概要
慢性甲状腺炎とは、甲状腺に慢性的な炎症が引き起こされることによって徐々に甲状腺が破壊され、甲状腺ホルモンの分泌が低下していく病気のことです。
免疫機能の異常によって引き起こされると考えられており、自身の甲状腺を攻撃する“自己抗体”と呼ばれるタンパク質が生成されることで発症します。しかし、どのようなメカニズムでこのような免疫の異常が生じるのか、はっきりとは解明されていないのが現状です。
甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を活発にするはたらきがあるため、慢性甲状腺炎を発症して、甲状腺ホルモンの分泌が低下し不足すると、体重増加やむくみ、脱毛、皮膚の乾燥、抑うつ気分、眠気などさまざまな身体的・精神的症状を引き起こします。
また、この病気は比較的発症頻度が高い病気であり、特に30~40歳代女性に多く発症します。成人女性の10人に1人の割合とされており、治療は不足した甲状腺ホルモンを補う薬物療法が行われますが、発症者全てに必要となるわけではありません。補充が必要なほど甲状腺ホルモンが不足するのは発症者の4~5人に1人であるのも特徴の1つであり、発症に気付かないまま過ごしているケースも多いとされています。
原因
慢性甲状腺炎の原因は、免疫機能の異常と考えられています。本来、免疫は体内に入り込んだ細菌やウイルスを攻撃するはたらきを担いますが、慢性甲状腺炎では免疫の異常によって甲状腺の組織を攻撃するようになります。その結果、甲状腺に慢性的な炎症が生じ、徐々に組織が破壊されていくことで甲状腺ホルモンの分泌量が低下していくのです。
一方で、自身の甲状腺を攻撃するような免疫機能の異常が生じる明確な発症メカニズムについては解明されていません。遺伝が関わっているという説もあり、また、ストレス、妊娠・出産、ヨードの過剰摂取などをきっかけとして発症する場合もあります。
症状
慢性甲状腺炎を発症すると、甲状腺に慢性的な炎症が生じることによって甲状腺が腫大し、前頚部の腫れが生じるようになります。そのため、首や喉の圧迫感や違和感がみられる場合もあります。
また、甲状腺ホルモンの不足が進行すると全身の新陳代謝が低下することによって、むくみ、寒がり、体重増加、皮膚の乾燥、脱毛、便秘、声のかすれ、生理不順などの身体症状、抑うつ気分、無気力、倦怠感、疲労感、もの忘れといった精神的な症状が現れます。
検査・診断
慢性甲状腺炎が疑われるときは、次のような検査が行われます。
血液検査
診断のためには“甲状腺ホルモン”や甲状腺を刺激してホルモン分泌を促す“甲状腺刺激ホルモン”の量を調べるために血液検査を行う必要があります。
また、慢性甲状腺炎では、抗マイクロゾーム抗体や抗サイログロブリン抗体と呼ばれる甲状腺を攻撃するタンパク質が産生されるケースが多いため、血液検査では血中にこれらの抗体がないか調べるのが一般的です。
そのほか、慢性甲状腺炎は高コレステロール血症や肝機能異常を伴うこともあるため、これらの検査項目を調べることもあります。
画像検査
甲状腺の腫れの程度を調べたり、甲状腺の中にがんなどの病気がないか調べたりするため、超音波やCTなどを用いた画像検査を行うことがあります。
治療
慢性甲状腺炎は、発症したとしても全ての患者に治療が必要になるわけではありません。治療が必要になるのは甲状腺ホルモンの不足による症状が現れた場合のみであり、発症者の4~5人に1人とされています。
治療は不足した甲状腺ホルモンを補うための薬物療法が行われますが、基本的には継続的な治療が必要です。
予防
慢性甲状腺炎の根本的な原因ははっきり解明されていないため、発症を予防する方法も現時点では確立していません。
しかし、慢性甲状腺炎はストレス、妊娠・出産などをきっかけに、甲状腺の腫れや甲状腺ホルモンの異常の症状が強くなって発見されるケースが多いことから、日常生活の中でもできるだけストレスをためないよう注意することが大切です。また、妊娠中や産後に甲状腺ホルモンの異常が疑われる症状が現れたときは、できるだけ早めに病院を受診するようにしましょう。
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