概要
摂食障害は、食行動を中心にさまざまな問題が生じてくる病気です。単なる食欲や食行動の異常ではなく、体重に対する過剰なこだわりや、 自己評価に対する体重・体形の過剰な影響など、心理的要因が根底に存在していることが特徴です。摂食障害のなかには、コントロールを失って短時間のうちに大量に食事摂取を行う「神経性過食症」や、低体重でありながら自分自身の体形に対して太っているという歪んだ認識をもつ「神経性食欲不振症」が含まれます。
摂食障害のことを食事の食べ方の問題であるかのように捉えては、病気の本質を見失ってしまいます。たとえば、神経性食欲不振症の患者の場合、無理に食べさせるだけでは治療は奏功せず、かえって病態を増悪させることがあるため注意が必要です。
原因
摂食障害は、何か1つの原因によって発症するものではありません。社会・文化的要因や心理的要因、さらに生物学的要因が重なって起こる多因子疾患と考えられています。なぜ摂食障害になる人とならない人がいるのか、その理由は明らかになっていません。
現代の日本において、やせ願望を持っている若い(10代~20代)女性は多く、ダイエットをきっかけに摂食障害を発症することが多くみられます。しかし、ダイエットをするす全ての人が摂食障害を発症するわけではありません。ダイエット以外にも、「受験で失敗した」「進学したら成績が落ちた」など、生活のなかで自信を失うような場面(挫折体験)や強いストレスを感じる状況に遭遇したとき、摂食障害を発症することがあります。そのほか、家庭環境の問題、性的被害によるストレスなども契機となることがあります。根源的問題として、不適切な自己評価や対人関係をめぐる葛藤や心理社会的なストレスが裏に潜んでいると考えられています。
症状
摂食障害の患者は、「体重が増えるのが恐い」という偏った感覚を持っているため食事摂取が安定してできなくなります。摂食障害のなかでも神経性過食症の場合は、短時間のうちに大量に食事摂取を行いますが(むちゃ食い)、肥満恐怖が背景にあるために代償行為として自分で意識的に嘔吐したり下剤を使ったりしてやせるように対処する傾向がみられます。神経性食欲不振症の場合は、自分自身の体型に対して歪んだ認識を持つことから、標準体重を大きく下回っている状況でも、まだまだ太っていると認識してしまう傾向がみられます。時には生命が危ぶまれるほど極端な体重減少に至ることも少なくありません。
また、摂食障害では、うつ状態を伴うことがしばしばみられます。特に神経性過食症においては、過食・自己嘔吐といった異常な食行動に伴う自責感・罪悪感から、自殺企図につながることがあります。
さらに身体的には、電解質異常、肝機能障害、腎機能障害などの異常所見を呈することがあります。神経性過食症の場合は、自己嘔吐に続発する誤嚥性肺炎を発症することがあります。神経性食欲不振症の場合は、低カリウム血症、低血糖、低血圧、そして低体温などが起こることがあります。こうした身体的な異常は不整脈や低血糖などの合併により命にかかわることがあります。
検査・診断
摂食障害を断定できるような特異的な検査はなく、詳細な問診と身体診察が重要となります。問診では、生活歴や養育歴を聴取したり、ボディーイメージや体重増加に対する本人の認識や食行動について確認します。また、体重と身長から計算する体重・体格指標(Body Mass Index:BMI)は、摂食障害を診断する1つの指標となります。
身体状況を評価するためには、検査も行われます。血液検査を通して電解質異常や肝機能・腎機能障害、低血糖・糖尿病の有無などを評価します。そのほか、神経性食欲不振症の場合は、体重減少をきたす他の身体疾患を除外するための検査が行われることがあります。内分泌代謝系疾患、たとえば、甲状腺機能亢進症ではやせ症状が現れることがあるため、これを除外するために、血液検査にて甲状腺機能や自己抗体の測定が行われます。また、まれにですが卵巣がんやスキルス胃がんなどの悪性疾患が原因でやせをきたす場合もあるため、身体疾患の除外診断は大変重要です。
治療
摂食障害の治療は、食行動の是正、適切な体重維持、月経の回復、そしてその背後にある偏った考え方(不適切な自己評価が体重・体形や摂食行動に過度の影響を受けていること)の修正や心理面の改善などを目標として行われます。ご家族の協力を得ることで治療がスムーズになることが期待されるため、医療者と患者のみではなく、家族が治療に参加することが大変重要です。
摂食障害で行われる治療には「対人関係療法」、「力動的精神療法」、「認知行動療法」、「家族療法」などがあります。最近では、摂食障害に焦点化された認知行動療法の一種である「強化型CBT(enhanced cognitive behavior therapy=CBT-E)」を用いた外来通院治療がとり入れられるようになっています。
いずれにせよ、発症のきっかけとなった状況や患者が抱える問題背景は個人によって大きく異なるため、それぞれの問題点と課題を見極めつつ、一人ひとりの心に寄り添った適切な支援と治療が求められます。
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