パニック障害(パニック症)とは、激しい恐怖や不安感とともに動悸、息苦しさ、吐き気などの自律神経系の身体症状からなるパニック発作が状況と無関係に突然起こる病気です。これが繰り返し生じることによって「また発作が生じるのではないか」という予期不安を抱くようになり、外出などの行動が困難になったりすることがあります。
パニック障害の治療としては、薬物療法と認知行動療法などの精神療法を併用することで症状の緩和が期待できます。なかでも本記事では、パニック障害の薬物療法について詳しく解説します。
パニック障害の薬物療法では、パニック発作の頻度を少なくし発作の程度を和らげることと、「また発作が起きるのではないか」という予期不安の軽減を目的として行われます。実際の薬は、主に抗うつ薬と抗不安薬の2種類が使用されます。
抗うつ薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる薬が第一選択薬となります。SSRIは予期不安の改善作用に優れると同時にパニック発作を抑制でき、長く服用を続けていても薬の効果が弱まりにくく効果が持続するという特徴があります。
一方、SSRIなどの抗うつ薬では服用から効果が現れるまでに2〜4週間かかるといわれているため、治療開始時は即効性のある抗不安薬と併せて服用し、SSRIの効果が現れた段階で抗不安薬の服用を中止し、SSRIのみを服用し続けることが一般的です。
SSRIの副作用として、飲み始めの1〜2週間は眠気や吐き気、食欲低下、下痢、軟便などの症状が現れることがあります。また、服用開始時は一時的に不安が強まることもありますが、薬の量を調節することによって徐々に安定していくことが一般的です。
パニック障害で用いられる抗不安薬は、ベンゾジアゼピン誘導体(BZD)が一般的です。
BZDは即効性が高く鎮静作用も強いため、服用すると速やかに不安や不眠などの症状を和らげることが期待できます。このため、抗不安薬はSSRIの効果が得られるまでの治療初期の期間や、外出時にひどいパニック発作が出現した際などにこれを抑えるための頓服薬として併用されます。
ただし、長く服用していると依存症状が現れたり、耐性が生じて薬の効き目が弱くなったりすることがあるため、上述のように治療初期やパニック発作が生じそうなときなど、タイミングを絞って限定的に服用することが大切です。
BZDを服用すると日中に眠気や倦怠感を感じてぼんやりしたり、筋弛緩作用(筋肉の緊張が緩むこと)によりふらついたりすることがあります。生活に支障が生じる場合には担当医と相談し、薬の量を調節しましょう。
パニック障害の患者には、うつ病や双極性障害、そしてアルコール依存症などそのほかの精神疾患を合併している人も少なくありません。このような場合には、パニック障害の治療に加えて合併しているほかの精神疾患の治療も行われるため、薬が異なることもあります。
パニック障害の薬を服用する際は以下のような点に注意しましょう。
パニック障害では、1年以上薬物療法を続けることにより再発しにくくなると考えられています。そのため、症状が和らいでも途中で薬の服用を自己判断で中止せず、担当医と相談しながら薬の服用を継続しましょう。
また、SSRIは突然服用を中止すると頭痛、めまいなどのつらい断薬症状が現れることが多いため、服用を中止する際は担当医の診察を受けつつ徐々に服用する量を減らしていく必要があります。
パニック障害で使用される治療薬の効果の現れ方は人によって異なります。
担当医はその患者に合った治療薬の種類や量、回数を見極めるために、薬の変更や増減を行います。治療薬の効果を正確に知るためにも、処方された治療薬は量や回数、飲むタイミングなどを守って服用するようにしましょう。
また、治療薬の効果や副作用などについて気になること、不安なことがある場合には1人で悩まないで遠慮せず担当医に相談するようにしましょう。
パニック発作をはじめとした不安状態を起こしやすくなる要因としては、疲労、睡眠不足、空腹(低血糖)、怒りなどが挙げられます。そのため、日頃から十分な休息と規則的な食生活を心がけましょう。リラクゼーション(瞑想、マインドフルネスなど)、有酸素運動(散歩、サイクリング、ダンスなど)も不安やストレスの軽減に有効です。
また、たばこやアルコールはパニック障害をはじめとする不安障害に悪影響を及ぼすと考えられているため控えましょう。特に抗不安薬であるBZDを服用している間は、アルコールを飲むことで副作用が増強することがあるため飲酒を控えることが大切です。
なお、カフェインを避けることも大切です。コーヒー、紅茶、コーラ、市販の風邪薬などに含まれるカフェインも不安を増強させる可能性があるため、取りすぎないことを心がけましょう。
パニック障害にかかると薬に頼らず気力で治そうとする人もいます。しかし、パニック障害は薬物療法が効果を示しやすい病気であるため、担当医の指示に従い薬の服用を継続するようにしましょう。
まずは薬物療法でパニック発作を十分にコントロールした後、認知行動療法などの精神療法に取り組むことにより、発作に対する認知の修正や対処行動を学び、その頻度や程度を最小限に抑えることが期待できます。治療や生活について不安なことがある場合には、担当医に相談することを心がけましょう。
港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長
港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長
日本心療内科学会 心療内科専門医
東北大学医学部卒。東京都立駒込病院心身医療科、横浜労災病院心療内科部長を経て、2018年4月より港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長に就任。心身医学全般のほか、産業精神保健や海外赴任者のメンタルヘルスなど幅広い領域の精神医学分野に長ける心身医療のスペシャリスト。『摂食障害―神経性食欲不振症と神経性過食症―』(HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY 第4巻 p159-168:メディカルレビュー社)をはじめとした摂食障害の文献をはじめ、数多くの著書を発表している。また、帝京大学や明治大学、東京大学で非常勤講師を務めるなど、心身医学を目指す若手の育成にも力を入れている。
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