インタビュー

注意欠陥・多動性障害(ADHD)への支援と治療―周囲はどのように接すればよいか?

 注意欠陥・多動性障害(ADHD)への支援と治療―周囲はどのように接すればよいか?
本田 秀夫 先生

信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室 教授

本田 秀夫 先生

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    この記事の最終更新は2016年07月19日です。

    ADHDの方の生活を支援し、治療していくためには「環境の調整」「周囲からの支援」「本人への薬物治療」という3つの観点からみていく必要があります。周囲はADHDの方の症状を特性や個性として理解し、そのうえで接していくことが重要です。信州大学医学部附属子どものこころ診療部 診療教授の本田秀夫先生に伺いました。

    ADHDは、不注意(集中力のなさ)、多動性(落ち着きのなさ)、衝動性(順番待ちができないなど)の3つの要素を中心とした発達障害のことです。

    ADHDと自閉症スペクトラムは混同されることが多くありますが、自閉症スペクトラムではコミュニケーションや対人行動の異常が中心となり、両者は異なるものです。

     

    ADHDの症状には、上記のように不注意・衝動的な行動・多動症状が挙げられます。

    ADHDの症状を考える場合、周囲がそれを問題とするか否か、また問題としない場合は「努力をすれば克服できる」と考えるのか「その人の個性だから問題ない」と考えるのかによって、ADHDに対する認識は異なってきます。

    たとえば下記のように、ADHDで想定される否定的な特徴を肯定的に考えてみましょう。

    • 落ち着きがない→好奇心旺盛
    • 時間にルーズ→肝心なときは遅刻しない
    • 挫折する→発想は豊か
    • 姿勢が悪い→話は聞いている
    • 努力しない→いざというときには力を発揮する

    このように考えることで、ADHDの特徴を否定的な見解から肯定的な考えに転換することができます。

    人物評価の際は全般にいえることですが、ADHDを支援する際は、このように彼らの裏側に潜む良い面をみつけることが非常に大事になります。

    ADHDに限らず発達障害のある方全般に対する支援の軸は、彼らが生活しやすい社会を作る点にあります。ADHDの方を支援していくために、まずは本人も周囲も特性を受け入れ、特性との上手なつき合い方を考えることが最も重要です。

    具体的には生活環境、本人、周囲という3つの観点から考えていきます。

    ADHDの支援と治療にあたっては、環境調整と薬物療法というふたつの方法があり、これらを使い分ける必要があることを知っておく必要があります。

    たとえば、ADHDでケアレスミスが多いため、精密な機械を扱う仕事がうまくできない方がいるとします。このような場合、適切な判断は思い切って仕事を変えることなのか(環境調整)、ADHDの方がケアレスミスをなくすように働きかけることなのか(薬物療法)の見極めが重要になってきます。

    ◎環境調整とは? ADHDという特徴に合わせて環境を変える

    環境調整では、ADHDという特性に合った環境を見つけていくため、先ほどの例では「転職」という選択肢が挙がります。この場合、本人への身体的なリスクは少ないものの、どれだけその方が精密機械を扱う仕事がしたいと思っていても、その願いは叶わなくなってしまいます。

    <環境調整の特徴と課題>

    ・特徴:環境を個体側に合わせる

    ・課題:その人たちの希望通りの適応水準は必ずしも保障できない

    ◎薬物療法とは? 環境に適応するためADHDの症状を改善する

    薬物療法では本人を周囲の環境に合わせるため、薬物を投与して症状を改善していきます。本人の能力が改善する可能性が高まりますが同時に副作用のリスクもあります。また、全ての方に効果があるとは言い切れません。

    <薬物療法の特徴と課題>

    ・特徴:個体側を環境に合わせる

    ・課題:副作用のリスクがある、ただし全ての人に有効とは限らない

    ※薬物療法の詳細は後述

    周囲によるADHD支援の目標は「完璧であることを求めすぎない」ことです。

    ADHDの方にとっては「物事を速くこなす」「物事を正確にこなす」といったふたつ以上の課題を両立して遂行するのが非常に難しく、この場合はスピードか精密性のどちらかを取るという選択になります。周囲はこういったADHDの特性に慣れ、彼らの自信を喪失させないように接していく必要があります。

    基本的にADHDの方は未来志向であり、根拠はないけれどもいざとなればできるのだという自信を持っています。実際、コツコツと取り組むことは苦手だけれども、いざというとき多大な力を発揮する場合があります。

