概要
注意欠如・多動症(ADHD:Attention-deficit/hyperactivity disorder)とは、不注意(集中力がないなど)、多動性・衝動性(落ち着きがない、順番待ちができないなど)の2つの特性を中心とした発達障害です。また、“注意欠如・多動性障害”と訳される場合もあります。
ADHDの症状は7歳までに明らかとなり、幼稚園や学校生活のさまざまな場面で2つの特性による行動が確認されます。ADHDに関連した症状は短期間で消失するものではないため、学業や友人関係の構築に困難を覚えることがあります。
ADHDの症状は、学童期や成人になっても持続することが多いといわれています。決してまれではなく、男児のほうが女児よりも多い傾向があります。
なお、ADHDと自閉スペクトラム症は混同されることがありますが、両者は異なるものです。自閉スペクトラム症では、コミュニケーションおよび対人行動の障害と興味の限局や行動のパターン化が中心となります。
原因
ADHDの原因については、現時点では明らかになっていません(2020年11月時点)。ADHDとの関連が疑われる要因には、何らかの遺伝的な要素、妊娠期間中における喫煙やアルコールの摂取、ある種の化学物質、分娩前後で生じた脳への障害などがあります。
脳の機能が正常にはたらくためには、さまざまな物質が脳内で適切にはたらく必要があります。ADHDでは、脳内の物質のうちドパミンやノルアドレナリンの機能が低下していることが報告されています。ドパミンのはたらき方に関連する遺伝子の異常などがADHDの要因ではないかとの仮説もあります。しかし、そのような仮説によってADHDの原因の全てが説明できるかどうかは明らかになっていません。
症状
ADHDの主症状は不注意、多動性・衝動性の2つです。
不注意
集中力が持続しない、継続的に1つの物事に取り組むことができない、ミスやなくし物が多い、上の空になりやすいなどの症状が見られます。
本人は真面目に取り組んでいても、他者から見ると怠けている、すぐに物事を投げ出してしまうなどと思われるようになってしまいます。反抗心などによるものではありません。
多動性・衝動性
多動な子どもは、じっとしていることができずに絶えず動いています。たとえば、学校の授業を椅子に座って聞き続けることが困難であったり、貧乏ゆすりを繰り返したりします。
別の理由で医療機関を受診した際に、じっと椅子に座っていることができない様子からADHDの可能性を疑われることもあります。また衝動性が目立つ場合、どのようなことが生じうるかあまり深く考えずに、すぐに行動に移してしまいます。気になるものが目に入ると危険をかえりみずに突然道路に飛び出してしまったり、相手のことを考えずにパッと思いついた言葉を発して他人を傷つけてしまったりすることも起こりえます。
ADHDの症状は捉え方次第
ADHDに対する認識は、周囲がADHDの症状をどの程度問題と捉えるかによって変わります。
周囲が症状を問題と捉えない場合も、「努力をすれば克服できる」と考えるのか「その人の個性だから問題ない」と考えるのかなどによって、ADHDに対する認識は異なるものになります。認識の仕方を変えることで、ADHDの特性からくる症状の一部は肯定的に捉えることが可能となります。
検査・診断
ADHDを診断する際には不注意、多動性・衝動性を確認することが大切です。医療者には行動観察を行い、過去の話をしっかり聞いて紐解いていく姿勢が求められます。学童期以前からADHDの特性がみられたかどうかの確認も行われます。補助的に心理テストなどを用いながら診断していきます。
脳血管疾患、脳腫瘍、てんかんなどの病気がある場合にも不注意、多動性・衝動性がみられることがあるため、画像や脳波などの検査でこれらの有無を確認することもあります。
治療
ADHDに限らず発達障害のある人全般に対する支援の軸は、その人たちが生活しやすい社会環境を作ることです。ADHDの人を支援していくために、まず本人も周囲も特性をよく認識し、特性との上手なつき合い方を考えることが重要です。
ADHDの治療では、たとえば学校の課題などにどのように取り組んでいるかを観察し、上手くできていたこと/よくなかったことなどのフィードバックをしつつ、丁寧に取り組み方を教えます。ときには報酬を与えながら行うこともあります。
そのほか、順番の待ち方やおもちゃの共用の方法などを教えることもあります。焦らずに根気よく丁寧に教えていく必要があります。
ADHDのある人は、周囲から孤立する、認められないといった感情を持つことがあり、自尊心が低下しがちです。このような感情を防ぐためには周囲の理解が必要です。
そこで、周囲の人たちを対象とした心理教育的な支援も行われます。ADHDの人と周囲の人たちがADHDへの理解を深めることで自尊心を保つことが可能になります。また、お互いにストレスをため込まず、ポジティブな関係性を構築することができるようになります。
ADHDに対する薬物療法
学童期以降には必要に応じて薬物療法が行われます。症状が強く、また環境整備による支援・治療を行っても生活の中で問題が多く残る場合、慎重に処方を検討します。
医師の方へ
ADHDの概要、診断方針、治療方針をまとめて確認することができます。
「ADHD」を登録すると、新着の情報をお知らせします