概要
無痛性甲状腺炎とは、甲状腺の細胞が破壊され、甲状腺ホルモンが過剰に血液中に漏れ出てきてしまう病気です。慢性甲状腺炎(別名:橋本病)や寛解(安定した)バセドウ病の経過中に発症することが多いとされる病気です。
一過性に甲状腺ホルモンが過剰な状態になるため、バセドウ病と類似した甲状腺機能亢進症の関連症状が現れます。バセドウ病は時間経過で自然軽快をすることはなく、内服薬による根本治療を行うことが求められます。しかし、無痛性甲状腺炎は時間経過と共に甲状腺機能亢進症状は改善します。したがって、無痛性甲状腺炎とバセドウ病の治療方針は大きく異なるため、両者を区別することはとても重要です。
原因
甲状腺は首の前方に位置する小さな臓器であり、甲状腺ホルモンを分泌するはたらきを持ちます。無痛性甲状腺炎は、甲状腺の細胞が破壊され、甲状腺内に蓄えられている甲状腺ホルモンが血液中に大量に漏れ出てしまうことで起こります。
出産後数か月以内やステロイドの治療中、インターフェロンの治療中、一部の抗不整脈薬の内服中に発症することもありますが、甲状腺機能が破壊される詳細なメカニズムは明らかになっていません。甲状腺ホルモンが体内に広く放出されると、甲状腺機能亢進症状を呈するようになります。破壊された甲状腺の細胞は時間経過と共に修復されるため、同時に甲状腺機能も正常化する可能性があります。
症状
無痛性甲状腺炎は、甲状腺の細胞破壊と共に血液中の甲状腺ホルモンが過剰に増加する病気です。細胞は破壊されていますが、基本的に甲状腺に痛みは生じません。一方、甲状腺ホルモンが過剰になるので、甲状腺機能亢進症状を呈するようになります。具体的には、次のような症状です。
- 脈が速くなる
- 心臓がドキドキする
- 疲れやすい
- 息切れがする
- 眠れなくなる
- 体重が減る
など
このような症状は、バセドウ病の症状と類似しています。無痛性甲状腺炎による甲状腺ホルモン過剰状態は、細胞の破壊をきっかけにしており、細胞が修復するにつれて甲状腺機能亢進症状は収束することになります。つまり、甲状腺ホルモン過剰状態が1~2か月ほど持続した後に状態は沈静化します。
治癒の過程で甲状腺機能低下を示し、体温低下などの症状をみることもあります。無痛性甲状腺炎による甲状腺ホルモン過剰症状は軽度の場合が多く、見逃されることも少なくないため、その後の一過性の甲状腺機能低下症で気付かれることもあります。なかには永続的に甲状腺機能が低下する方もいますが、多くの方は甲状腺機能が最終的に正常化する経過をとります。
検査・診断
無痛性甲状腺炎の初期は、バセドウ病と類似の症状が見られるので、症状(脈が速くなる、心臓がドキドキする、疲れやすいなど)や血液中の甲状腺ホルモン濃度を確認するのみでは、バセドウ病との区別ができません。
また、バセドウ病は自己免疫疾患としての側面があり、抗TSH受容体抗体(TRAb、TBII)やTSH刺激性受容体抗体(TSAb)と呼ばれる自己抗体を有しています。ときに無痛性甲状腺炎でもTRAbが陽性になることがあるため、鑑別に困難を伴うことがあります。
より明確に無痛性甲状腺炎を診断するためには、放射線性ヨウ素摂取率検査、あるいはテクネシウムの摂取率検査を行う必要があります。無痛性甲状腺炎の病初期では甲状腺の組織が破壊されていることを反映して、摂取率が低下していることが確認されます。また、甲状腺の超音波検査で、バセドウ病は甲状腺内の血流増加が確認されるのに対して、無痛性甲状腺炎では正常かむしろ低下していることが確認されます。
治療
無痛性甲状腺炎では、病初期における甲状腺機能亢進症状は一過性で済みます。バセドウ病は積極的な治療を必要としますが、無痛性甲状腺炎の治療は、甲状腺機能亢進に関連した症状に対する対症療法が中心になります。しかし、動悸や手足の震えなどが強い場合は、β遮断薬と呼ばれる薬剤が使用されることがあります。
多くの場合、時間経過と共に甲状腺機能の改善がみられますが、経過中に甲状腺機能低下症を発症する方もいらっしゃいます。その場合には、適宜甲状腺ホルモンの補充療法も検討されます。
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