……二酸化炭素を感知する脳の器官
パニック症は、体の症状に敏感な人がなりやすいともいえるでしょう。また、継続的にストレスにさらされている人もなりやすいです。神経質、情緒不安定、心配性な性格との関連も知られています。
パニック症の治療法としては、薬物療法と認知行動療法が挙げられます。
パニック症の薬物療法は、主に抗うつ薬が処方されます。抗うつ薬は効果が現れるまでに2~4週間ほどかかるため、必要に応じてすぐに効果が現れる抗不安薬が屯用で使用されることもあります。
副作用としては、抗うつ薬では初期に吐き気などの症状が見られることがあり、眠気、めまい、肝機能異常がみられることもあります。抗不安薬では眠気やだるさなどの症状が見られることがあります。
認知行動療法とは、患者の考え方(認知)や行動のパターンに働きかけることによって、強い不安感を和らげ、症状を改善する精神療法です。
パニック症の場合には、不安感を点数化してモニタリングし、不安な時に浮かぶ最悪の考えやイメージを言葉にしてみて、自分のしている対処行動がかえって不安を強くするような悪循環に陥っていないかを検討します。また、広場恐怖症を克服するためには、一段一段階段を登るように、毎週徐々に不安を感じる場所や状況に向かって行動範囲を広げる練習(段階的曝露療法)などが行われることもあります。
なお、認知行動療法は一度対処法を身に着ければ、ストレスがかかっても自分で乗り越えることができるようになるために、薬物療法より再発が少ないことが証明されています。
パニック症は治療によって改善が期待できますが、治療を受けずに我慢してしまっている人が多いことが知られている病気です。うつ病などを併発することも多くあるので、日常生活で不自由があるようならば、病院の受診を検討しましょう。
また、病院の受診をためらう場合には、まず厚生労働省などが設置する相談窓口や、各地域にある相談窓口を利用して相談してみるのもよいでしょう。詳しくは厚生労働省のサイトに掲載されている「地域にある相談先」を参照するとよいでしょう。
千葉大学 医学部附属病院認知行動療法センター センター長(教授)
清水 栄司 先生の所属医療機関
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