概要
発達障害とは、生まれつきの脳の障害のために言葉の発達が遅い、対人関係をうまく築くことができない、特定分野の勉学が極端に苦手、落ち着きがない、集団生活が苦手、といった症状が現れる精神障害の総称です。
症状の現れ方は発達障害のタイプによって大きく異なり、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害、などさまざまな障害が含まれます。幼少期または学童期から症状が現れますが“変わり者”“怠け者”という誤った認識がなされ、見過ごされているケースも多いと考えられています。社会人になってから、不注意やミスが多いといった症状が目立つようになり初めて診断が下されるケースも少なくありません。
発達障害による症状は薬物療法などである程度抑えることができるものもありますが、根本的な治療法はない症状が多いのが現状です。発達障害を抱える当事者はさまざまな場面で「生きにくさ」を感じているとされており、将来的に症状とうまく付き合いながら日常生活を送っていくには早期の段階で生活訓練などの療育を始めることがすすめられています。
原因
発達障害の原因は、生まれつきの脳の機能障害と考えられていますが、明確な発症メカニズムは解明されていません。
また、脳の障害以外にも、遺伝や胎児期の感染症、農薬への暴露などが発症に関与しているとの説もあります。
症状
発達障害の症状は障害のタイプによって大きく異なります。
発達障害の中でも発症率が高いとされる自閉症スペクトラム障害は、幼児期から他者とのコミュニケーションが極端に苦手、こだわりが強い、融通が利かない、といった症状が見られます。
一方、注意欠陥・多動性障害は7歳頃までに、注意力が極端に散漫であり、衝動性の高い行動が見られるようになります。集団生活の場では、授業中に椅子に座っていることができずに歩き回るといった行動が見られ、学業や集団行動に支障をきたすようになることも少なくありません。
学習障害は、知的水準自体は低くないものの、読む・書く・計算などの特定の分野の学習能力が極端に低いのが特徴です。
いずれのタイプの発達障害も幼少期や学童期に症状が現れ始めます。特に、幼稚園や小学校などの集団生活を開始すると症状がより顕著になります。小学校低学年の頃から学業成績の低下や周囲との軋轢などによって意欲や自信が低下するケースも少なくありません。
一方で、障害のタイプや重症度によっては成長するとともに症状が目立ちにくくなることもあります。しかし、単純なミスや不注意を起こしやすいことなどで社会人になってから生きにくさを強く実感し、二次的に不安症状やうつ症状などの精神的な変調を併発することもあります。
検査・診断
発達障害が疑われる場合は、次のような検査が行われます。
心理検査・発達検査・知能検査
発達障害は、がんなどの病気のように画像検査や血液検査で発見することはできません。一方で、精神的な発達の遅れ、知的機能の偏りなどが現れるため、心理士などによる心理検査・発達検査・知能検査の結果が診断の重要な手がかりとなります。
これらの検査は、基本的には心理士や医師と対面して与えられた問題を答えていくことによって行われますが、文字を書けなかったり読めなかったりする幼児でも受けることができるよう工夫がなされています。
画像検査
発達障害と似た症状が、脳腫瘍など脳の病気によって引き起こされることもあります。そのため、発達障害が疑われるものの脳腫瘍などの可能性も否定することが難しい場合には、頭部CTやMRIなどによる画像検査を行うのが一般的です。
脳波検査
発達障害はてんかんを併発しやすい病気です。そのため、てんかんを併発しているか調べるために脳の電気的な活動を記録する脳波検査が行われることがあります。
血液検査
発達障害で現れる症状の中には、甲状腺機能低下症など何らかのホルモン分泌異常が原因で引き起こされることもあります。それらの病気との鑑別を行うために血液検査で各ホルモン値などを調べる検査をすることがあります。
治療
発達障害は、現在の医学では根本的な完治が見込める障害ではありません。
しかし、それぞれの症状を改善するための薬物療法を行うことがあります。具体的には、脳のはたらきを活性化させることでADHD症状を治療する精神刺激薬などが用いられます。また、併発した不眠症に対する睡眠薬、うつ症状に対する抗うつ薬なども用いられることがあります。
一方で、発達障害は症状とうまく付き合いながら、できるだけ円滑な社会生活を送るスキルを習得することが大切です。そのためには、幼少期から自身の症状をカバーするような日常生活の習慣を身に付ける「療育」を行うことがすすめられています。
予防
発達障害は、生まれつきの脳の障害によって引き起こされるため発症を予防するのは困難であるとされています。
しかし、発達障害と診断された場合は上述したとおり、できるだけ早めに療育を行って「生きにくさ」を改善していくことが大切です。気になる症状がある場合は、軽く考えずに医療機関や行政機関などに相談しましょう。また、これまで発達障害と診断されたことがない成人でも、ミスや不注意が多かったり、対人関係でトラブルを起こしやすかったりする人などは医療機関を受診するとよいでしょう。
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