むつうせいこうじょうせんえん

無痛性甲状腺炎

監修:

概要

無痛性甲状腺炎は、何らかの原因により、甲状腺に痛みを感じない炎症が起こる病気です。この炎症により甲状腺の組織が破壊され、蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出すことで、一時的に甲状腺ホルモンが過剰な状態(甲状腺毒症)になると考えられています。その後、ホルモン値の正常化、一時的な甲状腺機能低下症を経て、多くは数か月で自然に正常な機能に戻るといわれています。

なお、甲状腺毒症は、無痛性甲状腺炎のように甲状腺が破壊されることで生じるほか、バセドウ病などのように甲状腺の機能が亢進する病気によっても生じます。無痛性甲状腺炎では甲状腺の機能が亢進しているわけではないため、バセドウ病などとは異なる対応が必要になります。

検査としては、血液検査や画像検査が行われます。甲状腺や血液中の成分の状態などを調べ、似た症状があらわれるほかの甲状腺の病気との鑑別も行われます。

通常は自然に回復に向かうため、特別な治療は行われないことが一般的です。症状によっては、薬物療法などが検討されることがあります。

原因

無痛性甲状腺炎は、ほかの病気や妊娠、薬剤と関連して発症するといわれています。

関連する病気として、慢性甲状腺炎橋本病)を背景に発症することが多いとされていますが、バセドウ病の治療経過のなかでの発症や、クッシング症候群に関連した発症もみられます。

出産後2~6か月の女性に発症することも多く、これは“産褥性甲状腺炎”と呼ばれます。

また、特定の薬剤が誘因となり発症することもあります。悪性腫瘍(あくせいしゅよう)ウイルス感染に対して用いられるインターフェロンα、子宮内膜症の治療などに用いられるGnRH誘導体製剤、ん治療に用いられる分子標的薬などと関連して発症するといわれています。副腎皮質ステロイド薬の中止が関連する場合もあります。

症状

無痛性甲状腺炎では、炎症による痛みはみられません。甲状腺ホルモンが過剰になったり不足したりすることで、さまざまな症状がみられます。また、病気の時期(ホルモンの量)によって現れる症状は変化します。

初期には、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になります。動悸、手の震え、体重減少、汗をかく、体がほてる、イライラする、疲れやすくなるといった症状が現れることがあります。

その後、血液中の甲状腺ホルモン量が低下すると、甲状腺機能低下症の症状がみられます。この時期には、むくみ、体重増加、寒さを感じやすい、汗をかかない、疲れやすくなる、気力の低下などの症状がみられる場合があります。多くの場合は、この後に自然と甲状腺機能が正常化に向かうとされています。

一方で、これらの自覚症状が現れない場合もあります。

検査・診断

無痛性甲状腺炎の診断では、血液検査のほか、超音波検査や甲状腺シンチグラフィ検査などが行われます。病気の時期や患者によって行われる検査は異なります。

甲状腺毒症の時期の症状が似ているバセドウ病をはじめ、ほかの甲状腺の病気との鑑別が重要です。

血液検査

血液を採取し、甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの量を測定します。これらの結果を用いて、甲状腺ホルモンの状態の確認や、バセドウ病との鑑別を行います。

甲状腺シンチグラフィ検査

甲状腺のホルモン産生能力を調べる画像検査です。放射性物質を含む“ヨード(ヨウ素)”を投与して、甲状腺に集まる様子(摂取率)を観察します。甲状腺ホルモンはヨウ素を多く含むため、甲状腺の機能(甲状腺ホルモンがつくられている程度)を判断することができます。

無痛性甲状腺炎では、甲状腺の組織が破壊されているため、甲状腺の摂取率が低いとされています。一方で、バセドウ病はホルモンの合成が亢進しているため、摂取率が高くなります。

この検査は、甲状腺毒症の症状がみられる場合に行わることがありますが、甲状腺機能低下症の症状がみられる場合には行われません。

超音波検査

超音波を用いて、甲状腺の血流や炎症の有無などを確認します。無痛性甲状腺炎では、組織が破壊されることで、血流の低下がみられるとされています。

治療

無痛性甲状腺炎は、多くの場合自然に回復に向かうため、薬物療法などの特別な治療は行われないことが一般的です。

薬物療法が考慮される例としては、甲状腺毒症期の動悸や手の震えといった症状が強い場合に、それらを和らげる目的でβ遮断薬が処方されることがあります。甲状腺機能低下症の症状が強い場合にも、薬物療法が検討されることがあります。

なお、バセドウ病の治療に用いられる“抗甲状腺薬”は、無痛性甲状腺炎に対しては用いません。抗甲状腺薬は過剰なホルモン合成を抑制する薬剤ですが、無痛性甲状腺炎は甲状腺機能が亢進しているわけではないため効果がありません。また、服用による副作用が考えられるために用いてはいけないとされています。

最終更新日:
2025年11月06日
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2025/11/06
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

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