    普段はケアレスミスや忘れ物が多く、仕事や勉強のパフォーマンスが低くても、本人が満足していて十分幸せならば、周囲がそれ以上のパフォーマンスを求める必要はありません。むしろ、周囲が叱責し過ぎて自信を失わせないようにしましょう。ADHDの支援に対しては「コツコツよりも一発勝負」「前もってよりもギリギリセーフ」を意識することが大切です。

    以下に具体的な面から支援の工夫の仕方をご説明していきます。

    ●ADHDの方が人の話を聴くときの姿勢にこだわらないようにする

    ADHDの方は一定した姿勢で話を聴くことが苦手な傾向にあり、しばしば注意を受けます。しかしADHDの方の場合、姿勢が悪いときこそ話に集中している可能性があるのです。周囲に注意されて姿勢を正すことに意識を向けてしまうと、今後は人の話を集中して聴けなくなってしまいます。

    この場合、本当に大事なことは話を聴いているかどうかであり、姿勢よく聴くことが本来の目的ではありません。私たちは、姿勢が悪い状態は不真面目な証拠だと思いがちですが、ADHDの場合はそうではないことを知っておき、話が聴けているならば姿勢にはあまり注意をしないよう意識するとよいでしょう。

    ●ADHDによる不注意症状をみる際―ミスを前提に考えて「完璧」は求めない

    人間であれば誰でもミスをしますし、ミスを完全になくすことは無理な話です。

    ADHDの方は集中力が途切れがちであり、細かなミスを比較的多くしてしまいますが、周囲は「ミスは必ず起こるものだ」という前提で接し、ミスをしても咎めないようにしましょう。勿論、いつもよりもミスが少ないときは喜ばしいことであり、喜んでいただいて問題ありません。ただしそれは偶発的な結果であり、これからはミスが減っていくだろうとは考えないようにします。

    ●時間にルーズなADHDの方への支援―優先順位をつける

    繰り返しますが、ADHDの場合ではふたつのことを両立して対応することが難しくなります。そのため、「時間を守ること」と「取り組んだ物事の結果を出すこと」のふたつを同時に実現させることは困難です。この場合、「時間を守る」「いい結果を残す」のどちらを優先すべきかを考えてみましょう。

    与えられている内容が結果重視の場合は、取り組んでいる仕事や勉学の遂行に専念してもらいます。一方、時間を守ることが優先される場合はタイムキーパーを置き、タイムキーパーが時間厳守の役割に専念してしっかりと時間を守るよう管理しましょう。

    ●ADHDの特性である衝動性を誘発しない工夫

    ADHDの方は悪気なく不注意になったり、衝動的に行動したりします。本人に悪気がなくても、注意が逸れてそれまでしてきた作業を中断してしまうことがあるのです。

    私たちは何らかの作業をしながら話をすることがありますが、ADHDの場合はふたつのことを同時並行で行うことが難しく、雑談のために本来やるべき作業がおろそかになってしまう場合があります。周囲の方は、ADHDの方と一緒に何らかの作業などをしているとき、業務に関係しない雑談は極力控えましょう。

    ADHDの薬物療法は基本的に学童期以降に適応され、幼児期では原則的に薬物療法は行いません。

    学童期以降の方で以下のような症状が著しく現れ、かつ環境整備による支援・治療を行ってもなお症状が残った場合のみ薬物の投与が行われることがあります。

    <薬物療法を検討する場合がある症状>

    ・ADHD特有の行動の問題

    ・二次的な精神的変調(ADHDの症状が要因となって発症したうつ、不安障害など)

    睡眠障害

    なお、ADHDの治療薬には、ノルアドレナリンやドーパミンの働きを高める薬(メチルフェニデートやアトモキセチン)が用いられます。

    関連記事:「発達障害への精神科治療―カウンセリングと薬物療法」

    ADHDの治療は、単に症状をなくすことのみが目的ではなく、ご自身がADHDであることを理解して受け入れ、自信を取り戻す(失わせない)ことも目的になります。自信の回復によって学校や職場との関係が好転し、ADHDの方が充実した生活を送っていけるようになることが最大の目標といえるでしょう。

    そのためにも、周囲はADHDの特性を個性として認識し、ADHDの心理的な特性に即した目標設定と環境調整を行っていくことが重要です。

    関連記事:「自閉症スペクトラムの方への支援―子どもの頃からの継続的なサポートが重要」

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