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インタビュー

神経性過食症(BN)の治療は? 家族の理解と協力が何よりも大切

神経性過食症(BN)の治療は? 家族の理解と協力が何よりも大切
津久井 要 先生

港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長

津久井 要 先生

「食事」は、誰もが毎日当たり前に行う行為です。
人間の三大欲求にも含まれている「食事」は、私たちが生きていくうえで欠かすことのできない本能的行動です。しかしその食事、すなわち「食べること」がうまくできなくなってしまうのが、摂食障害神経性食欲不振症(AN)・神経性過食症(BN)という病気です。このうち、神経性過食症はどのように治療するのでしょうか。また、治る病気なのでしょうか。横浜労災病院心療内科部長であった津久井要先生(現港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長)にお話をお聞きしました。

そもそも摂食障害は「完治」することが難しい病気とされています。10代で神経性食欲不振症を発症し、嘔吐などの浄化行為に至ることなく順調に治療が進んだ患者さんは治療後の経過も良好な傾向にありますが、神経性過食症の場合は、食べ物に対する依存や、自己嘔吐に伴う脳内神経伝達物質の関与も指摘されており、途中でやめることがなかなか困難になってきます。

神経性過食症の患者さんには極端に自信がない・自己嫌悪が強い・自分が誰よりも劣っていると感じるなど極端な思考に偏った「低い自己評価」「認知の歪み」などがあり、それが症状を維持・強化しているという考えもあります。
簡単に言うと、過食や過食嘔吐は習癖になりやすく、そのプロセスに依存するリスクが高くなります。ですから、「完治」よりは「寛解(症状が落ち着き、通常通り生活に支障なく暮らせる状態)」を目指すことが治療の目標となります。

治療に当たっては、対人関係を中心とする生活環境の問題を扱い、同時に認知行動療法的アプローチもとられます。過食・嘔吐の背後にある不適切な食事習慣や対人関係上の問題など、患者さんの認知の歪みが関与している根源に対してひとつひとつ具体的に焦点が当てられていければ、治療も良い結果となるでしょう。

家族への治療者からの援助も大切です。神経性食欲不振症と同じく、両親に対する治療者からの心理的な支えは、長期的な観点からも重要なポイントです。また神経性過食症では自助グループなど集団療法の活用も有効とされます。
こうした認知行動療法を遂行していくためには、患者さんの治療モチベーションがあることが大切ですが、神経性過食症の患者さんは神経性食欲不振症の患者さんに比べて病識がはっきりしており、「何とかして過食をやめたい」と思っている方が多いため、その点に関してはスムーズに進みます。

薬物はあくまで治療の補助的存在ですが、むちゃ食いや過食の衝動などの軽減目的で、神経性食欲不振症(AN)と同じく選択的セロトニン取り込み阻害剤(SSRI)が使用されます。しかしSSRIなどの薬物治療だけで寛解に至ったという報告はありません。また、抗てんかん薬を使う場合もあり、その有効性をめぐる報告もありますが、摂食障害に対して特異的に有効な薬物療法は存在しないのが現状です。

これは神経性食欲不振症にも言えることですが、特に神経性過食症の場合、身体的な危機がない限りは入院治療をすることはあまりありません。ただし、過食に伴って電解質バランスが大きく崩れていたり、一日のほとんどを食べ吐きに費やしてしまったりする場合は入院治療が必要となります。その場合は、環境調整の意味合いを含んでいることがほとんどです。入院治療の内容としては、食事指導や生活習慣管理、規則正しい食習慣の構築などが目的となります。

また、神経性過食症による不安・パニック・抑うつ症状が激しく、希死年慮(死にたいという願望)などを認めるケースでは、入院治療が適用される場合もあります。しかし、その場合は保護的環境がしっかりと確保できる病棟に入院することが大切となります。その際は、患者さんの心理的負担やショックを考慮して、医師は慎重に治療に臨む必要があります。  
また、患者さんの家庭環境に問題がある場合は、家庭から距離をとるために一時的に入院させ、家族と患者さん双方の休養と問題調整を図ることで心を落ち着けるケースもあります。このようなケースは、家庭環境(根源)を改善しないと退院後にまた過食や過食嘔吐(症状)を繰り返してしまうからです。

神経性過食症の治療後の経過は神経性食欲不振症よりも難しく、残念ながら治りにくいのが現状です。前述のとおり、過食・過食嘔吐は依存行為の側面ももつため、それを無理にやめさせてしまうと今度は別のプロセス(行為)に移行してしまうケースがあるからです。例えばリストカット(手首を自ら剃刀などで切ること)などは、過食・過食嘔吐によるリセット作用(気持ちがすっきりして嫌なことやストレスを忘れられる感覚)にプロセスがよく似ているため、過食を無理に制限した神経性過食症の患者さんが移行しやすい行為の一つといわれています。

過食やリストカットは、悲惨な情況から自分を守るための回避手段という側面もあります。ですから、治療と銘打って無理に「過食してはいけません」「吐いてはいけません」と制限させるよりは、見守る姿勢を保つことが大切なのです。過食行為そのものに目を向けるのではなく、どうして過食という行為をせざるを得ないのかを分析・理解し、その根源を正していくことの方が治療としては重要です。

死亡率は一般的に低いと報告されています。それでも肺に食べ物が逆流したり、電解質バランスが崩れて心臓に負担がかかり、突然心不全を起こしてしまうケースもあります。嘔吐による脱水に伴う急性腎不全を繰り返して慢性腎不全となり透析が必要になることもあります。また、神経性過食症の患者さんはその反動からくるオーバードーズ(薬を過剰に飲み過ぎること)やリストカットなどが原因となって入院することも多々あり、神経性食欲不振症よりも複雑な病気といえます。ですから、神経性過食症を治すことは神経性食欲不振症よりも難しいと考えられているのです。
神経性食欲不振症に比べると社会的な理解や認知度が少ない神経性過食症ですが、難病情報センターに登録されている「難病」であり、「怠け病」「意志が弱い」というだけのものではないことを理解してもらうことが大切です。

最後に私は、摂食障害の患者さんへ以下の4点をメッセージとしてお伝えしたいです。

  1. あまり体を頭でコントロールしようとしないこと。
  2. 体の自然な声を聴いてあげること。
  3. ひとりで問題を抱えないこと。周囲の人に相談して、それでもどうしようもない場合は、怖がらないで医療機関を受診してほしいこと。
  4. 摂食障害は誰でもなりえる可能性がある病気であり、決してあなただけが異常なわけではないこと。

摂食障害という病気は、その原因がすべて心理的なものではなく、社会的な背景も絡み合ってくることが多いものです。例えば、日本などの先進国ではダイエット特集が常にテレビ番組で放映されたり、雑誌で特集記事が組まれたりしています。このような情報過多の中で暮らす女性であれば、誰でもやせ願望というものは持っているでしょう。ただし、過剰反応は禁物です。摂食障害の患者さんを少しでも減らしていくためには、本人への理解をすすめるとともに、社会的な価値観をも私たちが見直していく必要があるのではないでしょうか。

とはいえ、それをすぐに是正するのは難しいものです。ですから、私たち心療内科医や精神科医がいます。繰り返しますが、今食べることに悩み著しい苦痛を感じており、勉強・仕事・日常生活などに大きな支障をきたしており、自分ひとりの力ではどうにもなくなった場合は、医療機関に相談に来てください。きっと解決策が見つかるはずです。

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