概要
甲状腺機能低下症とは、慢性的な甲状腺の炎症などにより甲状腺ホルモンが出なくなり、活動性が大きく低下するとともにむくみや全身のだるさなどが現れ、活気がなくなる病気です。男性よりも女性に多くみられます。
甲状腺ホルモンのはたらき
甲状腺ホルモンは、全身の細胞の活動性を高めるホルモンで、やる気ホルモンと呼ばれることもあります。
正常では全身の細胞に直接作用して新陳代謝を促進させます。心臓に対しては、心拍数を速くしたり、心臓から送り出す血液の量を増やしたりします。そのほか、交感神経系を活性化し、体温を上昇させて汗をかきやすくします。
甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン量が低下するため、正常とは真逆の状態になります。
甲状腺機能低下症の代表的な病気
甲状腺機能低下症の代表的な病気に橋本病があります。
また、一時的な甲状腺の炎症や、下垂体から分泌されて甲状腺ホルモンの分泌を促進する甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低下した状態(下垂体性甲状腺機能低下症)によっても甲状腺ホルモンの量が少なくなり、甲状腺機能低下症の状態になります。
原因
まだ詳しい原因の全てはわかっていません。しかし、以下のとおりわかっている部分もあります。
橋本病
橋本病の正体は甲状腺の慢性的な炎症であり、本来ならば身体を守るべき抗体が甲状腺を誤って攻撃してしまう自己免疫が原因と考えられています。
甲状腺ホルモンをつくる細胞がもつサイログロブリン、または甲状腺ペルオキシダーゼという物質に対して、誤ってつくられた自己抗体ができてしまい、自分の免疫系によって甲状腺が壊される病気です。
この病気は家族内発症することがあり、遺伝が関係あるのではないかと考えられています。
亜急性甲状腺炎
急激な発症ではないものの甲状腺に比較的緩徐に炎症が起きる亜急性甲状腺炎は、甲状腺自体が細菌やウイルスに感染することにより生じます。炎症がある程度続くと、甲状腺が壊れきってしまうため一時的に甲状腺ホルモンの量が低下してしまい、甲状腺機能低下症の状態になります。
下垂体性甲状腺機能低下症
下垂体性甲状腺機能低下症は、下垂体に腫瘍などの異常が生じることでTSHという甲状腺ホルモンの分泌を促進させるホルモンが低下するために、甲状腺自体は正常であっても血液中の甲状腺ホルモンの量が低下する病気です。
そのほかにも、バセドウ病の手術後や放射性ヨードによる治療後にも甲状腺機能低下症になることがあります。また、クレチン病という、子どもにみられる先天性の甲状腺機能低下症もあります。
症状
甲状腺機能低下症は初期症状がほとんどありませんが、以下のような症状がみられる場合、甲状腺機能低下症の可能性を考えます。
- 目の上(まぶた)や顔が腫れてしまう
- 嗄声(させい)(声がかすれる)がある
- 声が低くなる
- 皮膚ががさがさする
また、全身の新陳代謝を活性化させる甲状腺ホルモンですが、少なくなると以下のような症状が起こります。
- 圧迫してもへこまない足やまぶたのむくみ(粘液水腫)
- なにごとにもやる気をなくしてしまう抑うつ症状
- 忘れっぽくなったり新しいものを覚えづらくなったりする(認知機能の低下)
- 皮膚の乾燥
- 食欲が減るのに体重が増える
- 脈がゆっくりになる(徐脈)
- 月経異常
- 少しの運動で息苦しく感じたり、疲れやすくなったりする(易疲労感)
解説動画
甲状腺のはたらき
甲状腺機能低下症の解説
検査・診断
検査には、血液検査、甲状腺の診察と超音波検査、そしてCT検査やPET検査などの画像検査があります。
血液検査では、甲状腺ホルモン(FT3、FT4)の値が低下していること、そして低下した甲状腺ホルモンの分泌を増やそうとして下垂体から分泌されるTSHというホルモンが上昇していることを確認します。また、甲状腺を攻撃する自己抗体の有無を確認します。
甲状腺の診察では大きさ、硬さ、ごつごつしているかどうか、触ると痛むかどうかなどを重点的に確認します。超音波検査では腫瘍がないかどうか、甲状腺のなかに炎症があることを確認します。
治療
甲状腺ホルモンを内服することによってホルモンを補充します。また、下垂体腫瘍によるものでは、原因疾患となる下垂体腫瘍に対する治療として手術を行うこともあります。
甲状腺機能低下症を放置すると、高コレステロール血症や動脈硬化が生じやすくなり、心筋梗塞につながるおそれがあるので注意が必要です。
さらに、妊婦さんが甲状腺機能低下症の場合、生まれてくる赤ちゃんに精神発達遅滞が生じやすくなることが報告されています。したがって、甲状腺機能低下症は積極的に治療することが重要です。
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