インタビュー

「特性」としての学習障害―学習障害の人が勉強や仕事をするとき本人と周囲が意識すること

「特性」としての学習障害―学習障害の人が勉強や仕事をするとき本人と周囲が意識すること
本田 秀夫 先生

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授

本田 秀夫 先生

学習障害は発達障害のひとつであり、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラムとは分類が異なり「読む」「書く」「計算する」などの能力が一つ以上著しく困難な状態を指します。学習障害では学校での勉強や一部の仕事に影響が生じることもありますが、様々な工夫や本人の積極的な働きかけによってその影響を和らげることが可能です。「学習障害は個性の一部である」とおっしゃる、信州大学医学部附属子どものこころ診療部 診療教授の本田秀夫先生に伺いました。

学習障害とは。定義は特定分野が困難になる発達障害のひとつ

学習障害とは、基本的には全般的な知能発達に遅れがないものの、「聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する」能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指します。

学習障害のタイプと分類

●読字障害(ディスレクシア)

読字障害は、読むことが苦手な人たちのことを指し、「文字とその文字が表す音とが一致・対応し難く、勝手読みや飛ばし読みが多い」、「音読作業と意味理解作業が同時にできないため読み書きに時間がかかる」などの特性が挙げられます。

●書字表出障害(ディスグラフィア)

物を書くことが困難な学習障害です。文字が読めても書けなければ、書字表出障害に分類されます。

書字表出障害では、自分では間違っている認識がなくとも左右が反対になってしまったり、誤字脱字が多くみられたり、文字の大きさに均一性がなくノートの罫線に沿って書けなかったりします。

●算数障害(ディスカリキュリア)

数字・数式の扱いや単純計算が困難なタイプの学習障害です。

一般的な「算数が苦手」ではなく、1・2・3といった基本的な数字や計算式の認識も難しく、また数字を揃えて記述することも苦手な傾向にあります。

学習障害は何歳で診断されるのか―学習障害が発覚する時期

学習障害と確定診断がつく時期は、通常は小学校2年生(7~8歳)以降です。近年では、就学前後に学習障害を早期診断する試みも行われています。

学習障害を疑う場合はどこに相談すればいい?

就学前の幼児の場合、市町村(健康増進課や保健福祉センターなど)が相談機関として挙げられます。母子保健担当の部署には保健師が配属されているため、まずは相談に行ってみるとよいでしょう。

一方、小学校以上の比較的大きな子どもの場合は、教育委員会や病院に相談されるとよいでしょう。

学習障害の子どもの場合、勉強方法の工夫には何があるのか

学習障害では、読み・書き・算数ができないということだけでなく、学習障害が学校生活や社会生活のうえでどれだけ支障をきたすか、つまり本人が学習障害によってどれだけ困っているかが問題の大きさの指標になるといえます。本人が障害によって困っている場合は、その点を改善する工夫が求められます。

◎学習障害の子どもの勉強ではその子どもが「できたこと」を評価する

学習障害の方が勉強に取り組む際は、学校の先生に相談しながら、子どもの特性に合わせた方法を考えていく必要があります。

ある程度学習障害への理解が進んだ現在でも、学習障害や勉強が不得意な子どもに対する教育方針には古典的な考え方が残っています。たとえば漢字が書けない子どもに対して、一部の学校では「他の子どもの何倍も大量に書き取りの練習をすれば書けるようになる」「繰り返し練習をすればできるようになる」と考えているのが現状です。しかし、これではかえって学習障害の子どもが自信をなくしたり、その教科が嫌いになってしまったりします。

学習障害の子どもに勉強を教えるときはスモールステップでの成長を意識して、小さな成功や本人の努力を認めて褒めてあげることが、子どもの自信や意欲の向上につながります。

たとえば書字表出障害の子どもの場合は書き順を間違えてしまうことが多くありますが、「書き順が間違っていても文字の形があっていれば問題ない」と大きく構え、字を正しく書けたら褒めてあげることが大切です。

また、学習補助具を活用することも学習障害の子どもの勉強をサポートする一つの手段です。例えば算数障害の子どもは、無理に九九を覚えなくても電卓を使えば計算できることがあるため、電卓の使用を許可するなどの工夫が求められます。

◎学習障害の子どもの苦手分野をどこまで教えるべき?

