インタビュー

ADHDの検査と診断―セルフチェックは有効?

ADHDの検査と診断―セルフチェックは有効?
門田 行史 先生

自治医科大学附属病院 とちぎ子ども医療センター 准教授

門田 行史 先生

この記事の最終更新は2017年11月24日です。

ADHDの検査は、問診を中心にさまざまな検査が行われます。多くは時間をかけて検査していきますが、それはADHDの症状である衝動・多動・不注意そのものは誰にでもあるもので、正常な範囲との鑑別に時間を要するためです。ADHDの検査の種類や内容、診断基準などについて、国際医療福祉大学病院 小児科 部長・准教授の門田 行史先生にお話をうかがいました。

ADHDの検査は

  • 問診
  • 心理検査
  • リハビリ評価

の3つに大別されます。このなかでも特に重視されるものが問診です。

ADHDが疑われる方や、保護者への聞き取りではADHDの診断に重要な情報が多く得られます。まずは、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)による診断基準に書かれている内容に沿って問診を進めます。

問診を進めるうえで重要なポイントは以下の2点です。

  1. 年齢不相応な行動が幼少時から持続してみられるか
  2. その症状により、生活に支障があるか

ADHDの診断のポイントについて、詳しくは本記事の『リハビリ評価―発達協調運動障害の診断』を参照ください。

本人や保護者から家庭や学校、職場での様子や、幼少時からの傾向などについて話を聞きます。本人や保護者の記憶のほか、以下のものがあると診断の役に立ちます。

<問診時に持参するとよい持ち物>

  • 成績表
  • 連絡帳
  • 保護者の育児日記
  • 母子手帳(乳児期の発達記録)
  • 内服している薬(二次障害の合併など)
  • 本人が書いた字や絵

症状を知るために、ADHDの症状などに関する下記のチェックリストの記入をお願いすることがあります。

子どもの場合(保護者が記入)

  • AQC(The Autism Spectrum Quotient: Children's Version )
  • ADHD-RS
  • QCD(Questionnaire-Children with Difficulties)
  • SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)

成人の場合(本人が記入)

  • ASRS-v1.1

ADHDでは、

  • 発達・知能検査
  • 心理検査

を行うことがあります。これらの検査で直接ADHDかどうかがわかるわけではありませんが、ADHDであるかどうかを間接的に知る手がかりになります。また、併せてそのほかの発達障害との合併を知るための検査を実施することもあります。

発達・知能検査

発達・知能検査には次の種類があります。

  • 遠城寺式乳幼児分析的発達検査新版K式発達検査
  • 田中ビネー知能検査V
  • 児童向けウェクスラー式知能検査(WISC)
  • DN-CAS
  • K-ABCI

これらは主に年齢や発達の段階に合わせて使いわけます。

心理検査

他の発達障害の有無や鑑別のために実施される心理検査があります。検査は多岐にわたりますが、代表的なものは次の検査です。

  • ADOS-2・ADI-R(自閉症スペクトラムの診断テスト)
  • MSPA(さまざまな発達障害の症状を包括的に多軸評価)

など

リハビリ評価では、作業療法士がADHDの疑われる方の運動機能をチェックします。

ADHDの患者さんの約半数が手先や運動感覚の不器用さとなって現れる発達性協調運動障害を併発するといわれます。

具体的には以下の症状が日常生活に現れます。

  • 手先が不器用である
  • 筆圧が薄い・濃い
  • 枠からはみ出して字や絵を書いてしまう
  • 着替えが遅い・難しい
  • ボール遊びやスキップが苦手 など

ADHDを疑ったとしても、他の神経疾患である可能性があります。他の神経疾患でないことを明らかにするために、

  • MRI
  • 脳波の測定
  • 血液検査
  • 尿検査

といった各種身体的検査を実施することがあります。

ADHDは、定型発達児と比べて脳機能の変化があるといわれます。特に行動抑制障害(多動症状に関与する)や注意力低下(不注意症状に関与する)に大きく関与する右前頭前野の機能低下が指摘されています。

そこで、光トポグラフィーという体への負担がまったくない脳機能イメージング検査で、行動抑制・注意力ゲーム時にADHDの患者さんの脳の血流を計測すると、通常であれば右前頭前野の血流が増えるところ、ADHDの患者さんでは血流の増加がみられません。

光トポグラフィー検査はADHDの多動・衝動性・不注意症状(落ち着きがない、我慢できない、忘れ物が多い、等)をおよそ80%の精度で見わけることができます。

以上から、ADHDの症状である多動性や衝動性は、しばしば定型発達のなかの「子どもらしい活発さ」や、「躾の問題」と見分けがつきません。しかし、光トポグラフィー検査によって、安全に、そして客観的にADHDを可視化することができます。

光ポトグラフィー検査
光トポグラフィー検査での計測風景(門田行史先生 提供) 
光ポトグラフィー検査
光トポグラフィー検査の活用(門田行史先生 提供)

 

光ポトグラフィー
光トポグラフィー検査を活用したADHD児の脳活動の研究結果(門田行史先生 提供)

ADHDの脳機能研究や子育てのコツなどを幅広く紹介している、門田先生の研究室のHPについては以下を参照ください。

門田研究室HP 

ADHDの診断までにかかる日数は、個人によってさまざまです。診断に十分な情報が初診の段階でそろっていれば初診で診断される場合もありますし、合併症がある場合や多方面(教師、保護者など)への問診に時間を要する場合だと数か月から半年程度かかることもあります。

ただし、下記のケースでは日常生活に大きな支障が出ていることから、急いで診断、または症状に応じた治療を優先する必要があります。

  • 重度のADHD
  • 自傷や他害が生じている場合
  • 二次障害が生じている

(自尊心の低下から「どうせ僕/私なんか・・という発言が増える。失敗を隠すために嘘をつく、など。眠れない/朝起きられない、登校を渋る、ストレスによる腹痛や頭痛、吐き気の症状があるなど)

大人と子どもで大きく検査内容は変わりませんが、大人はインターネットなどで公開されているセルフチェック(ASRS-v1.1)を持参することがあります。

子どものADHDについて詳しくはこちら『子どものADHD症状にはどう対応する? 年齢別の症状と対応』

製薬会社などが公開しているADHDの啓発サイトなどにある、ADHDのセルフチェックは、有用なものです。しかしセルフチェックはあくまで主観的な検査に過ぎず、医学的知見をもとに確実にADHDであるかを判断するには医師の診断が必須です。

本人がADHDのような症状で日々の生活や対人関係において困難を覚えている場合は、医療機関を受診することをおすすめします。

子どもであれば小児科、成人であれば精神科が、ADHDの診療を担当しています。まずはかかりつけの医師に相談してみましょう。

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  • 自治医科大学附属病院 とちぎ子ども医療センター 准教授

    門田 行史 先生

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