インタビュー

神経性食欲不振症(AN)の治療は? 規則正しい食生活を身につける

神経性食欲不振症(AN)の治療は? 規則正しい食生活を身につける
津久井 要 先生

港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長

津久井 要 先生

この記事の最終更新は2015年08月02日です。

「食事」は、誰もが毎日当たり前に行う行為です。
人間の三大欲求にも含まれている「食事」は、私たちが生きていくうえで欠かすことのできない本能的行動です。しかしその食事、すなわち「食べること」がうまくできなくなってしまうのが、摂食障害(神経性食欲不振症(AN)・神経性過食症(BN)という病気です。このうち、神経性食欲不振症はどのように治療するのでしょうか。また、治る病気なのでしょうか。横浜労災病院心療内科部長であった津久井要先生(現港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長)にお話をお聞きしました。

定期的(週に一回程度)に体重を測るとともに、薬物や精神療法、場合によっては栄養補給剤などを用いて治療します。
また家族の理解と協力も神経性食欲不振症の治療には不可欠です。なぜなら、神経性食欲不振症の患者さんは心理的に強い不安を抱えていることが多く、誰かに助けを求めているケースがほとんどだからです。特に家庭環境不全のなかで育った患者さんは、自分が病気になることにより自らの問題を抱えた家庭環境を具現化しているとも言われています。このようななかで、家族の理解と協力があれば、治療は非常にスムーズにいくはずです。

またあまりにも低体重の場合(例えば体重が30kg以下)は、入院加療して中心静脈栄養(IVH)や経鼻胃管による栄養剤の注入方法もとられますが、横浜労災病院では基本的に経口的に食事を3食、規則的な時間に摂取し、少量から段階的に増量させていく方法をとります。IVHは傷口から感染症などを合併してしまう恐れがあるうえ、飢餓状態に適応してしまっている患者さんにいきなり高カロリーな輸液をしてしまうと再栄養症候群といって急にむくみが生じたり、心不全をおこしたりする可能性があるため、積極的には使われていません。しかし、どうしても口から食べることが難しい患者さんに対しては、一時的に経鼻胃管で栄養を補給することもあります。

神経性食欲不振症の患者さんには食事摂取に対する種々の心理的抵抗(必ず半分は残してしまう、白いご飯や揚げ物がどうしても食べられないなど)が出現しますが、治療者はその際の患者さんの不安内容、考えや気持ちを丁寧にヒアリングしていき、最初は一日400~800キロカロリーから始めるなど、治療者には食事摂取による肥満恐怖を徐々に取り除いていく作業(簡単に体重は増えないことを確認していくこと)が求められます。

かつては、行動制限療法という治療方法がとられていたこともありました。これは、「体重が30キロになったらポータブルトイレで用を足してもいい、33キロになったらお風呂に入ってもいい」というように、一定の目標体重をクリアするごとに行動規制を解除していくというものです。しかし、経口摂取再開時はむくみで体重が増えることも多かったり、逆にむくみが取れる時期ではしっかり食べても体重が増えなかったりなど、患者さんの努力と体重が必ずしも正比例しないことが少なくため、横浜労災病院では最近はあまりおこなわれていません。  

神経性食欲不振症そのものを治す特効薬は、現在のところありません。ただし、不安感や抑うつ感などの二次症状を和らげるため、選択的セロトニン取り込み阻害剤(SSRI)や抗精神病薬が使用されることがあります。
統合失調症双極性障害に広く使用されている非定型抗精神病薬(オランザピン等)には病的な肥満恐怖の軽減効果が報告されています。ただし非定型抗精神病薬は食欲や体重増加の副作用があるため、投薬には慎重な判断が必要です。
他には胃薬や緩下剤なども補助的な役割で併用されます。ただし下剤は患者さんが乱用する場合もあるので、慎重に投与します。

前述したように、短期間で急激に体重が減少したり、著しい低体重が見られたりする場合は入院加療して体重を一定値まで戻すことが必要となります。

  • 著明な、もしくは急激な体重減少が認められる
  • 外来治療努力にも関わらず体重増加がない、あるいは、むちゃ食い/嘔吐/下剤乱用が持続している
  • 重篤な身体合併症(低カリウム血症、心臓異常所見、糖尿病の合併)がある
  • 重篤な精神疾患の合併を伴っている(うつ病強迫性障害境界性パーソナリティ障害、自傷行為など)
  • 治療環境として問題のある家族環境あるいは心理社会的に不適切な環境である

それに伴い、入院時に「認知行動療法」が行われる場合もあります。
認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方に働きかけて、患者さんの気持ちや行動をより適応的な方向に修正し、徐々に患者さんが抱えている心理的な諸問題を取り上げ、本人に認知してもらう医療行為です。
私たちは、強いストレスを受けているときやうつ状態に陥っているときなど、特別な状況下では認知に歪みが生じてきます。その結果、抑うつ感や不安感が強まり、非適応的な行動が強まり、さらに認知の歪みが引き起こされるようになります。認知行動療法では、神経性食欲不振症患者さん特有の認知の歪み(抑うつ感や不安感、自分はまだ太っているという思い込みなど)を取り除いていく介入が行われます。

ただし、実際、心理療法の適応や効果を得るためには、ある程度の体重回復を待って行うことが前提とされます。

神経性食欲不振症の患者さんは、そのまま回復する患者さんと、神経性過食症に移行する患者さんが大体半々程度います。ただし、神経性食欲不振症の患者さんの心理ベースには何らかの恐怖感や不安・ストレス耐性の弱さが存在しており、身体イメージの歪みも完治することは困難なため、再発する可能性もゼロではありません。一般的にはうつ病よりも治りにくいといわれています。

ただし、体重が標準体重の80%を超え、社会活動が円滑に進められるようになった患者さんについては、私はあまり深追いしないことにしています。そもそも摂食障害を発症する年代の患者さんは、世代的にも今後の未来を背負っている方が多いため、あまり通院や治療に時間を費やさないというのが私のポリシーです。
なお、摂食障害の治療には少なくとも1年以上、一般に4~5年以上の時間を必要とすると報告されています。

神経性食欲不振症の治療後の経過については、軽度で一過性のものもあれば、重篤で長期的なものもあります。日本の調査では、初診後4~10年経過した患者さんを調べたところ、47%が全快、10%が部分回復、慢性化36%、そして死亡7%です。

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