苦手分野においては、「苦手だから丁寧に教えていく」のか、「一定のところでひと段落し、別の科目を教えていく」のかというさじ加減が非常に難しい点だといえます。指導側は、学習障害の子どもが勉強のどの部分に困っているのかを考えて、別の学習方法を検討するのが適切か、あるいはいったんその教科から離れることが適切かという判断をすることが求められます。

繰り返しになりますが、その子が苦手とする分野に対して無理に努力を強要したり追い詰めたり、叱責することは控えましょう。

学習障害の子どもに対する支援制度―合理的配慮とは?

改善すべき点はあるものの、わが国における学習障害への法的・制度的な支援策は近年かなり充実してきました。特に2016年からは、障害に対して何らかの配慮をすれば通常の方と同様に参加可能である場合は、積極的に支援を行わなければならないという法律が制定されているのです(障害者差別解消法といいます)。

たとえば読字障害の方がセンター試験を受験する場合、障害の申請により、別室で問題を読み上げる特殊な試験を受けることができます。このような配慮を「合理的配慮」といいます。

通常のセンター試験では書面になった問題を読み、マークシートを塗りつぶして回答しますが、読字障害の方は問題を読めないため回答できません。しかし、文字さえ読まなくて良いならば問題を解ける場合があります。そのため、文字を読まず音声で読み上げてもらう方式の試験を受ければ、一般の受験生と同様に試験を受けることができるのです。

国の公的な支援制度「DAISY」―教科書の文字を音声にして伝えるシステム

文部科学省では、「DAISY」という情報システムを提供しています。

DAISY(Digital Accessible Information System)とは、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセットに代わるディジタル録音図書の国際標準規格として、

約50ヵ国の会員団体で構成するデイジーコンソーシアムにより開発と維持が行なわれているアクセシブルな情報システムです(DAISYより引用)。

このシステムでは、学校の教科書をPCに取り込んで音声化することができます。学習障害の子どもは、ディスプレイに映し出された教科書の画面の文字に沿って流れてくる音声を聞きながら授業を受けます。

*DAISYのホームページはこちら

学習障害の大人の場合、仕事への影響は?

学習障害の程度によるものの、工夫の仕方によっては円滑に仕事をすることが可能です。

学習障害の方が仕事をする際は、自分にはどうしても苦手な領域と、工夫すればできる領域のふたつがあることを理解したうえで、どれだけ積極的に自分の障害をカミングアウトできるかが重要になってくると考えます。

大人になって学校の勉強から解放されると、読み・書き・計算が苦手でもあまり支障のない環境で働くことで障害が目立たずにすむケースも多くあります。しかし、たとえば読字障害の場合、会社の資料が読めないといった問題が生じることがあります。

日本人は識字率が高く、ほとんどの方が文字を読むことができるため、読字障害の方は字が読めないことに対して非常に大きなコンプレックスをもっています。このため、文字が読めない・書けないということを隠してしまうことがあります。つまり、本当は文字が読めないものの、読めるように振る舞いながら仕事をするのです。実際、そのような形で仕事を続けている方もいらっしゃいます。

コンプレックスを抱えたまま仕事を遂行することは心理的な負担につながります。よりよく仕事を行うためには、自分から積極的に自らの障害を提示し、自分が理解できるような形で仕事を進められるよう会社に訴えていけるかどうかが重要になってくるでしょう。また、このような特性をもつ人が時々存在するということを理解し、適材適所で活用できるような社風の会社がもっと増えるよう、もっと啓発していく必要があります。

「学習障害だから仕事ができない」ということはない

学習障害に限らず、現代の日本社会は学校の勉強を重視する傾向にあります。

とはいえ、勉強が苦手であったすべての人が、社会で仕事ができないということはありませんし、学校で勉強がよくできたすべての優等生が、優秀な仕事ができるということもありません。

学校は成長していくうえでの通過点に過ぎず、学習障害の方の将来は学校の勉強の出来では決まらないということを知っておきましょう。

学習障害は個性の一部である―本田秀夫先生からのメッセージ

学習障害とはその人がもつ能力やキャラクターのなかにある「個性」や「特性」の一部です。ですから学習障害であることに劣等感を感じたり、学習障害だから何もできないと思ったりする必要はありません。発達障害ではない方と同様に様々な将来の可能性があります。

学習障害であることや自分の苦手な分野に意識を向け過ぎず、「字は読めないけれど別のことはできる」という確固たる自信を持っていただきたいと願います。

たとえば文字が読めない場合でも、他の様々な手段を使って読字障害を補完できます。どのように機能を補完していくかということを周囲の人と相談しながら考え、よりよい生活を送るために工夫していきましょう。