インタビュー

摂食障害とは。摂食中枢が異常をきたし「食べられなくなる」「食べ過ぎてしまう」病気

摂食障害とは。摂食中枢が異常をきたし「食べられなくなる」「食べ過ぎてしまう」病気
津久井 要 先生

港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長

津久井 要 先生

この記事の最終更新は2015年07月31日です。

「食事」は、誰もが毎日当たり前に行う行為です。
人間の三大欲求にも含まれている「食事」は、私たちが生きていくうえで欠かすことのできない本能的行動です。しかしその食事、すなわち「食べること」がうまくできなくなってしまうのが、摂食障害(神経性食欲不振症・神経性過食症)という病気です。いったい摂食障害とはどのような病気なのでしょうか。また、神経性食欲不振症と神経性過食症の違いはどこにあるのでしょうか。横浜労災病院心療内科部長であった津久井要先生(現港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長)にお話をお聞きしました。

摂食障害は大きく分けて、

  1. 神経性食欲不振症(略称AN。一般的には「拒食症」と呼ばれる)
  2. 神経性過食症(略称BN。一般的には「過食症」と呼ばれる)

の2つに分類されます。
2.の神経性過食症に類似した病態として、診断基準(DSM-4)が近年改定されたことにより、過食はあっても過度の食事制限や嘔吐・過剰な運動といった代償行為を認めない方が「むちゃ食い障害」(過食性障害)として新たに分類されることになりました。しかし、そのような方々は心療内科より糖尿病外来や肥満外来に行くことも多く、横浜労災病院の心療内科では2分類が妥当だと考えています。

神経性食欲不振症には「食べない」ことを徹底する「制限型」、あるいはむちゃ食いをともなってもそれに対する排出行為(自己誘発性嘔吐・下剤・器具を使った嘔吐など)によって低体重を維持している「むちゃ食い/排出型」があります。
神経性過食症はむちゃ食いを繰り返しながらも体重増加を防ぐために神経性食欲不振症と同じような代償行為をともなっていますが、神経性食欲不振症と違ってやせに至らないことが特徴です(標準体重*の70%以上が目安)。

ただし、両者は表裏一体のような関係であり、昨日まで神経性食欲不振症だった人が突然神経性過食症に転換することも珍しくありません。
なお、チューイング(口の中に入れて咀嚼したものを飲み込まずに吐き出してしまうこと)はあくまで症候のひとつであり、チューイングの症状が出ているからといって摂食障害と分類されることはありませんが、肥満恐怖を抱えている方も多いため、神経性食欲不振症に近い人が多いと考えられています。

*標準体重の計算方法(難病情報センターより引用)

  • 身長160cm以上:(身長(cm)ー100)×0.9kg
  • 身長150〜160cm:(身長(cm)ー150)×0.4+50kg
  • 身長150cm以下:(身長(cm)ー100)kg

摂食障害の原因は、社会的要因・文化的要因・心理的要因・家族、家庭環境・生物学的要因など、様々な要因が複雑に関与しています。
かつては「成熟拒否」(女性らしい体型になることを拒否し、こども体型のままでいようとする心理。月経が来るのが汚らわしいと考える)が原因であると考えられてきましたが、現在ではその考え方は下火になってきています。

摂食障害になりやすい方は家族関係のコミュニケーションに問題を抱えていたり、状況変化や受けたストレスを適切に処理できなかったりという特徴があります。

なおかつ「まじめで頭が良く、努力家」などの、摂食障害に陥りやすい典型的な性格パターンが当てはまると、努力と正比例して結果が得られる体重の減少に達成感と安心感を抱き始め、自分の体型や体重に固執するようになります。そしていつのまにかダイエットにのめりこみ、数字を思いのままにコントロールできる達成感や優越感を得ていきます。ストレス解消の誤った手段を実行しているとも理解されています。

また、家庭内の問題を抱えている患者さんの場合、自分では解決できない状況を言葉で表現できず、痩せることで無意識に周囲へ助けを求めているとも解釈できます。

神経性食欲不振症の患者さんにとって、食べないことがある種の昂揚感になることも少なくありません。長い間栄養を摂らずにいると、ケトン体という物質や脳内快楽物質が分泌され、いわゆる「ハイ」の状態になります。ですから、神経性食欲不振症の患者さんは、痩せているにもかかわらず元気なことが多いです。これは脳が体をコントロールしようとしすぎており、体は悲鳴を上げているにもかかわらず心が「もっと痩せたい」といっているため、身体的な不調を感じられなくなっているからだと考えられます。

先進国における神経性食欲不振症の患者さんは、思春期~青年期女性の間でおおよそ1%と報告されています。
1998年に全国の医療施設(23,401施設)を対象に実施した疫学調査によると、患者推定数(罹患率)は神経性食欲不振症が12,500人(人口10万対10.0)でした。現在はさらに増加していると考えられます。

神経性過食症は大きく分けて、神経性過食症から突然始まる患者さんと、神経性食欲不振症から移行してきた患者さんの2パターンがあります。
前者の場合はストレス対処手段の一つであると同時にプロセス依存(行為への依存)の要素が多かれ少なかれ関連しています。後者の場合は「回復期の過食」(神経性食欲不振症の治療がうまくいき、徐々に食べられるようになってきている状態だが、絶対的に栄養素が不足しているため本能的に食べ過ぎてしまう状態)と区別することが難しく、慎重な診断が必要となります。

また、ある種の鬱で神経性過食症を合併する患者さんもいます。例えば、非定型うつ病の方(対人過敏性・過眠・著しい倦怠感・過食などを症状とする)や、発達障害を持っている方が神経性過食症を併発することも珍しくありません。

神経性過食症を発症するきっかけは神経性食欲不振症と基本的に同じですが、多くはストレスが関与していると言えるでしょう。こちらの場合は罹病患者の平均年齢がやや高いため、男女関係、職場の対人関係や物質依存などとも関わってくると考えられます。

先進国における神経性過食症の患者さんは、思春期~青年期女性の間でおおよそ4%と報告されており、神経性食欲不振症よりも多い数字となっています。ただし、医療機関に来る神経性過食症患者さんは少ないです。
また、1998年に全国の医療施設(23,401施設)を対象に実施した疫学調査によると、患者推定数(罹患率)は神経性過食症が6,500(人口10万対5.2)でした。こちらも、現在はさらに増加していると言えるでしょう。

神経性過食症の有病率に関しては、欧米の報告によると女性1.5~2%、男性0.5%であり、10代女性の有病率は0.3%と少なく、20代から増加します。これは、神経性食欲不振症を10代で経験した患者さんが、20代になっても完治せず、20代以降に神経性過食症として病気を再発させてしまうからだと思われます。

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